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帝都編
35 放課後
シルヴィーは、登校初日を無事に乗り切った。
迎えの馬車でヒミカと顔を合わせるや、興奮気味に学校での出来事を語った。
「授業も先生もクラスメイトも全部面白かったです」
「凄く伝わっています。それより、語るべきお相手様はわたくしではございませんでしょう。ネタを取っておかれた方がよろしいのでは?」
「何度でも語ります」
「それはようございました」
シルヴィーの話に耳を傾けながら、ヒミカは懐かしんでいる雰囲気があった。
「魔法と科学の先生は相変わらずですね。この時代にあっても未だ錬金術師のつもりでいらっしゃる……」
「クラスメイトに男女の双子さんがいらっしゃるんですけど、男子の方が先生に心酔してました」
「いつの時代にも現れるんです。錬金術師になりたがる男子が……」
十分程度で馬車は城に到着した。
「ではまた明日」とヒミカが一礼し、シルヴィーも倣った。
週末まで彼女に送迎係をさせる事を申し訳なく思う。
――でもいてくれると心強いし。
話を聞いてもらえると振り返りになる上、楽しい。
午後三時のティータイム。
シルヴィーは、ヴィンツェンツにもヒミカに語ったのとさして大差のない内容を繰り返した。
ヒミカと違って帝都学園に通った事のないヴィンツェンツは、興味深げに話を聞いてくれる。民間人の学園生活が新鮮なのだろう。
「なるほど。それで、カラアゲのカレーライスというのは余程の美味なのか?」
あ、彼は食べた事ないんだ、とシルヴィーは瞬いた。
四時前にはティータイムと言う名のコーヒーブレイクを終えた。ビールが有名な帝国ながらコーヒーの消費量も多い。
本日の妃教育は、ヴィンツェンツとダンスのレッスンとなっていた。ヴィンツェンツは「無理をするな」と言ってくれたけれど、シルヴィーは「課題も何もないので」と笑み、休息よりも彼との共通レッスンを選んだ。
「クラブ活動とかもないですし、大して疲れてません」
「今後も入る予定はないんだな?」
「はい。皆さん、私の立場を配慮してくださっているようで勧誘はされませんでした。元々続けているクラブもありません」
「そうか。立場を言うなら生徒の議会というやつに招かれるのではないか?」
「生徒会ですよね。帝都学園にはあると今日教わったのですが、やはり勧誘はありませんでした」
「生徒会とやらは王都の学校にはなかったのか?」
「ありませんでした。クラブも乗馬とか美術とか名門クラブ以外は全然盛んではなかったです。放課後はみんな習い事や家業の手伝いなど、学校の外で忙しくしていましたね」
「学校も色々なのだな」
そう思う。違いに納得しつつシルヴィーは、差し出されたヴィンツェンツの手を取る。
二人の姿勢が整ったのを見て、ダンス講師は「はい、では行きましょう」と手を叩きバイオリンの奏者に促した。
演奏に合わせてステップを踏む。
最初はぎこちなかったシルヴィーも大分、至近距離にあるヴィンツェンツの美貌に慣れて来た。
――油断するとぼさっとしちゃうんだけど。
思った傍から「はい、ぼさっとしない」と教師の声が飛んで来た。
シルヴィーは慌てて気を引き締め、ヴィンツェンツと呼吸を揃える。すぐに動きが馴染む。彼曰く「夢で知っての通り私達は波長が合う。息が合うのは当然」だそうだ。
ヴィンツェンツはダンスの最中、楽し気にしている。楽しむ余裕がある。叱られるのは常にシルヴィーだけで、優等生の彼は他人事でいられる。
シルヴィーは余裕ある大人を羨んだ。
また「はい」と声が飛び、シルヴィーの頬が強張る。
終始、ヴィンツェンツは笑みを湛えていた。
夜。
シルヴィーは、霧深い森の切り株に腰掛けていた。
足元にウサギがぴゃーっと駆けて来たので、膝の上に抱え上げて撫でる。
不思議なウサギは両の掌に載せられる程のサイズしかなく、温もりは感じられるのに重さをあまり感じない。中にコットンか何かがぎゅっと詰まっているのだろうか。
興味が尽きない。
「換毛期はあるのかな?」と問いかけてみる。ウサギの白いすまし顔は瞑目したまま。お鼻がひくひくしただけ。
恐らく換毛期は無い。衣替えも必要に応じてアニマルが行う作業の一つながら、ウサギはビーストである。
「ウサちゃんが毛繕いしてるとこ、見た事ない」
被毛を持つアニマル諸君は、念入りに毛繕いをする事でふわっふわの毛並みを維持し、健康を維持している。戦闘力高めのウサギには必要ない。
「病気、しないのね」
ふわっふわを撫でながらシルヴィーは納得した。また一つウサギについて賢くなったと思う。
背後から彼の足音が近付いてきた。
「そなたはウサギばかりだな」
「気になって仕方がない子です。ヴィッツ様にご相談があります」
「……相変わらず唐突だな。申せ」
「ビーストウサちゃんの研究論文ってアウトですか?」
「それは、魔法学科のみ必須の卒業研究の事か?」
「そうです」
「ビーストの論文か。読んだ事がない訳ではないが……」
「あまり理解が進んでいない研究分野だと聞きました。クラスメイトとのネタ被りもなさそうですし、良いかなって思ったんですけど」
「まあ、そなたの自由だ。別に帝国的にNGという事はない」
「有難うございます。――そういう事だからウサちゃん、これからもよろしくね。急に会えなくなるとかホントやめてね? 私、泣いちゃうよ」
「必死だな……高が論文ごときで」
「高が、とか言えるって事はヴィッツ様、さては文章が得意ですね?」
「別に得意でもないが、海軍でも陸軍でも散々書かされて来たから慣れてはいる」
「得意な人の言い方ですよ、それ」
羨んだ後、またシルヴィーは唐突に「そうだ」と閃いた。
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