生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

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――時は流れた。

王女はやがて女王となり、堂々と国を治めた。子を産み、葵にその成長を見せながら、自らの人生を誇らしく歩んでいった。
そして、次の世代へと王冠は受け継がれる。
玉座に座る顔ぶれは変わっても、玉座の脇に立つ私の姿は、十八の頃のまま変わらなかった。

国の者たちは「葵さまは女神の遣いだ」と噂した。
私は助言をし、ときに導き、ときにただ傍らで静かに見守った。けれど年月が重なるほど、その変わらぬ姿は人と私を隔てる壁にもなった。皆は敬うが、誰も本当の意味で隣には立てない。

だから、私は決めた。
――この国を離れ、旅に出よう。

「助けを求める誰かの支えになれるなら」
そう願ったのは、最初に女神に転生を与えられたときと同じ気持ちだった。長く生きる私だからこそ、誰かの苦しみに寄り添えるかもしれない。

出立の朝、王国の城門は静かに開かれた。
女王とその家族が私を見送ってくれた。彼らは涙ぐみながらも「行ってらっしゃい」と笑顔で送り出す。その笑顔は、かつて私が初めて出会った幼い王女の面影を残していた。

「ありがとう」
そう告げて私は深く頭を下げる。そして、懐かしいウィッグを被り、グレーのカラコンをはめた。長い間、私を守ってきた仮面。その感触に懐かしさが込み上げる。

門をくぐり、街道に足を踏み出すと、空気が変わった。
自由の匂い。孤独の匂い。そして、まだ見ぬ世界の匂い。

「まずは……海に行こう」

広い海を見れば、何かがわかるかもしれない。
私がどう生き、どこへ向かえばいいのか――その答えを。

朝日が差す街道を歩きながら、私は深く息を吸った。永遠に続く旅路の始まりを、胸いっぱいに感じながら。
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