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06 面白い夢
帰宅したシルヴィーは、アフタヌーンティーまで読書をする事にした。
本を開いて暫く、玄関のベルが鳴った。
訪問者があるかもしれないと予想した通り、部屋に来たメイドが「ジュリエット様がお越しです」と報せた。
シルヴィーは訪問者を部屋には招かず、自分から玄関に出向いた。
ポーチではジュリエットとトリスタンが待ち構えていた。
ジュリエットは、ローズカラーのフリルが付いたホワイト系のワンピースを着ている。公爵の言う通り、少し幼稚かもしれないけれど彼女には似合っている。
シルヴィーは冷めた思考を過らせた。
――私には全然似合わないわ。
「似合う。可愛い。お揃いが良い」とジュリエットが頻りに勧めるから着ていたに過ぎない。本心では好きじゃなかった。
何も見えていなかった。靄がかかった状態で物事を見聞きしていた――。
今やスッキリ晴れた視界で幼馴染二人を前にして、シルヴィーは「ごきげんよう」と笑んだ。
二人は揃って瞬いている。ストライプ柄のブルー系のワンピースを着たシルヴィーに面食らっているのが分かる。
二人が何か言う前に、シルヴィーは「どうしたの?」と切り出した。
「何かあった、ジュリエット?」
「え、あ、ううん。ただシルヴィー、何してるのかなって思って来たの」
「課題をしてたところよ」
だから暇じゃないのよ、と暗に告げてみた。実際には課題は終わっていて、まったりと読書をしていた。カマを掛けた。
ジュリエットは「え」と意外そうに瞬いた。
「まだ課題終わってなかったのね。珍しい……」
「ちょっとのんびりし過ぎちゃったわ」
「そう、なのね。何でも早めのシルヴィーでもそんな事あるのね……」
シルヴィーは冷静にジュリエットを観察した。
今日のシルヴィーは急遽彼女とのエキスポ散策をキャンセルしている。その後の訪問なのだからここは「心配して」来るのが普通の筈だ。
――何も訊かないわ、この子達。
関心外という心の表れと取れた。
つまりヒミカの占い通り、という事だ。
「幼馴染様の方は、シルヴィー様が想うほどシルヴィー様を想っていません」
――分かっていても悲しいわね。
大ショック、という事はないけれど。
明らかにがっかりして見える二人の表情から、その思考も容易く読めた。
――課題を写させてもらおうと思って来たのよね?
だからカマを掛けた。
まだ途中、という事にしたので彼女達はノートを写せない。がっかりだ。
――これからは自分達で頑張って。
みんなそうしている。それが当たり前なのだから。
アテが外れて早々に用が済んだと見える二人は「じゃあ」と手を振り、馬車に引き返していく。
シルヴィーはしょんぼりしている二つの背中を見送った。
その晩、面白い夢を視た。
まず白いウサギが一羽出てきた。
霧の揺蕩うどこかの森の中で、切り株に腰掛けて釣り糸を垂らしている。ウサギの目の前に池があるのだろうけれど、霧の所為でシルヴィーには見えない。
ウサギなのに猫背で、愛嬌のある後ろ姿をしている。
――なんだか人間っぽい子ね。
釣り糸は全然反応しない。座ったままウサギは寝ているのかもしれない。この位置からでは顔が見えない。
下手に動くと気配に勘付かれて逃げられてしまいそう。その場に佇んでシルヴィーは釣りウサギを眺め続けた。
不意に霧が濃くなって、白いウサギが景色に呑まれた。
霧が晴れるのを待っていると、長いウサギ耳ではなく人の輪郭がぼうっと伸びて浮かび上がってきた。
背が高い。男性のようだ。
「――そこに誰かいるのか」
やはり男性で、大変良いお声をしている。
「いますよ」と答えたシルヴィーに、彼は慎重な足取りで近付いてきた。
軍服姿の青年が現れた。若いから青年将校という感じ。エキスポ会場で見かけた帝国軍の警備隊と似た制服を着ている。
制帽の下に銀色の髪とスカイブルーの瞳が覗く。相当の美形だ。
「帝国の軍人さんですか?」
「……そなたは?」
「マカロンの国の者です」
「自ら皮肉る事はなかろう。王国の娘か」
「サクラ風味のマカロンを果たしてワ食と言えるでしょうか?」
「何の話だ。ところでウサギを見かけなかったか」
「さっきまでその辺で釣りをしていました。猫背で可愛かったです。――ちょっと待ってくださいよ。釣れたらお魚を食べるんですかね、あのウサちゃん? それとも人参が釣れる池なんでしょうか」
「奴は魔力を持つ獣、ビーストだ。飲食せずとも死にはせん。単に人間を真似て手慰みをしているのだろう」
「初めまして、ビーストウサちゃん」
「私に言うな。――今回も見失ったか」
「あの子を捕まえてどうする気ですか? 食べるんですか?」
「食わん。取られた物を取り返すだけだ」
「この泥棒ウサギ! って新しいですね」
「何なら新しくないんだ?」
「この泥棒ネコ! ですよ」
「聞いても分からんかった……」
景色が白んで来た。
周囲を見回すシルヴィーに、青年将校風の彼は言った。
「ここで人に会うのは二度目だ」
「ここはどこ、貴方は誰」
「ここは帝国東部の通称、魔女の森だ。私は、ヴィ……ッツだ」
「初めまして、ヴィッツ様」
「いや違――……」
シルヴィーは目を覚ました。
脈絡のない夢だった。
内容を思い出して首を捻る。
「帝国語で喋るべきだったかしら」
互いに母国語を話していて、しかも互いに通じていたから傍目があったなら滑稽に映った事だろう。
魔女の森は、ディザスター・スピリット――ひと昔まで魔物と呼ばれていた脅威が多発する危険地帯だ。そういった場所は大陸各地に点在している。
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