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13 友達
この日を境に、ランチのメンバーが半分ほど減った。
シルヴィーは「それはそうよね」とただ納得した。
今や脅威となったジュリエットから、シルヴィーは目を付けられている。他人事でない令嬢は多い。逆の立場ならシルヴィーだってシルヴィーから距離を取る。
事業への妨害行為からして、ジュリエットがシルヴィーを最早幼馴染どころか普通の友人とも思っていない事は明らか。
敵視し、報復している。
いつまで続ける気かしら、とシルヴィーは妙に冷めた脳で想念した。
変わらずラグを共有する一人が「こんなの今だけですわよ」と言ってブッセを差し出す。彼女の父親は法務官なので公爵家に忖度する必要がない。むしろ忖度してはいけない立場の人だ。
有難う、とシルヴィーは笑み、彼女の手から手作りスイーツを受け取った。
その晩、霧の森には行けず記憶に残るような夢も視なかった。
何の手も打てないまま二日が経った。
家業の業績はゆっくりと確実に下がっていて、領地にいる両親達は打開策を見出せずにいる。現状最大の痛手はトリスタンの実家から切られた事だ。公爵家でないだけマシとはいえ、早く新たな販路を拓いて補填しなければマズい。
公爵家も幾つかのメーカーと取引があるから楽観は出来ない。
ただ、公爵が積極的にデュバン伯爵家を切る事はそうそう有り得ない。彼は国宝職人だった祖父をリスペクトする「デュバン」銘柄のファンだし、シルヴィーを娘の親友と信じている。
だからジュリエットも実家への働きかけは出来ない筈だ。勝手がバレた際に父親に言い訳が出来ない。
――それでも絶対とは言い切れないわ。
父親なのだから娘に味方をする。辺境から戻った彼にジュリエットが直接訴えれば耳を貸すだろう。
その際ジュリエットからある事ない事吹き込まれたらアウトだ。「あの子が私に意地悪するのよ」とか何とか。
――言いかねないわ。いえ、もう手紙で訴えてるかも。
ストッパーを失った人心ほど厄介なものはない。
学校生活は、試験日が近い事もあって静かなものだ。教室の火種ことジュリエットは登校したりしなかったりを繰り返している。
このところシルヴィーは、トリスタンの視線を感じる。何かを催促しているようにも見えるけれど真意は分からない。
シルヴィーは彼を無視している。こちらから声をかける義理はない。切ったのはむこうだ。勿論、彼には腹が立っている。
この晩、久しぶりに良い事があった。
漸く霧の森に行けた。気付けばシルヴィーは、ウサギ専用の切り株に腰掛けて白い霧の揺蕩う池を前にしていた。
ふと見ると、膝の上でウサギが丸まっていた。
本来ウサギとは臆病なアニマルだ。なでなでされたくない。でもこのウサギは危険地帯で平然と暮らせるビーストであり、因縁の彼曰く戦闘力が高い。
誘惑に駆られたシルヴィーは、ウサギのふわっふわの額に指先で触れてみた。
ウサギは小さな鼻を一度動かし、瞑目した。
シルヴィーは更に大胆に額から背中までをそうっと撫でてみた。ウサギはなすがまま。許容と見て調子に乗ったシルヴィーは、ウサギを愛でて撫でた。
ウサギは「くるしゅうない」と言わんばかりの尊大な態度を取っている。つんとして見えるおすまし顔がお姫様っぽくて愛らしい。
小動物ふれあいタイムの最中、彼は現れなかった。
帰宅時、馬車を降りたシルヴィーを玄関前でトリスタンが待ち構えていた。先回りしていたらしい。ご苦労な事だ。
「――君さ、事の重大さが分かってないだろ?」
「とりあえず、玄関前からどいてくださる?」
「このままだと家潰れるよ? ジュリエットを大事にしないからだよ。自業自得」
「もう一度言います。どいてください」
「ジュリエットは凄く悲しんでいるんだよ。君が勝手に帝国に留学するなんて言い出したから。しかもそれを僕らに黙ってた。薄情過ぎるよ」
指摘されてシルヴィーは、教師が教室で発表した際にジュリエットは休みだった事をぼんやり思い出す。
でも薄情は言い過ぎだし、――どの口が言っている。
溜息が出た。
「私なんかの人生に彼女は関係ないと思うけど。ならどうすれば良かったの? 発表されたあの日、彼女の家をわざわざ訪ねて留学の件を報告すれば良かった?」
「そんなレベルの話じゃないんだよ」
「…………」
ああそうですか、とシルヴィーはうっかり言いかけた。夢だったら言っていた。
トリスタンは何故か偉ぶった態度で言い付けた。
「留学なんてやめる事だよ」
「なんでそうなるの? 意味が分からないわ」
「ジュリエットの意思を察してないから意味が分からないんだよ」
「彼女、本当に私の留学を快く思ってないのね。友達を応援してくれないのね」
「君なんか友達じゃない」
「…………」
なんですと? とシルヴィーはまたうっかり言いかけた。夢だったら言っていた。
「友達じゃないなら引き止めるのは可笑しくない?」
尤も、真の友達と言うなら応援する。クラスメイト達のように。
だから、とトリスタンは察しの悪いシルヴィーに苛立って見せた。
「君が留学をやめれば友達に戻れるんだよ」
「…………」
シルヴィーは、彼の理屈に付いて行けなかった。
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