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30 偏っている
しおりを挟むランチタイムになった。
アシルの城不在を見計らい、オデットがデジレのもとを訪ねて来た。学術アカデミー内のカフェテリアメニューには飽きたらしい。
部屋のバルコニーに設けられた食卓で、二人はホットサンドを頬張った。
食事中、デジレはオデットにディアーヌとのやり取りを話して聞かせた。ほとんど愚痴になっていたと思う。
オデットは「そんなの」と冷めた目をした。
「どうだっていいじゃん。このままほっときゃいなくなるんでしょ異母姉」
「そうなんだけど」
「無視だよ無視。考える価値ないね。私は元々あの人嫌いだし、みんなも清々するよ。今週いっぱいの辛抱ってもう侍女達に教えてあげた?」
「ううん、まだ」
「早く教えてあげなって。気の毒過ぎるよ。あの人、ホント妃の時代からなんも変わんない。通学してないのに卒業証書あげるから付け上がるんだよ。城が悪いね。だから昔からいる官吏はダメだ。時代錯誤」
「う、……ううーん」
誰であれ何であれボロクソに貶すオデットの点の辛さは、アンを超えている。好き嫌いが激しく、子供っぽいから遠慮がない。一貫性がある反面、極端に意見が偏ってしまう傾向にある。
デジレはハッとした。
「……偏ってる」
「てかチーズサンド美味過ぎ。何種類入ってるのこれ。作った人天才じゃん」
「うん……」
チーズサンドを口に入れつつ考える。
今デジレが持つ情報は偏っている。アンドレへの悪口しかない。
――これじゃ正しい判断が出来ない。
アプローチを変える必要が出てきた。
王妃曰くデジレは何も見えていない。何も知らない。なにせ思い出がない。
いつの間にかこの「他人事」感覚が、免罪符か何かになっている。
さっきデジレはディアーヌに何と言った。
「私に姉の手は必要ありませんし、姉から教わる事もありません」
随分と分かったような口を利いている。異母姉の事など何も知らないのに。
「ね、ね」とデジレはテーブルを叩いて、オデットの注意を促した。
「もっとお姉様の事教えて」
「放置妻だった。いっつも煩かった」
「そういうのじゃなくて、家とか学校とかのネタはない?」
「私が知る訳ないし。元侍女とか教育係とかに聞くのがいいんでない?」
名案だ。
食後、オデットと別れたデジレは嘗て妃に仕えた女性陣を訪ねて回った。
デジレの担当として誰も重複していない。
その理由について、元教育係の女性が教えてくれた。今の彼女はいち文官である。
「デジレ様とアンドレ様とでは受講する科目の量が違いましたから」
「長年お城にいた私は、終了している学科が多かったんですよね。その知識が今の私の頭の中にも残っている訳で」
「そうですね。進捗にも違いがありましたよ。知能の差よりやる気の差と言いますか、とにかくアンドレ様は熱意がなくて困りました。放置されていてはモチベーションの維持など出来ない、と擁護する意見もあったのですが」
結局は同情勢も、彼女の奢侈三昧によって消えたとの事だった。
次に会った元侍女は、憤慨を隠さなかった。こちらは侯爵家で秘書をしている。
「結婚の際に大金をゲットしてるんです、アンドレ様は。そういう契約だったんですよ。だからアシル王太子殿下が文句を言われる筋合いはないんです。放置込みのギャラであり契約なんですから。当然、教育係が進捗遅れを責められる事もありませんでしたとも。いずれ解雇される予定のお飾りのお妃様ですからね」
デジレは「それではいよいよモチベーション維持など出来なかっただろう」と別の納得に至った。
ただデジレや、他の令嬢ならば契約時に高確率でこう考えた筈。
「大金貰える上に高等教育受けられるとか最高。貰えるものは全部貰う!」
アンドレは、そうは考えなかった。城にいながら折角の教育をサボり、学校にも行かず、贅沢三昧だけして時間とお金を湯水のように使った。
そこまで考えて、デジレは「んん?」と最大の疑問にぶつかった。
「お姉様は結婚の際に大金をゲットしたんですよね?」
元侍女の女性は「はい!」と大きく頷く。
デジレは続けた。
「それって贅沢三昧で使ったのとは別のお金ですよね?」
「はい! ホント酷い話でしょう? こんなの国民に知られたらボコられますよ」
「そうですね。――え? じゃあ最初の大金はどこに消えたんです?」
元侍女の女性は両手を腰に当てて、自信満々に言い切った。
「貯蓄したに決まってます! 寄付だけは有り得ません!」
デジレは惚けた。貯蓄という堅実なワードが今知るアンドレと結び付かない。むしろデジレの予想では全額投資してコケた、だ。
考えて、閃いた。
「お金の行方を調べないと……」
アンドレは現状、デジレに何もしていない。
暗殺も虐めもない。何の為に城にいる。
「本当に働く為……だったり?」
結論から言うと、アンドレに個人資産はほとんど無かった。
アシルからゲットした大金は、なんと実家の資産に化けていた。
アンドレは大金を丸っと、父スールト伯爵に差し出していた。
デジレは部屋で、アンドレに詰め寄った。
「――お姉様、何故ですか?」
「……だって娘ならそうすべきでしょ。出戻っちゃった訳だし」
「すみません、意味が分かりません」
「だから! これから迷惑かけるんだし、家賃を払わないとって思ったのよ」
「すみません、お姉様。絶対払い過ぎですよ家賃。ゲットした大金で一体何軒のお屋敷が買えたとお思いで?」
「だってお父様に言われたし、お母様もそうしなさいって」
「…………」
アンドレが一文無しになった理由は親による没収、いや搾取だ。
城に居座っているのは働く必要性よりも家に帰りたくないからだと推測される。アシルの契約結婚に飛びついたのも、家に原因があったからではないのか。
なんであれ、デジレは納得がいかなかった。
「お姉様がゲットしたマネーはお姉様だけのものです。殿下と結婚したのも契約したのもお姉様なのであってお父様でもお母様でもありません。耳を揃えて全額返してもらいましょう」
「むむむ無理よ。父と母に逆らうなんて無理無理。死んじゃう」
デジレの提案に蒼褪めたアンドレは震え上がり、その場にしゃがみ込んだ。頑として動きそうにない。
子供のようなアンドレの振舞いから、デジレは悟った。
――恐怖心が根深い。
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