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31. 美しい水死体
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夏の盛りにパン食動物の女の子が、小川のほとりにドライフラワーでつくった花輪を持ってやってくる。そこには柳の木があり、そこから垂れ下がった大枝が生えている。生成りのワンピースを身に纏った彼女は、その大枝にドライフラワーの花輪を吊るそうとしたが、枝は脆い薬指のように折れ、花輪もろとも小川に落ちてしまう。太陽を仰ぐように彼女は小川に身を浸す。生成りのワンピースは、夏の陽光を乱反射する水面に広がり、空気を孕み膨らんでから、水を吸い萎んでいく。彼女と花輪は暫くゆらゆらと浮いているように見えたが、この小川は底が浅く、心配する27歳の私をよそに彼女が沈み溺れることはなかった。
「ひんやりして気持ちいいよ」と彼女は無邪気に私を小川へと誘う。私は太陽に理性の回路を灼かれたように、水のせせらぎに惑わされたが、その場に踏みとどまった。
彼女は水面から顔だけひょっこり出していたが、左右の耳は水中にあり、小川の唸るような水面下での水音に耳を澄ましているようだった。私はというと、真っ黒なサングラスで視線が覆い隠れていることをいいことに、仰向けになることで小高い丘のようになった彼女の控えめな胸のふくらみをぼんやりと見つめていた。
「今日のパンはおいしかったなぁ」とパン食動物が言う。
「なんでパンしか食べないの?」と私は言う。
「え?なに?」
「水から耳だしなよ。聞こえづらそうだから」
「なんて?」
「なんでパンしか食べないの!?」
「ああ、トラウマみたいなのがあってね。ハンバーガー食べてたときに、がりっていったの。何だろうと思って見てみたら、歯だったの。人間の歯っぽかった。歯垢が溜まってるみたいに黄ばんでたし、なんか臭そうだった。それからお肉が嫌になった。なんかそのときから、これは牛の死体をばらばらに切断して、ぐちょぐちょにミンチにして、べちょべちょに練って、じゅうじゅうって爛れるまで焼いたものだって思うようになっちゃったんだよね。だから、お肉を食べようとすると吐いちゃうのね」
「ベジタリアンなんだね。でも、野菜も食べてないから、パンタリアンだね」
聞こえてるのか聞こえてないのか、彼女は私の冗談にくすりとも笑わない。彼女はこちらが笑わそうとするとあまり笑わず、笑わそうとしていないところでよく笑う。
「ドライフラワーつくってるわたしは、花殺しだよね」とパンの話題に興味が失せた様子の彼女が、流されていく花輪を眼で追いながら言う。「ドライフラワーみたいに美しく死にたい」
彼女は小川から上がる。ピアスが太陽に反射して光る。夏に紅潮した顔に雫が滴る。生成りのワンピースが肌に擬態するみたいにぴったりと張り付き、身体の曲線が露わになる。彼女は下着を着けていない。生成りのワンピースから控えめな乳房とその先にあるものがわずかに透ける。股間の辺りは淫毛により黒く見える。それは、小さな闇を性器に抱えているようだった。
彼女は前屈みになり、雑巾絞りの要領でワンピースが吸った水を絞り出す。前傾になることによって胸元から滑らかな円錐のようになった乳房が覗く。
「ミレイのオフィーリアみたいだった」と私は言う。
「なんだっけ、それ?」
「庵が恋してた絵画」
「あぁ、そうだったね。同性愛者だけど、オフィーリアに恋してたんだね。綺麗な水死体だしね。美しすぎる水死体」
「水死体?」
「あれ、オフィーリアって水死するんでしょ?」
「うん、でもミレイのオフィーリアは死ぬ前の、落水した後に歌を口ずさんでるときの絵画だと思ってたけど」
「そうなの?わたしは水死体だと思ってた」
「・・・水死体」
その絵が水死体を描写したものなのかどうかを、私はよく知らない。だがこの際、ミレイが実際に何を描写したかなんてことはどうでもいいだろう。庵は水死体だと思って、この絵画を眺めていたのだろうか。もしそうなら、美しい水死体に恋をしていたのだろうか。
真夜中に大自然の中で私は開放的な自慰をした。半裸で四つん這いとなり、小川と性交するような態勢で、ペニスをしこしことシゴいた。小川は芳醇に潤う柔らかな膣を真似るようにペニスを包み込み、ゆるやかに射精へと導いていく。昼下がりに太陽の光のおかげでカメラのフィルムのように網膜に焼きついた、彼女の滑らかな円錐や小さな闇を思い浮かべる。ずしりと重みのある射精の気配が膀胱の奥に訪れる。そして、程なくしてどぴゅどぴゅと射精する。脈打つポンプのように9回はどぴゅっとした。
私は小川に流される精液を見送り、川を泳ぎ蛙となるオタマジャクシを妄想する。眠気を伴う心地よい疲労感とともに月を仰ぐように小川に身を浸し、水死体を真似る。敏感になった私の肌を、小川がくまなく愛撫するように流れていく。それはオフィーリアを殺した小川とは全く違う優しい小川だった。こそこそ部屋で自慰しなくてもいい。大自然オナニーに、ハマりそうです。
「ひんやりして気持ちいいよ」と彼女は無邪気に私を小川へと誘う。私は太陽に理性の回路を灼かれたように、水のせせらぎに惑わされたが、その場に踏みとどまった。
彼女は水面から顔だけひょっこり出していたが、左右の耳は水中にあり、小川の唸るような水面下での水音に耳を澄ましているようだった。私はというと、真っ黒なサングラスで視線が覆い隠れていることをいいことに、仰向けになることで小高い丘のようになった彼女の控えめな胸のふくらみをぼんやりと見つめていた。
「今日のパンはおいしかったなぁ」とパン食動物が言う。
「なんでパンしか食べないの?」と私は言う。
「え?なに?」
「水から耳だしなよ。聞こえづらそうだから」
「なんて?」
「なんでパンしか食べないの!?」
「ああ、トラウマみたいなのがあってね。ハンバーガー食べてたときに、がりっていったの。何だろうと思って見てみたら、歯だったの。人間の歯っぽかった。歯垢が溜まってるみたいに黄ばんでたし、なんか臭そうだった。それからお肉が嫌になった。なんかそのときから、これは牛の死体をばらばらに切断して、ぐちょぐちょにミンチにして、べちょべちょに練って、じゅうじゅうって爛れるまで焼いたものだって思うようになっちゃったんだよね。だから、お肉を食べようとすると吐いちゃうのね」
「ベジタリアンなんだね。でも、野菜も食べてないから、パンタリアンだね」
聞こえてるのか聞こえてないのか、彼女は私の冗談にくすりとも笑わない。彼女はこちらが笑わそうとするとあまり笑わず、笑わそうとしていないところでよく笑う。
「ドライフラワーつくってるわたしは、花殺しだよね」とパンの話題に興味が失せた様子の彼女が、流されていく花輪を眼で追いながら言う。「ドライフラワーみたいに美しく死にたい」
彼女は小川から上がる。ピアスが太陽に反射して光る。夏に紅潮した顔に雫が滴る。生成りのワンピースが肌に擬態するみたいにぴったりと張り付き、身体の曲線が露わになる。彼女は下着を着けていない。生成りのワンピースから控えめな乳房とその先にあるものがわずかに透ける。股間の辺りは淫毛により黒く見える。それは、小さな闇を性器に抱えているようだった。
彼女は前屈みになり、雑巾絞りの要領でワンピースが吸った水を絞り出す。前傾になることによって胸元から滑らかな円錐のようになった乳房が覗く。
「ミレイのオフィーリアみたいだった」と私は言う。
「なんだっけ、それ?」
「庵が恋してた絵画」
「あぁ、そうだったね。同性愛者だけど、オフィーリアに恋してたんだね。綺麗な水死体だしね。美しすぎる水死体」
「水死体?」
「あれ、オフィーリアって水死するんでしょ?」
「うん、でもミレイのオフィーリアは死ぬ前の、落水した後に歌を口ずさんでるときの絵画だと思ってたけど」
「そうなの?わたしは水死体だと思ってた」
「・・・水死体」
その絵が水死体を描写したものなのかどうかを、私はよく知らない。だがこの際、ミレイが実際に何を描写したかなんてことはどうでもいいだろう。庵は水死体だと思って、この絵画を眺めていたのだろうか。もしそうなら、美しい水死体に恋をしていたのだろうか。
真夜中に大自然の中で私は開放的な自慰をした。半裸で四つん這いとなり、小川と性交するような態勢で、ペニスをしこしことシゴいた。小川は芳醇に潤う柔らかな膣を真似るようにペニスを包み込み、ゆるやかに射精へと導いていく。昼下がりに太陽の光のおかげでカメラのフィルムのように網膜に焼きついた、彼女の滑らかな円錐や小さな闇を思い浮かべる。ずしりと重みのある射精の気配が膀胱の奥に訪れる。そして、程なくしてどぴゅどぴゅと射精する。脈打つポンプのように9回はどぴゅっとした。
私は小川に流される精液を見送り、川を泳ぎ蛙となるオタマジャクシを妄想する。眠気を伴う心地よい疲労感とともに月を仰ぐように小川に身を浸し、水死体を真似る。敏感になった私の肌を、小川がくまなく愛撫するように流れていく。それはオフィーリアを殺した小川とは全く違う優しい小川だった。こそこそ部屋で自慰しなくてもいい。大自然オナニーに、ハマりそうです。
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