七夕伝説

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星が裂ける夜 七星 姫奈 視点

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 七月七日――あの日から、もう半年が過ぎた。
 異形が“世界の問題”として認識され始めたのは四月。
 最初は行方不明者が増えただけだった。けれど、映像が残った。人ならざるものが、人を喰らう、その瞬間。
 そして、ついに政府も動き始めた。
 でも、私たちの前には――一度も現れていない。

 理由は分かっていた。
 “七夕の夜に、空を見た時”――異形は私たちの前に姿を現す。

 だから今、私たちはここにいる。
 街から遠く離れた、人工の光も届かない草原。夜風が草を揺らし、虫の音すらも消えた静寂の中。
 誰も巻き込まないために。誰にも知られないように。

 流星と私は、言葉を交わさずにうなずき合った。
 そして――空を、見上げる。

 その瞬間、空が「音を立てて」割れた。
 真っ黒な裂け目から、ぞわぞわと、ねばつくような気配が流れ込んでくる。

 あれが、“闇”。

 割れ目から、形容しがたい異形が這い出てきた。手とも足ともつかない四肢、ねじれた関節、目がないのに見つめられているような感覚――それが、ぞろぞろと、空からこぼれ落ちてくる。

「行くよ」

 呟くように言って、私は手の甲に五芒星を描く。
 同時に流星も。光が弾け、漢服の衣が風を纏って揺れ、手には月星刀が現れる。

 足に力を込めて、空へ跳んだ。
 何もないはずの空に、確かな「踏み場」があった。星の粒のような透明な台が、足元に現れる。

 私は空を駆ける。
 一体、また一体と、異形の首元を見極め、刀を振る。
 刃が通った瞬間、異形は光の粒となって砕ける。闇が浄化されるように、静かに、確かに消えていく。

「はっ……!」

 ひと太刀、またひと太刀。恐怖は不思議とない。ただ体が勝手に動き、星のように煌めく台を蹴って跳ぶ。
 流星もすぐそばにいて、無言で呼吸を合わせながら、私の背を守るように動いていた。

 やがて、最後の一体の頸を斬り落としたとき――

 空の裂け目がゆっくりと閉じていった。
 私たちの装束も、月星刀も、静かに光に還り、制服姿に戻っていた。

 深呼吸する。まだ胸がどきどきと脈打っている。けれど、地上に戻った瞬間、夜の風が頬をなでた。

「終わった……のかな?」

 誰に言うでもなく呟いた声に、流星がぽつりと答えた。

「いや……始まったんだと思う。これから、本当の戦いが」

 そうかもしれない。
 星の夜は、終わらない。だけど、もう私は怖くない。

 隣に、彼がいるから。
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