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01 幼馴染で親友
伯爵令嬢シルヴィー・ラ・トゥール・デュバンは、「幼馴染ファースト」だ。
幼馴染で親友の公爵令嬢ジュリエットの為、骨身を惜しまず努力してきた。
ジュリエットは金髪碧眼の大変な美少女ながら幼少期から体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいた。弱さがあるからこそ彼女は純粋で、優しい。
そんなジュリエットの世話を焼く事がシルヴィーの務めで、喜びだった。
名門の王都学園に揃って入学した後も、二人の関係は変わらなかった。
成長したジュリエットだけれど、体調を崩してしまう事は度々あった。
「寝込んでた所為でまだ刺繍の課題が終わってないの……。期日は明後日なのに、どうしようシルヴィー」
「大丈夫。半分手伝うわ」
「ごめんね、シルヴィー。……あのね、帝国語訳の課題も手付かずで」
「私のノートを写してて。刺繍は私が仕上げちゃうわね」
「有難う、シルヴィー!」
シルヴィーからの助け舟に、ジュリエットは泣いて大喜びした。
幼馴染ファーストを自負するシルヴィーにしてみれば当然の事だし、学校の課題くらい大した事じゃない。それなのにジュリエットは痛ましい様を決して表に出すことなく、美しい涙を流してシルヴィーに感謝し、時に労ってくれる。
彼女の健気な言動にシルヴィーこそが癒され、救われてきた。彼女の笑顔を見ればどんな疲れも吹っ飛んだ。
――大切なジュリエットの為ですもの。
これからも幼馴染ファーストで生きていく。
五月。
王都セントラル公園で、二日間に渡るビッグイベントが開催された。
王国北東に隣接する通称「魔法大帝国」主催の、三年に一度の祭典「魔法エキスポ」である。
今年は三年前よりも規模が大きく、コンサートホールのブースに収まり切れなかった屋台やテントが屋外に溢れ、道脇に所狭しと建ち並んでいた。
前回、シルヴィーとジュリエットは一緒にこのイベント会場を訪れた。
今回、シルヴィーは一人で会場入りをした。ジュリエットはと言うと、婚約者の伯爵令息トリスタンを交えて家族同士の食事会に参加している。
トリスタンもシルヴィーの幼馴染で友人で、三人は同じ子供時代を過ごした。
シルヴィーはトリスタンを高く評価している。幼少期からジュリエットを一途に想う姿勢がいいし、共にジュリエットを守る同胞だと思っている。
そんなトリスタンは七歳の頃、ジュリエットに告白して振られている。失恋に泣いて悲しむ彼を見かけて、シルヴィーは「なんて良い子なの」と感心した。
入学から暫く、彼はジュリエットの婚約者となった。彼の一途は報われたのだ。実にめでたい。
二人を祝福するシルヴィーに、何故かジュリエットは泣いて詫びた。彼女は、シルヴィーがトリスタンに片想いをしていると勘違いしていた。
「シルヴィーが彼を好きなの知ってて奪うようなマネをして、私なんて最低よ」
「平気よ。彼の事は貴女の事ほど好きじゃないもの」
「シルヴィーはいつも私に優し過ぎるから辛いわ……。トリスタンの事、本当にごめんなさい。酷い私をどうか許してね」
「許すも何も貴女は酷くないし、謝ることないのよ」
「ホントに? こんな私と親友でいてくれる? これからも助けてくれる?」
「勿論よ」
「有難う、シルヴィー。大好き!」
因みに、トリスタンも「シルヴィーは僕を好き」だと勘違いしていた。
恐らく昔、失恋して泣く彼の頭を「よしよし」と撫でてあげたからだろう。
いつだか彼から釘を刺された。
「君が僕を好きでも、僕は君を好きじゃない」
「それは悲しいわ。でもしょうがないわよね。食べ物の好き嫌いと同じで人の好き嫌いもどうにもならない問題だもの」
シルヴィーはトリスタンに好かれていなくても問題なかった。彼はジュリエットほど大切な幼馴染でも友人でもない。お互い様なのだ。
そう言えばデビュタントボール前にも「ジュリエットと僕を取り合わないように」と謎の念押しをされた。
「エスコートは従兄にお願いしたから貴方を取り合う必要は全くない」と教えてやったら「あ、そ」と突き放すように言われた。彼は不機嫌な顔をしていた。
時折トリスタンのキャラクターを掴みかねる。尤も、彼の優先度はジュリエットに遠く及ばないので気にしない。
――ちゃんとジュリエットのエスコートをしててくれればいいわ。
今頃は高級レストランで豪華な食卓を囲んでいるであろう幼馴染達を想念しつつ、シルヴィーはイベント会場の公園を歩いた。
土曜日の午後。屋外は思ったほどの混雑ではない。パフォーマンスの舞台が設置されているホール内は物凄い事になっている筈だ。入場チケットを買う長蛇の列が絶えていない。
――魔法は、王国では珍しいものだから。
小さな奇跡から大きな奇跡まで、あらゆる魔法が世界には存在する。とはいえ稀な現象。魔法先進国たる帝国在住者でも滅多にお目にかかれない。
王国貴族の端くれであるシルヴィーも、本物を目撃する機会なんてこのエキスポくらいしかない。
会場ゲートを飾るアーチは本物の虹になっていた。誰かの魔法に違いない。場内でループ再生されている行進曲も、迷子や迷い犬の放送もそうだろう。
最先端科学と、最新魔術システム「ワーロック」を以てしても不可能な人工の現象は全て魔法だ。
ここで披露されているのは、帝国が誇る圧倒的パワーのほんの一部に過ぎない。
王国と帝国は言語も文化も風土も何もかも違う。隣国でも遠い。
三年前、初めてエキスポを訪れた十四歳の頃と同じ感想を、シルヴィーは抱いた。
――凄い国だわ。
人の波が途切れ、視界が開ける。黒っぽいテントが見えた。パンフによると占いの店で出展者は妙齢の女性とある。人の列はない。
なんとなく興味を引かれてシルヴィーはテントを潜った。
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