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34 昔話
しおりを挟むランチタイム、終了。
解散の体で席を立つ面々に、デジレは言い足した。
「アフタヌーンティもこちらでよろしいでしょうか?」
またも「はい!」と元気よく答えてくれたのはアルノーだけだ。
王妃ディアーヌは素っ気なくも首肯してくれたけれど、国王は違った。
「余には余の予定があるのだ」
「失礼致しました。それではまたの機会にぜひ」
「うむ」
四人が見送る中、国王の背中がそそくさとテラスを後にする。
中肉の彼は上背があり、意外にも手足が長い。でも急ぐ動作は俊敏とは言えず、一生懸命に見える。長い手足に振り回されているのだ。カッコいいウォーキングをするには筋力が要る。
運動不足、とデジレは想念した。
――テニスとか好きそうなのに。観賞専門かな。
考えるデジレの横顔に、アシルの目が向いた。
「悪い。王の予定を把握していなかった」
「どなたにも把握は無理ですよ。恐らく陛下は気分で決めていらっしゃいます。今日はもうみんなとお茶をする気分じゃないから無い予定を作られたのでしょう。焦る事はありません。これだけの時間を共有出来たのですから」
するとディアーヌが「これで最後にならねばね」とまた素っ気なく言った。
「アルノー、部屋に戻るわよ」
アルノーは本日三度目の「はい!」。一人だけやたら可愛い。
母子が揃って城内に引き上げていく。最近のアルノーは、母王妃によるマンツーマン授業を受けている。かなり高度な内容らしい。
アレクサンドル統治下、城に配置されていた王の親類達は辺境や国外に悉く飛ばされた。優秀であればあるほど遠方送り。その意図はパーヴォの独占以外にない。
親類達は今、アシル主導の再人事により王都に戻りつつある。不便やトラブルで経験を積んだ彼らはパワーアップしている。被災地帰りのディアーヌ同様、頼りになる即戦力だ。
城の強化は着実に進んでいる。再配置が完了して機能すれば、アレクサンドルの抜けた穴など簡単に埋まる。
デジレとアシルも城内に戻る。
後片付けは、侍女達が手伝わせてくれなかった。彼女達より早く上手く出来る訳でもないデジレは、有難くプロにお任せする事にした。
アシルの部屋のバルコニー席に場所を移してティザンヌ(ハーブティ)を貰う。
休日特有ののんびりとした時間が流れる中、アシルが切り出した。
「王は相変わらずだが、王妃はかなり変わった」
「そうなのですか?」
「以前は王の前でペラペラと口を動かす事などなかった。尤も、アレクサンドルが同席していると皆口が重くなるのが常だったがな。デカい声で騒いでいたのはバカで落ち着きのない俺くらいだ」
「よく考えたらそれって大物の片鱗ですよね」
「アレクサンドルの圧に気付けんほど鈍感だっただけだ」
「ストレスフリーで何よりです」
「俺の代わりに周りがヒヤヒヤしていたのだろう。相当迷惑なガキだった自覚はある……」
彼の昔話を、デジレは密かに楽しみにしている。
ギャップが面白過ぎる。でも彼の本質は変わっていないから、子供の彼と大人の彼がちゃんと繋がっていて別人の話にはならない。
昔話に区切りを付け、アシルが「少し待て」とデジレに言い置いて席を立った。
デジレは頷き、バルコニー窓を抜けて室内に入っていく背を見送る。
すぐに戻ってきたアシルは、低い円柱形の箱を手にしていた。
差し出されたそれを両手で受け取って、デジレは膝の上でリボンを解いて蓋を開ける。箱の種類から中身の想像は付いていても、デザインまでは想像が付かない。
「わ、素敵なお帽子です」
鍔の縁がカナリアイエローとホワイトで塗り分けられた麦わら帽子を手に、デジレははしゃぐ。
アシルは笑み、帽子を渡すようデジレに促しつつ前屈み姿勢になった。
デジレの頭に帽子を被せて、鍔を摘まんでやや左に傾ける。
「似合うのは知っていたが、やはり似合うな」
少なくともこのプレゼントは初回ではないらしい、とデジレは察した。
「前はどんなのでした? もう無いのですか?」
「ああ。最近まで手元にあったんだが、諸島に向かう途中で海に放り投げた」
「どういう衝動ですか、それ」
「形見分けの名目で貰ったがこうしてお前は生きている。だから捨てた」
「私の帽子なんですよね? 持ち主に無断で捨てたって事ですか」
「悪いと思ったから今弁償しているだろう。俺としてはお前の私物を捨てたのではなく、思い出の品を拠り所にする気色悪い自分を捨てたという感じだ。同じ理由からお前のドレスとジュエリーも帽子と共に捨てた」
「簡単にその決断に至れるということは、ドレス等の送り主も殿下ですね?」
「そうだ。弁償するから許せよ」
「いえ怒っているのではありません。ちょっと残念ではありますけど。どんな帽子で、どんなドレスだったのかなと」
「……実は、お前のデビュタントボールの写真が、ある」
「それは有難いです。見せてください」
「う、む……」
「なんで目が泳いでいるんですか」
「……お前は、写真の存在を知らん」
「つまり隠し撮りですか。なるほど。被写体の私はカメラ目線ではないって事ですね。分かりました。ではとっととお写真を見せてください」
「う、む……」
とっとと出てきたモノクロ写真はサイズが大きく、ほぼ真横のアングルながら良く撮れていた。
ボール内には複数の撮影グループがいた為、当時のデジレはフラッシュを浴びても自分が撮られているとは気付かなかったのだそうだ。
「良いお写真ですが殿下がいません。その内記念写真を撮りましょう。他の方にもぜひ入って頂いて」
「ああ、いいな。まずは二人で撮ろう。他はいつでもどうでもいい」
「はいはい」
その内、と言ったのに撮影会は翌日の日曜日に行われた。
今回は二人だけの撮影となった。
国王夫妻への声掛けを控えた。アルノーをまだ誘わないからだ。
「もっと大きくがっちりとカッコ良く育つのを待ちましょう」とデジレが言うと、アシルは顔を顰めつつ頷いた。その言い方は好かん、と目が語っていた。
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