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15 勃発
しおりを挟む北部のテロリストを殲滅し、アシルが城に帰還したと言う。
耳にしたオデットは「あっそう」と感想を結んだ。
「生還したならとっととハネムーンを仕切り直せよ。放置妻が煩いんだよ」
噂をすれば。放置妻もとい元伯爵令嬢アンドレが柱廊を駆けていく。
「やっとお戻りだわ! アシル王子殿下、わたくしの旦那様!」
「…………」
オデットは冷めた目でアンドレの疾走を見送る。
煩くとも彼女は哀れだ。もう三年近く夫から放置されている。
アシルが悪い。
「アイツ、女を舐めてるな」
大層なフェニックスを獲得したそうだから、調子に乗っているのだ。
オデットは未だデジレを忘れられず鬱々とする日もある。
アシルとて変わった。デジレの訃報以来、不気味なほど静かになった。生きるのが楽だったバカの時期は過ぎたらしい。
――でも危うい。噴火前の火山みたいな感じ。
オデットの予感は当たる。
数分後、フェニックスが城内で火を噴いた。
軍事クーデターが勃発した。
アシルの宣戦布告にも、アレクサンドルは大きな動揺を見せなかった。
「予想はしていた。そなたが北部の戦場を生き抜いたと知った時からな」
「俺は味方からの攻撃に心底驚いたがな。前情報が無ければ危なかった」
「城内にそなたの支援者はごく僅か。アルノーだな」
「病人だからとアルノーを侮ったな。アイツは俺より賢い」
「確かに。まさか軍の秘密回線を知っていたとは」
「お陰で俺は助かった。味方からの騙し討ちなんざ、正々堂々を地で行くアントワーヌ兄上には予測の斜め上だった筈だ。それを分かっててやったアンタは真正のクソヤローだよ。死んで償え」
「償わん。私は勝ち、そなたは死ぬのだ」
キグナスもフェニックスもフルパワーで相手を迎え撃つ。
「決戦」の狼煙が上がった。
それは最早人間同士の戦いではなかった。
傍目には、巨大な白鳥と巨大な炎の鳥がぶつかり合っている姿でしかない。
クーデターよりも巨大怪鳥大戦争という言葉がふさわしい。
肝心の王子らはどこにいるのかと言うと、双方の手持ちモンスターを戦わせるカードゲームよろしく、地上から怪鳥大バトルを見守っている――のではない。
鳥どもの内部にいる。
空中戦を繰り広げているのは可視モードのミーティア同士ではなく、ウィナー同士だ。ゆえに実体がある。完全武装と称されるウィナーのみ可能な戦闘形態で、甲冑みたくミーティアを身に纏う。変身と言って差し支えない。
人でありながら空飛ぶ巨体を操る為、相当のセンスが要る。科学、というか工学の知識も要る。武装が科学であれ魔法であれ結局は物理のルールに縛られるから、現象を考慮した操作をしなければならない。
面倒なルールから解放されたくば大気圏外に出るといい。出るだけなら出られる。酸欠にはなるが。
完全武装の経験値は、新参ウィナーのアシルよりもアレクサンドルが上だ。
しかし火力はフェニックスの圧勝で、そもそもミーティアとしての格が違う。星に落下した順番こそフェニックスは最新でビリだが、強さとは関係ない。宇宙全体で見れば、数万年程度の差など無いに等しい。
元のサイズからして二体は、ナガスクジラとシャチほどの大差がある。キグナスは無理に巨大化し、フェニックスの体格に合わせているに過ぎない。
フェニックスが最大出力のプラズマで押すと、キグナスは全く歯が立たなかった。このままでは負ける。地面に叩き付けられる。
「私は負けん!」
キグナスは優美で長い嘴を開いた。
チャージに伴い、白色の火球が形成されていく。その砲口の先は王都の街並み。
フェニックスに身を挺して守らせ食らわせる気だ。一石二鳥の作戦ではある。
「クズだがな」
アシルは王都を背に立ちはだかった。フェニックスの両翼を展開して盾になる。
ここを凌げば勝利は確実となる。
「撃てよ」
「死ぬがよいわ、三流品めが!」
遠慮も慈悲もないキグナスの一撃が王都に向けて発射された。
フェニックスは急発進し、プラズマの砲弾を真正面で受け止めた。直進エネルギーで以て火球を霧散させ、勢いそのままキグナスと衝突する。硬い嘴の先端が、分厚い装甲にめり込む。
異母兄弟がこうなったのは必然だ。兄王太子は障害で、常にアシルの味方ではなかった。暗殺計画が実行されようがされまいが戦う運命が待っていた。
アシルが駒を進める為には兄と戦うしかなかったのだ。
「アンタを犠牲にして、俺はデジレを取り戻す」
フェニックスがキグナスの胴体部を貫通した。
すれ違う刹那、兄弟の視線が合った。
兄は弟に言った。
「デジレは私のものだぞ」
捨て台詞を遺して、王太子アレクサンドルは死んだ。
空中大バトルの最中、アシルの手勢は城の制圧を完了させていた。
王太子直属の臣下達は拘束された。第二王子アントワーヌの暗殺に関わった者がいる。取調べ、裁きを与える。過去の事だからと見過ごさない。
他は概ね反発もなく、政権交代に応じる姿勢が見られた。元より王ではなく王子が仕切っていた城だ。第三王子の手腕に不安はあっても大変化とまでは言えない。宮廷はこれまで通り機能を続ける。
城のあちこちが大バトルの影響を受けた訳だが、問題ない。
プラズマによる破壊につきフェニックスの能力で直せる。
それでなくても王の大事な城はパーヴォの庇護下にあるから、大バトルの割には被害は驚くほど小さく、崩壊した建物は一つもない。
城下含め、軽傷者は出たものの死者はなし。因みに、パーヴォが庇護下に入れるのは人と不動産のみなので、例えば「祖父の形見の万年筆」とかは対象外となる。
民間がクーデター理由を知る事はない。
圧倒的人気を誇った王太子アレクサンドルを失い、人心は消沈するだろう。
軍事色の強い第三王子主導とあっては、恐ろしいに違いない。
絶望と恐怖ばかりでもない。城の内外にいた大勢が大バトルの目撃者となった。
キグナスの前に立ちはだかったフェニックスは、砲撃の盾となり街を守った。事情は分からずとも王子の戦う姿勢から察せられるものはある。
新たな王太子を支持する者の輪は城を中心に広がり始める。徐々に、確実に。
バトル終結の翌朝。
実質の王太子となったアシルは、アレクサンドルの言葉を思い返していた。
あの捨て台詞はどういう意味だったのか。負け惜しみか。
獲得したキグナスは、新ウィナーたるアシルの疑問に沈黙を返す。自身のスペック説明だけで、前ウィナーの思考や情報を漏らさない。
「自分の身になって考えるなら、プライバシー保護は有難いが……」
ミーティアというのは不自由な奇跡だ。
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