七夕伝説

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迫る刻 七星 姫奈 視点

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 6月下旬。梅雨の名残が空を覆いながらも、蒸し暑さだけは容赦なく押し寄せてきていた。

 その日、日本中が凍りついた。

 テレビでも、ネットでも、ニュースアプリでも――
 「異形の出現件数、急増」
 そんな見出しが踊った。

 しかも今回は、ただの目撃情報や曖昧な映像ではない。
 街中での襲撃。行方不明者。焦げたように歪んだ路面。
 今まで隠されてきた異形の痕跡が、隠しきれなくなっていた。

 私はスマホの画面を見ながら、目を逸らしたくなった。

 ――とうとう、来る。

 心がそう囁いた。
 いや、もうわかっていた。
 七夕が近づくにつれ、異形は確実に“門”をこじ開けようとしている。

 「次が最後の戦いになるかもしれない」

 そう思った瞬間、喉の奥がきゅっと痛くなった。

 その日からの稽古は、まるで自分を叩き壊すかのようだった。

 高校の授業が終わる頃には、もう体は限界だった。
 眠気で意識が霞み、黒板の字もまともに読めない。
 それでも、流星と一緒に屋敷へ戻り、無言で稽古場へ向かう。

 振る。走る。転ぶ。血が滲む。
 それでも立ち上がる。

 誰も何も言わない。
 もう言葉を交わさなくても、わかるようになっていた。

 でも、心のどこかで、私は気づいてしまった。

 ――この関係も、七夕で終わる。

 それが“運命”だから。
 織姫と彦星の血を継ぐ者としての宿命。
 決戦が終われば、私たちはもう――

 胸の奥がざわめく。
 振り払いたくて、また木刀を握る。

 でも、たとえ終わりが待っていても、私は後悔しない。
 流星と過ごしたこの一年。出会えた奇跡。
 一緒に笑ったこと、一緒に立ち向かった夜。
 その全てが、私にとっての“生きている意味”だったから。

 あと少し――
 この大切な時間が、終わってしまう前に。

 私は、あなたと共に最後まで戦う。
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