彼女は思い出せない

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24 長い話

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密談の場にありながら、アシルは殊更声を潜める事なく淡々と告げた。

「キグナスの能力は次世代に継承させん。その為のダンプだ。俺は計らずも相続ノルマをほぼ達成してしまったからな」

初回ウィナーによる相続は、二度以上の決戦に勝利し、且つ直系子孫を持つ場合に限り行われる。
フェニックスの初回ウィナーとなったアシルは、南方大陸でブラックスワンの雛みたいなミーティアと接触し、更に兄王太子からキグナスを奪取した。
雛への対応もダンプだ。同期自体を拒否したから能力だけを放棄するキグナスとは異なる。
しかしこの雛のダンプが、決戦での勝利としてカウントされていた。

ミーティアは、獲得よりも放棄の方が遥かに易い。
難しいのは、惜しまず捨てる決断に人は中々至れないという点だ。

真実を聞いた以上、アシルはキグナスが持つ危険性を放置しない。
ましてデジレの命を脅かし、無情にも大勢の命を奪った能力だ。また誰かに使わせる訳にはいかない。
その可能性は高まる一方なのだ。世界のハイテク化は目まぐるしい。もしもアレクサンドルと同等かそれ以上の知能を持つ危険人物が、キグナスの信号能力を手にすれば恐ろしい大惨事を招くのは必至。

「俺自身なら律する事は出来る。だが後世の奴らは分からんし、制御も出来ん」

信用していないのとは違う。危険の芽を摘んでおきたいだけだ。
言い終えたアシルの前で、アンとコウの目線が交差している。
先にコウの口が開いた。

「アシルは、もうダンプを経験済みなんだね」
「まあ、小さい雛だったしな。それにフェニックスのプラズマで一帯を焼いた後だった。ミーティアがいると不都合もあるが益もある」
「土地の活性化だね。豊かになれば人が集まる。反面、魔物も生じる。フェニックスは無人の南極に落下したから、魔物の巣窟が形成され難かったんだろうね」
「ああ、近所にはペンギンのコロニーしかなかった」
「僕もそこ行きたい。連れてって」
「ああ、いつかな」
「デジレもきっと行きたいって言うよ」
「ああ、しっかりと防寒対策をして行くぞ」

一旦コロニーから離れましょう、とアンが前のめりになったコウの肩を叩く。
それから彼女はアシルに姿勢を正して見せた。

「殿下は、我々が思った以上に信頼に足るお方です」
「そうか。デジレにも吹き込んでおいてくれ。全然懐いてくれん」
「今は貴方様への嫉妬心が勝っているのです」
「なんでだ。俺は宇宙一アイツを想っているのに」
「男女の仲は儘ならないと決まっています。根気よく向き合ってください」
「そうする。添い遂げる」

話が逸れてるよ、と今度はコウがアンの肩を叩く。
改めて幼い顔が切り出した。

「ダンプに抵抗のないアシルなら信用出来る」
「そうか。デジレにも吹き込ん――」
「聞いたよ。次は僕の話を聞いて欲しい。ちょっと長くなるけど」

長い話が始まった。
ちょっとでなく、本当に長かった。



翌日、午後三時前。
縁側に座るアシルのもとへ、コウがやって来た。

「ねえアシル。僕思ったんだけど」
「ああ、デジレを任せられる男は俺しかいないって話だろ」
「ううん、その話じゃないや」
「…………」
「南方でダンプした雛って、同期してたら完全武装出来たのかな?」
「雛になってどうする。弱くなるだけだ」
「だよね。ならその雛、何が出来る子だったんだろう」
「さあな。取説すら読まずにダンプしたから分からん。普通に考えれば何かしらの武装があるんだろうが」

ミーティアは人に武装を齎す。剣や槍が多い。大ドラゴン帝国の皇太子が振り回す大剣は、世界一有名と言って差し支えない。
つまり実体を持たないミーティアだが、武装時のみ一部或いは全体を実体化している事になる。
フェニックス獲得以前、アシルはパーヴォの武器、やたら装飾性の高いサーベルを戦場で使っていた。フェニックスの武器はまだ手にしていない。
南方大陸でもキグナス戦でも完全武装で臨んだ。初回ウィナーの定石ではいきなり完全武装にはならず武器使用の「慣らし」を挟む。しかし、海軍時代に超巨大兵器を操る術を鍛えたアシルは「いきなりでもイケる」自信があった。そして使いこなした。
コウがアシルの隣に腰を下ろした。

「雛の武器、僕が貰えないかな」
「貰えばいいだろ。居場所は教えてやる。だが雛と同期出来たとして、出て来る武器は縫い針かもしれんぞ」
「刀がいいな。かっこいい忍具でも」
「竹串とか爪楊枝とかかもな」
「さっきから地味に刺さる雑貨ばっかり――子供の夢を壊さないで」

丁度ティータイムになった。



数時間後。
デジレがヒノキ風呂に向かう頃合いを見計らい、コウが客間に顔を出した。
読書中のアシルは、寝そべった布団から子供に目線を向ける。
襖を開け閉めしたコウは、畳の上で正座をした。

「ねえアシル。僕思ったんだけど」
「今度は何だ」
「南方に行っても、僕が接触するのはブラックスワンの雛じゃないよね」
「かもな」

基本ミーティアは、球形の隕石の状態で地中に埋まっている。
人と接触した際の反応は三パターン。無視、同期、殺害のいずれか。
太古からほぼ無視されている人々は、発見した球体を祀ったり、「触らぬ神に」の精神で周辺一帯を禁足地にしたりしてきた。
居眠り中でもミーティアは、興味深い王族などが接近すると覚醒し、同期可能と判断するや姿を現す。
その姿と名は、相手に合わせている。

「南方大陸にブラックスワンは妙だった」

何かの雛という前提はあるにせよ、明らかにアシルの思考から最も馴染みのある姿を選び取り、設定を変えていた。

「お前が出会うのは、南方らしくフラミンゴの雛かもな」
「それでもいいよ」
「だが俺の話を聞いた後では、結局ブラックスワンかもしれん」
「どっちでもいいし違う子でもいいや」

南極のフェニックスも、アシルでなく例えば東洋人が接触していたなら姿も名も違っていただろう。

「鳳凰だったかもな」
「よく知ってるね」
「さっき読んだ本に描かれていた」
「そっか。――つくづく、ミーティアって文明文化ありきだ」

ミーティアの歴史は相当浅く、二千年にも満たない。
何百万年も前からヒトはいたのにミーティアは猿人にも原人にも、ダイナソーにも興味を示さなかった。
ある程度ヒトの知能が育つのを待っていた。知能なくして力の制御は出来ない。
だからミーティアは値踏みの際に知力を視るのだ。





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