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52 謎の交友関係
しおりを挟む甥の「ご無沙汰しております」に対し、パーヴォ国王が頷いて見せた。
「うむ。大きくなりおったな。会うのはいつ以来になる?」
「十年前の式典で……」
長らく辺境暮らしを送っていた王弟の次男ことアルマンは、先月漸くパーヴォ城に戻った「帰還組」のトリだ。
仕事の引き継ぎに時間をかけ過ぎた。中途半端が出来ない性質なのだ。
それを「適当に切り上げても後任は優秀だぞ」とアシルに呆れられた。
「今後は俺を手伝ってくれるだろう、アルマンよ」
陸軍時代に同じ釜の飯を食った従兄の誘いを、アルマンが拒否する筈もなかった。
――しかしカッコ良くなり過ぎですよ、アシル王太子殿下。
騒がしく無邪気なアシルはもうどこにもいない。
デジレの件は承知している。愛の為の大覚醒、って事で納得しておく。
国王に意識を戻す。
相変わらずの洒落者ぶりに舌を巻く。完璧な身嗜みは、頭のてっぺんから靴の先まで都会的で洗練されている。
国王はアレクサンドルの言葉にまんまと誘導され、親戚一同を左遷した。
言っておくが一族の誰も、国王を恨んでいない。
アレクサンドルが強過ぎた。王の耳に他の声が入らないよう計った手腕は見事。王を誰よりも理解していたから出来た。
何より、大勢を追い出しても困らないだけの頭脳とパワーを備えていた。
――束になっても勝てなかった。我らの完敗だった。
だが、二度と負けない。
王妃配下の情報部を統括するアルマンは、国王に告げた。
「ご承知の通り、我らの潜入部隊が北に入っております」
「なんとも物騒よな。国境の守りを固めい」
「既に完了しております。蟻一匹、出入国させません」
「よいよい」
「それで今回、国王陛下にご確認がございまして参上致しました」
「申すがよい」
「秘密の通路を知る者は亡きアレクサンドルのみ、で間違いございませんね」
「間違いない。余の知る限りな」
「南方大陸東側の王家とも、交流はございませんね?」
「余はないが、アレクサンドルの個人的な付き合いまでは分からん」
「第二王子ザリと面識があった可能性はある、という事ですね」
「うむ。何かの取引を考えておったのやもな」
「ダイヤモンドやゴールドでしょうか」
「あのような小国、他に何もあるまい。――ところで、アレクサンドルがザリとやらにデジレを紹介したらしいという話があるそうだな」
「は」
「とても意外だ。アレクサンドルはな、周囲が思う以上にデジレを気に入っておったのだぞ。そして奴は大事なものを隠す性質であった。余の父がそのような人であったから、よく似ておると密かに思っておったのだ」
国王はつまり、アレクサンドルがいち友人に過ぎないザリに大事なデジレを紹介した事に驚いている。
ふと、アルマンは「嘘なのでは?」という気がしてきた。
――実際にはザリはアレクサンドルにデジレ様を紹介などされておらず、一方的に見かけて一目惚れしただけなのでは。
確認作業後、玉座の前を辞する。
現在まで南方大陸の小国には全く動きがない。ザリとは繋がっていない。大聖女とやらにあっさり騙されてしまうほど人の良い田舎の王族らだ。国ぐるみで何か企むとは思えない。
ザリだけが異端、と考えた方が良い。
――だからアレクサンドルと意気投合したのか。
だからアレクサンドルと同じ女性を気に入った――とすると目を付けられたデジレはとことん不運過ぎる。
地下に設置された作戦本部に早足で戻る。
王妃ディアーヌが地図を広げたデスク越しにアルマンを見た。
「アルマン、いいところに。今しがた北から面白い情報が入って来たわ」
「探りは進んでいるのですね」
「それどころか笑えるわ。ヨルムンガンドを攻撃した船の連中、皆アレクサンドルと面識があったそうなのよ」
「またアレクサンドルの謎の交友関係ですか……」
「どこまでも広がる友達の輪ね」
そうか、とアルマンは漸く思い至った。
「秘密の道を使ってアレクサンドルは城を抜け出し、他国の友人どもと密かに交流していたんですね」
「そうなるわ。国王に知られず、公式の外交記録にも残したくないから裏口を使っていた――なんて変よねえ」
「こそこそする意味が分かりません。秘密の恋人でなし、堂々と会えばいい」
ディアーヌが天井を見上げた。
「ひょっとして例のアレの為かしらね。キグナスの死の呪いとやら」
アルマンはぎょっとした。
「生前アレクサンドルが、北の彼らに呪いを仕込んでいたと?」
「そう考えると糸が綺麗に繋がっちゃうわよ? 北で殺し合いをさせて武器やら物資やらを売って大儲けしようとか、いかにもアレクサンドルらしいじゃないの」
「ちょっと、待ってくださいよ王妃殿下。では今になって呪いが発動したと? 呪いをかけた本人は死んでいるのに?」
「あら」とディアーヌは解せないと言った風にアルマンを振り向いた。
「魔物の主原料になってるネガティブな奴らなんて概ね昔の人間でしょう。皆とっくに死んでいるのよ。そいつらのドロドロした感情が今現在の魔物を動かしているのだから、呪いをかけた本人が死んだ後も、脳内に仕込まれたプラズマだけが現世に留まっていたって全然不思議じゃないわ」
アルマンは棒立ちになった。
魔物のテリトリー、瘴気結界は人の負の感情で構成されている。
その瘴気の主成分もまた「最も相応しい」という理由からワ皇国由来の言葉があてられている。
呪怨、と言う。
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