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05 可能性
エキスポ会場であるセントラル公園に着いたシルヴィーは、虹のゲート前でヒミカと落ち合った。
顔を合わせた瞬間、ヒミカはシルヴィーの決心を察したように笑みを浮かべた。
昨日と同じくバックヤード側からコンサートホールに入らせてもらったシルヴィーは、ヒミカの案内でステージや各ブースを見て回った。
正午前、フードコートで早めのランチを取る事にした。一番人気だというカラアゲをトッピングしたカレーライスをゲットする。
「こちらの素敵なカレーにはお父様の魔法がかかっているんですか?」
「はい。本国で検証済みです。女子向けのお洒落なメニューとは言えませんが、シルヴィー様にお気に召して頂けたなら何よりです」
「確かに全体的に茶色いですね。でもお味は最高です」
「本場の人曰く偽物のカレーでございます」
「……そう言えば、カレーは極東発祥では」
「ございませんね。その割にワ食ジャッジとなっているのは、国民の浸透率の高さゆえでしょう。因みに祖国の軍艦では金曜日の給食がカレーです」
「インタレスティング」
最終日の今日、折角なのでシルヴィーは食後に帝国菓子の代表格バウムクーヘンをチョイスした。
食べながら気になった。
「バウムクーヘンを作られたマイスターは普通の方ですか? いえ、マイスターの時点でもう普通ではないですけど」
「はい、メイジではありません。普通に凄いマイスターです」
メイジにしろマイスターにしろ普通になれない。凄い人だ。
正午。帝国産のコーヒーをテイクアウトして二人はメイン会場を出た。
占いのテントに移動してコーヒーブレイクをする。
ヒミカは魔法学科についてシルヴィーに話し聞かせ、不意に切り出した。
「シルヴィー様にはメイジの素養があると思うのです」
「何も出来ませんよ?」
「わたくしも初めは何も出来ませんでしたよ。誰もがそうです。いつ才能が開花するのか分からないのがメイジというものです」
「……そう、ですね」
声のトーンを落としたシルヴィーを一瞥し、彼女は続けた。
「メイジはメイジに引かれ、影響を受けるものでございます。昨日、シルヴィー様は偶々わたくしのテントを訪ねて来られました。素養がある証拠と思えてなりません。更にわたくしと父の魔法に接触されていますから、何らかの才能が目覚めていても可笑しくないかと」
シルヴィーは苦笑し「魔法が使えたら楽しいですね」と軽く言った。有り得ない事だと思っている。
ヒミカは、釣られて笑みにはならなかった。
「三年前までこちらの王国の王女様は、――帝国第三皇子殿下の妃候補様でいらっしゃいましたね」
やっぱりその話になるか、とシルヴィーは思った。
大々的に取り沙汰された悲報なので勿論知っている。
自国のプリンセスは、幼少期からメイジの素養があると期待されていた。メイジの最大にして必須の条件は、古い血筋に属している事だ。
ヒミカやセンジュもさぞかし古い家門を持つのだろう。極東人たる彼女達の例が示すように、魔法は帝国民の専売特許ではない。民族も宗教も関係ない。
だから家の古さだけは間違いないシルヴィーも、可能性はゼロではない。
――でもないと思う。
一族からメイジが出た例はない。
プリンセスですら十八歳までに何の魔法も発現しなかった。十八がメイジの限界線なのだ。メイジになれないまま十八の誕生日を迎えた王女は、潔く皇子妃候補の座から退いた。
魔法大帝国の妃だからと言って必ずしもメイジである必要はない。王女のプライドだったのだろう。
自国のプリンセスが脱落し、当時王国民はがっかりしたものだ。
通常、帝国皇子の妃候補は一人ではなく複数いる。早い段階から世界各地の姫君が候補として選出される。
現時点で、妃が確定していないのは第三皇子のみ。彼の妃候補は、王国王女脱落後に一人だけとなった。
第三皇子ヴィンツェンツ――。二十二歳のメイジで高い戦闘力を持つ。現在は陸軍将官。スマートな美形なので帝国では大層人気があると言う。
ヒミカが再び、シルヴィーを一瞥した。
「もし、シルヴィー様が帝都にいらっしゃって皇子妃候補に名乗りを上げる事が出来たなら、王女様の敵を討てますね?」
「それはさすがに無茶ですよ。それに敵討ちは違いますでしょう?」
「仰る通り、王女様には何の罪も責任もありません。今のはほんの冗談でございますよ、半分ほど」
「半分ほども本気って事ですか? ――いっそヒミカさんが候補に」
「申し遅れました。わたくし既婚者でございます」
「なあんだそ、――そうなんですか?」
「そうなんでございます」
さらりと驚かさないで欲しい、とシルヴィーは思った。
プリンセスの敵討ちはさておき、帝都には行く気でいる。
テントを辞する際、ヒミカがシルヴィーに告げた。
「必要書類は手配済みです。明日以降、ご自宅に送付されると思いますのでご記入の程よろしくお願い致します」
「分かりました。編入試験は論文形式でしたね?」
「はい。全て帝国語での記述となります。――必要とあらばわたくしもお手伝いさせて頂きます」
「いいえ、それでは試験になりませんし、入学出来たところでもっと苦労するだけですよ」
「そう仰ると思いました。ではまた後日」
ヒミカに倣って丁寧に一礼を返し、シルヴィーはエキスポ会場を後にした。
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