1 / 86
01 幼馴染で親友
伯爵令嬢シルヴィー・ラ・トゥール・デュバンは、「幼馴染ファースト」だ。
幼馴染で親友の公爵令嬢ジュリエットの為、骨身を惜しまず努力してきた。
ジュリエットは金髪碧眼の大変な美少女ながら幼少期から体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいた。弱さがあるからこそ彼女は純粋で、優しい。
そんなジュリエットの世話を焼く事がシルヴィーの務めで、喜びだった。
名門の王都学園に揃って入学した後も、二人の関係は変わらなかった。
成長したジュリエットだけれど、体調を崩してしまう事は度々あった。
「寝込んでた所為でまだ刺繍の課題が終わってないの……。期日は明後日なのに、どうしようシルヴィー」
「大丈夫。半分手伝うわ」
「ごめんね、シルヴィー。……あのね、帝国語訳の課題も手付かずで」
「私のノートを写してて。刺繍は私が仕上げちゃうわね」
「有難う、シルヴィー!」
シルヴィーからの助け舟に、ジュリエットは泣いて大喜びした。
幼馴染ファーストを自負するシルヴィーにしてみれば当然の事だし、学校の課題くらい大した事じゃない。それなのにジュリエットは痛ましい様を決して表に出すことなく、美しい涙を流してシルヴィーに感謝し、時に労ってくれる。
彼女の健気な言動にシルヴィーこそが癒され、救われてきた。彼女の笑顔を見ればどんな疲れも吹っ飛んだ。
――大切なジュリエットの為ですもの。
これからも幼馴染ファーストで生きていく。
五月。
王都セントラル公園で、二日間に渡るビッグイベントが開催された。
王国北東に隣接する通称「魔法大帝国」主催の、三年に一度の祭典「魔法エキスポ」である。
今年は三年前よりも規模が大きく、コンサートホールのブースに収まり切れなかった屋台やテントが屋外に溢れ、道脇に所狭しと建ち並んでいた。
前回、シルヴィーとジュリエットは一緒にこのイベント会場を訪れた。
今回、シルヴィーは一人で会場入りをした。ジュリエットはと言うと、婚約者の伯爵令息トリスタンを交えて家族同士の食事会に参加している。
トリスタンもシルヴィーの幼馴染で友人で、三人は同じ子供時代を過ごした。
シルヴィーはトリスタンを高く評価している。幼少期からジュリエットを一途に想う姿勢がいいし、共にジュリエットを守る同胞だと思っている。
そんなトリスタンは七歳の頃、ジュリエットに告白して振られている。失恋に泣いて悲しむ彼を見かけて、シルヴィーは「なんて良い子なの」と感心した。
入学から暫く、彼はジュリエットの婚約者となった。彼の一途は報われたのだ。実にめでたい。
二人を祝福するシルヴィーに、何故かジュリエットは泣いて詫びた。彼女は、シルヴィーがトリスタンに片想いをしていると勘違いしていた。
「シルヴィーが彼を好きなの知ってて奪うようなマネをして、私なんて最低よ」
「平気よ。彼の事は貴女の事ほど好きじゃないもの」
「シルヴィーはいつも私に優し過ぎるから辛いわ……。トリスタンの事、本当にごめんなさい。酷い私をどうか許してね」
「許すも何も貴女は酷くないし、謝ることないのよ」
「ホントに? こんな私と親友でいてくれる? これからも助けてくれる?」
「勿論よ」
「有難う、シルヴィー。大好き!」
因みに、トリスタンも「シルヴィーは僕を好き」だと勘違いしていた。
恐らく昔、失恋して泣く彼の頭を「よしよし」と撫でてあげたからだろう。
いつだか彼から釘を刺された。
「君が僕を好きでも、僕は君を好きじゃない」
「それは悲しいわ。でもしょうがないわよね。食べ物の好き嫌いと同じで人の好き嫌いもどうにもならない問題だもの」
シルヴィーはトリスタンに好かれていなくても問題なかった。彼はジュリエットほど大切な幼馴染でも友人でもない。お互い様なのだ。
そう言えばデビュタントボール前にも「ジュリエットと僕を取り合わないように」と謎の念押しをされた。
「エスコートは従兄にお願いしたから貴方を取り合う必要は全くない」と教えてやったら「あ、そ」と突き放すように言われた。彼は不機嫌な顔をしていた。
時折トリスタンのキャラクターを掴みかねる。尤も、彼の優先度はジュリエットに遠く及ばないので気にしない。
――ちゃんとジュリエットのエスコートをしててくれればいいわ。
今頃は高級レストランで豪華な食卓を囲んでいるであろう幼馴染達を想念しつつ、シルヴィーはイベント会場の公園を歩いた。
土曜日の午後。屋外は思ったほどの混雑ではない。パフォーマンスの舞台が設置されているホール内は物凄い事になっている筈だ。入場チケットを買う長蛇の列が絶えていない。
――魔法は、王国では珍しいものだから。
小さな奇跡から大きな奇跡まで、あらゆる魔法が世界には存在する。とはいえ稀な現象。魔法先進国たる帝国在住者でも滅多にお目にかかれない。
王国貴族の端くれであるシルヴィーも、本物を目撃する機会なんてこのエキスポくらいしかない。
会場ゲートを飾るアーチは本物の虹になっていた。誰かの魔法に違いない。場内でループ再生されている行進曲も、迷子や迷い犬の放送もそうだろう。
最先端科学と、最新魔術システム「ワーロック」を以てしても不可能な人工の現象は全て魔法だ。
ここで披露されているのは、帝国が誇る圧倒的パワーのほんの一部に過ぎない。
王国と帝国は言語も文化も風土も何もかも違う。隣国でも遠い。
三年前、初めてエキスポを訪れた十四歳の頃と同じ感想を、シルヴィーは抱いた。
――凄い国だわ。
人の波が途切れ、視界が開ける。黒っぽいテントが見えた。パンフによると占いの店で出展者は妙齢の女性とある。人の列はない。
なんとなく興味を引かれてシルヴィーはテントを潜った。
あなたにおすすめの小説
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。