靄が晴れましたので、

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帝都編

34 クラスメイト




校舎に入ったシルヴィーは、ヒミカの案内で学園長室を訪ねた。
そこで理事の一人だと言うヒミカの夫と初対面した。彼の、ブルネットの髪とノワゼット(ヘーゼル)の瞳は祖国でもお馴染みで、シルヴィーは安堵感を覚えた。
お偉いさん方と挨拶を交わした後、担任教師が迎えに来た。魔法学科は一学年にひとクラスしかない。
一旦お別れとなるヒミカと手を振り合って、シルヴィーは担任教師に続いて教室へと向かった。
「緊張しなくていいから」と若い男性教師は肩越しに笑んだ。

「クラスは二十一人で、その内四人が君と同じ外国出身の子だ。疎外感を感じる事はないだろうけど全体的に癖が強――愉快だよ」
「あ、はい」

魔法学科という時点で楽しいだろうと思っていたシルヴィーは、一先ず頷いた。
教室のドアを前にする。
警告の紙が貼ってある。曰く、このドアは「魔界へのゲート」らしい。
「はは」と軽く笑って教師はその紙をベリッと引き剥がし、手の中で丸めた。

「行こう」
「あ、はい」

さらりと流した教師の手と顔を交互にして、シルヴィーは目を白黒させた。
教室に踏み込むや、早速洗礼の砲火が飛んで来た。

「あ、マカロンが来た」
「あれが伝説のマカロン――」
「ザワークラウトがお嫌いなんだとさ」
「そんなんで帝国民のハートをキャッチ出来ますかねえ?」

教師は教卓に、バンッとテキストを叩き置く。
声が止んだ。
教師は笑みで教室を見渡した。

「今日からみんなの新たな仲間が増えた。号外で承知だろうが、このシルヴィーは第三皇子殿下の妃候補だ。だからといって彼女を特別扱いする必要はない。いいかい? 如何なる特別扱いもする必要はないんだ。言ってる意味、分かるよね?」

一同は頷いた。半分は笑み、半分は無表情。どちらも読めない。
教師に促されて、シルヴィーは彼らに姿勢を正して見せた。

「王国より参りました、シルヴィー・ラ・トゥール・デュバンです。一年間のお付き合いにはなりますが、皆さんよろしくお願い致します」

意外にも拍手が起こった。
教師の笑みの下にあった怒りを察したのだろう。

シルヴィーは後方から二列目の通路側を示され、席に着く。
編入生の紹介は以上で、すぐに授業が始まった。



午前中の授業が終わるや否や、クラスメイト達は一斉に席を立った。
半数が教室を飛び出していく。
シルヴィーは、「カレーソーセージー!」と叫んで駆け出した男子達を追って、自分も教室を出た。校内地図がまだ完全に頭に入っていないので、彼らにカフェテリアまでの道案内をしてもらう。
相当早く着いた筈なのに、カフェテリア内は既に生徒達で賑わっていた。
他のクラスを失念していたシルヴィーは、とりあえずオーダーの列に並んだ。
自分の順番が来たので、カウンター越しの調理師に「カラアゲのカレーライスください」と声を張った。他の者を真似た。
ほんの一瞬、騒々しかった周囲から音が止んだ。
振り返る間もなく、トレイがカウンターを横滑りしてきてシルヴィーの手元で止まった。凄い技を見た。
オーダーを受けた調理師はシルヴィーを新参者と見抜いてくれたようで「フルーツとナッツのサラダはセットでセルフだからお好きな量を取ってください。飲み物はあちら」と色々教えてくれた。
カレーを待つ間、シルヴィーは背後の棚からサラダを皿に取り、王国メーカーのドレッシングをかけてトレイの位置に戻った。
丁度、オーバル型のカレーの皿が載ったところだった。

――美味しそう。スゴイお腹鳴ってる……。

いそいそとトレイを抱えて、今度は席を探す。
すると、男女の割合が半々の一団が「ここ空いてまーす」と呼んでくれた。
有難くテーブルに加わったシルヴィーは、同席の面々を見た。

「皆さん、同じ魔法学科の方ですよね?」
「あ、もう僕らの事を覚えてくれたんですね」
「席から見える範囲の方と、活発に発言されてた方だけ」
「あの一番喋ってた奴はですね、学力イマイチです」
「え」
「でもメイジです。マカロンさんはメイジですか?」
「いえ、違います……」

反応に困る。彼らの表情や言動には悪意が見られない。教室での出迎えも、変わった趣向の歓迎だっただけかもしれない。
考えていると、「マカロン」呼びした男子を隣の女子が小突いた。

「ちゃんと名前で呼びなさいよ。――失礼しました、シルヴィー様。こいつバカなだけで悪気とかは無いんです」
「いえ、大丈夫です」

やはり彼らに悪気はなかった。なら気にしない。
メンバー内に気になる二人組がいる。多分、彼らも留学生。男女なのに似ている。
兄妹か姉弟かな、と想念するシルヴィーと彼らの目が合う。
男子の方が眉間に皺を寄せた。眼鏡をかけていて秀才っぽい。

「――俺は、まだ貴女を認めていない」
「え?」

彼に似た同じく眼鏡の女子が、彼の肩を突いた。

「すみません、兄はイタイ病を患ってますんで無視してください」
「え、あ、え?」
「私はイタイ兄とは違います。貴女は初心者の女子でありながら神のメニュー、カラアゲのカレーライスをチョイスした逸材。その見上げた度胸に敬服致します。貴女はもう我々の仲間です。でしょう、みんな」

うんうんと頷きながら各々食事に忙しい。ワ食率は五割ほどで、後はパスタにピッツァにケバブのサンドイッチというラインナップ。
とりあえずシルヴィーは「どうも」と笑んだ。ついでに誤解も解いておく。

「あの私、ザワークラウト嫌いではありません」

折角訂正した情報に、返って来たリアクションは「へえ」と薄い。別に良かったのだろうか。仲間認定の基準が分からない。
ともあれヒミカの助言通りカフェテリアに出向いたのは大正解だった。
なんとかやっていける気がして来た。

――友達百人は無理っぽいけど。

クラスメイト、全二十一人。百人には全然届かない。





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