生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

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港町に着いた瞬間、葵の目に飛び込んできたのは、どこまでも続く広大な海だった。太陽の光を受けて波間は銀色に輝き、潮風は頬をなでるように優しく吹きつける。その匂いには、これまでの旅の疲れを洗い流すような力があった。
「私は、もう誰にも縛られない。この世界では、自分のありのままで生きていく」
葵は静かに誓いを胸に刻み、深く息を吸い込んだ。海の青さは、まるで新しい人生の始まりを祝福するかのように広がっていた。

そんな港町で、葵はひとりの少女と出会う。年はまだ十五、十六ほどだろうか。小柄ながらも瞳には強い光が宿り、手には訓練用の剣を握りしめていた。少女はまっすぐ葵を見据え、気迫を込めて叫ぶ。
「女だから騎士になれない?そんなのおかしいでしょう!」

葵の胸に、かつて地球で感じていた理不尽さの記憶が蘇る。性別や立場によって可能性を奪われるあの息苦しさ――。少女の言葉は、葵の心を鋭く突き動かした。

「なら、私が教えてあげる」
葵は剣を抜き、少女に正しい構えを示す。最初はぎこちなく、何度も転びそうになる少女だったが、汗にまみれながら何度も立ち上がった。剣の振り方、重心の置き方、足さばき――。葵はひとつひとつ丁寧に教え続けた。

さらに馬小屋へ行き、馬の背にまたがる方法も伝える。少女は最初こそ不安そうだったが、風を切って駆けるうちにその顔は次第に笑顔へと変わっていった。港町の石畳を抜け、白い砂浜を駆け抜ける少女の姿は、自由そのものだった。

そして数年後。少女はついに王国初の女騎士として認められる。誰もが不可能だと思っていた夢を、現実に変えたのだ。その瞬間、葵は静かに涙をこぼした。自分の教えた技術が、少女の未来を拓き、世界を変える一歩となったのだから。
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