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ポリティカル・コレクトネスなキツネとツル
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あるポリティカル・コレクトネスな動物の国に、これまた素晴らしいポリティカル・コレクトネス精神を持ち合わせたキツネが住んでいました。
彼がかつて犯した罪の償いに木の実やら何やらを譲り渡しに、ある男の家へ行った、その帰りのことです。
ふう、今日も、疲れた。いつか、許してくれればいいな……罪を償うという、ある種の充実感、悪の更生という正にポリティカル・コレクトネスな行いへの満足感、それらを味わいながら、スキップせんばかりにキツネは歩いていました。
そこに、一羽のツルが飛んできました。空から友を見つけ、降りてきたのです。
「やあ、キツネ君。何やら楽しそうだね」ツルは言いました。
「ああ。罪を償うって気持ちがいいね」キツネは笑って返します。
「あの事については、あまり気にしなくてもいいんじゃないかな」
ツルは、キツネから既に彼の犯した罪のことを聞いていました。そして、キツネの罪は不可抗力によるものであり、彼がその事について思い詰める必要はないと考えていました。
しかし、ツルはそう言うものの、キツネが償いを辞める事は無いだろうとも考えていました。キツネのそういう律儀な所は間違いなく彼の美点であるから、それ以上は言いません。
キツネは「そうだ」と、急に何かを思いついたのか、言いました。
「どうしたい?」ツルは長い首を傾げます。
「今朝は、木の実がよく取れてね。たくさんスープを作ったんだ。どうだいツル君、ウチへ来ないか。ご馳走するよ」
「いいね。ご馳走になるよ」ツルは白い羽をバタバタさせて、同意を示しました。
キツネの家に着くと、彼は「少し待っててくれよ。スープを温めてくるからさ」とツルを椅子に座らせて、自分は台所へと消えました。
ツルが待っていると、やがて平たい皿に入ったスープが運ばれてきました。
「丹精込めて作ったんだ。召し上がれ」
キツネはそう言いますが、ツルの長いくちばしでは平たい皿に入ったスープは飲むことができません。
ツルがどうすることも出来ずいると、その様子にキツネが気付いて言いました。
「やあ、しまった。うっかりしていた。コレでは君が飲めないね。どうしようか、細長い皿は家にないし」
キツネに悪気はなかったので、彼はたじたじとしました。
「大丈夫だよ。飲みにくくても、全く飲めないことも無い」
ツルはそう言ってくちばしを器用に使い、スープをちびりちびりと飲み始めました。
「うん。とても美味しい」
「僕はいい友達を持ったなあ」とキツネは言い、スープをペロり。「あちち」
「君はイヌ科なのに、猫舌だねえ」とツルは笑いました。
ツルがスープを飲み終えるのには大変時間がかかりました。でも、その分二匹はたくさんお話をしました。たくさん笑いました。
有意義な時間を過ごした後、二匹はある約束を酌み交わしました。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。ごめんよ。配慮が足りなかったね。僕もまだまだだ」
「いやいや、おかげで楽しい時間が過ごせたよ。そうだ、今度は家に来ないかい?僕もスープを作ろう。もちろん、お皿を用意してね」
約束の日、キツネはいつもの仕事を終えて、ツルの家へ向かいました。
家へ入ると、ツルはエプロン姿で迎えてくれました。「やあ、よく来たね」
しばらくくつろいでいると、壺のような器に入れられたスープが運ばれてきました。覗いてみれば、澄んだスープが波打っています。
「二匹とも同じくらい飲めるように、長いものと平たいものの中間をとってみたんだ」ツルは壺を羽で指して、嬉しそうに言いました。
「じゃあ、いただきます」
そう言ってから、キツネはスープをペロり。頭はほとんど壺に突っ込むような形になっています。
「少しぬるめにしておいたんだ。お味はどうだい?」
ツルが聞きました。
キツネは「うん。美味しい」と言いました。しかし、頭を壺に突っ込んでいたので、声がこもってツルにはよく聞こえませんでした。
ツルが聞き直すと、キツネは顔を上げて同じことを言いました。
それでは自分も、とツルもスープを飲みます。彼のくちばし十分に長いので、頭を壺に突っ込むようなことはありません。しかし、普段使っている長い器よりも飲みづらいことは否めません。
キツネが見かねて、言いました。
「ツル君、君はいつもの長いお皿を使ったらどうだい」
「いやいや、何だか君に悪いよ」
しかし、ツルはそう言うばかりです。
二匹は、ほとんど無言の時間をしばらく過ごしました。なぜなら、器の構造上話しながらスープを飲むことが出来なかったからです。
でも、二匹は不満を漏らすことはありません。
スープを飲み終え、こう笑い合うのみです。
「中途半端な平等というものは不便だねえ」
彼がかつて犯した罪の償いに木の実やら何やらを譲り渡しに、ある男の家へ行った、その帰りのことです。
ふう、今日も、疲れた。いつか、許してくれればいいな……罪を償うという、ある種の充実感、悪の更生という正にポリティカル・コレクトネスな行いへの満足感、それらを味わいながら、スキップせんばかりにキツネは歩いていました。
そこに、一羽のツルが飛んできました。空から友を見つけ、降りてきたのです。
「やあ、キツネ君。何やら楽しそうだね」ツルは言いました。
「ああ。罪を償うって気持ちがいいね」キツネは笑って返します。
「あの事については、あまり気にしなくてもいいんじゃないかな」
ツルは、キツネから既に彼の犯した罪のことを聞いていました。そして、キツネの罪は不可抗力によるものであり、彼がその事について思い詰める必要はないと考えていました。
しかし、ツルはそう言うものの、キツネが償いを辞める事は無いだろうとも考えていました。キツネのそういう律儀な所は間違いなく彼の美点であるから、それ以上は言いません。
キツネは「そうだ」と、急に何かを思いついたのか、言いました。
「どうしたい?」ツルは長い首を傾げます。
「今朝は、木の実がよく取れてね。たくさんスープを作ったんだ。どうだいツル君、ウチへ来ないか。ご馳走するよ」
「いいね。ご馳走になるよ」ツルは白い羽をバタバタさせて、同意を示しました。
キツネの家に着くと、彼は「少し待っててくれよ。スープを温めてくるからさ」とツルを椅子に座らせて、自分は台所へと消えました。
ツルが待っていると、やがて平たい皿に入ったスープが運ばれてきました。
「丹精込めて作ったんだ。召し上がれ」
キツネはそう言いますが、ツルの長いくちばしでは平たい皿に入ったスープは飲むことができません。
ツルがどうすることも出来ずいると、その様子にキツネが気付いて言いました。
「やあ、しまった。うっかりしていた。コレでは君が飲めないね。どうしようか、細長い皿は家にないし」
キツネに悪気はなかったので、彼はたじたじとしました。
「大丈夫だよ。飲みにくくても、全く飲めないことも無い」
ツルはそう言ってくちばしを器用に使い、スープをちびりちびりと飲み始めました。
「うん。とても美味しい」
「僕はいい友達を持ったなあ」とキツネは言い、スープをペロり。「あちち」
「君はイヌ科なのに、猫舌だねえ」とツルは笑いました。
ツルがスープを飲み終えるのには大変時間がかかりました。でも、その分二匹はたくさんお話をしました。たくさん笑いました。
有意義な時間を過ごした後、二匹はある約束を酌み交わしました。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。ごめんよ。配慮が足りなかったね。僕もまだまだだ」
「いやいや、おかげで楽しい時間が過ごせたよ。そうだ、今度は家に来ないかい?僕もスープを作ろう。もちろん、お皿を用意してね」
約束の日、キツネはいつもの仕事を終えて、ツルの家へ向かいました。
家へ入ると、ツルはエプロン姿で迎えてくれました。「やあ、よく来たね」
しばらくくつろいでいると、壺のような器に入れられたスープが運ばれてきました。覗いてみれば、澄んだスープが波打っています。
「二匹とも同じくらい飲めるように、長いものと平たいものの中間をとってみたんだ」ツルは壺を羽で指して、嬉しそうに言いました。
「じゃあ、いただきます」
そう言ってから、キツネはスープをペロり。頭はほとんど壺に突っ込むような形になっています。
「少しぬるめにしておいたんだ。お味はどうだい?」
ツルが聞きました。
キツネは「うん。美味しい」と言いました。しかし、頭を壺に突っ込んでいたので、声がこもってツルにはよく聞こえませんでした。
ツルが聞き直すと、キツネは顔を上げて同じことを言いました。
それでは自分も、とツルもスープを飲みます。彼のくちばし十分に長いので、頭を壺に突っ込むようなことはありません。しかし、普段使っている長い器よりも飲みづらいことは否めません。
キツネが見かねて、言いました。
「ツル君、君はいつもの長いお皿を使ったらどうだい」
「いやいや、何だか君に悪いよ」
しかし、ツルはそう言うばかりです。
二匹は、ほとんど無言の時間をしばらく過ごしました。なぜなら、器の構造上話しながらスープを飲むことが出来なかったからです。
でも、二匹は不満を漏らすことはありません。
スープを飲み終え、こう笑い合うのみです。
「中途半端な平等というものは不便だねえ」
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