お江戸物語 才蔵とお艶

らんふぁ

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二章 クチナシの花

-話

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ヒュッと一羽のツバメが目の前を横切って飛んで行き、巣に戻った。

ピチチ!ピチチ!

途端に餌をねだって、一斉に黄色いくちばしを目一杯開けるヒナ達。

初夏の風物詩にお艶は笑みを浮かべる。

そこへ「お艶じゃねぇか?」と声がかかり振り返ると亭主殿。

今日は一膳飯屋の“いわきや”が何時にもまして繁盛し、総ざらえとなったので、お艶は早目の店じまい。

大汗をかいたので、さっぱりしたくなったお艶は何時もより早い時刻に湯屋へ行き、ついでに買い物をして帰って来たところで、バッタリ才蔵と出会った。

一緒にいた下っ引きの三太がお艶を見つめ思わず「姐さん……色っぽい♪」と呟いた。

ぱかん☆

才蔵が三太を張り倒す。「こら、人の女房を亭主の前で口説くんじゃねぇ!」

確かに湯上がりの肌がほのかに桜色に上気し、洗い髪を解いているお艶は、どこぞの錦絵になってもおかしくない色っぽさ。

つい才蔵も見とれていたので照れ隠しに三太をひっぱたいたのだ。


お艶はにっこりと亭主を労う。「お帰り、お前さん。お疲れ様。三太もね。それにしても今日は又随分早いじゃないか。」

まだ日も高い。
珍しいと言って良い。

才蔵が嬉しげに「今日は特に何もねぇし、神野の旦那が、たまには早く帰って恋女房と過ごしてやれ、と粋な計らいをして下さったのさ」

「そりゃ、旦那に感謝しないと。」

「お前も随分早く店じまいしたんだな。」

「そう。今日は有難い事に繁盛してねぇ……夕飯に出す物が無くなっちゃったんだよ。だから湯屋に行った帰りに買い物したんだけど……」
間に合わなかったねと苦笑い。

「いいさ、こっちが早かったんだ」

「すぐご飯にするからね、少し待ってておくれな。三太、お前さんも食べてお行き。どうせ家にはロクなモンも無いんだろ?」

「図星だ。姐さんの言う通り、な~んにも」と三太は笑い、照れ隠しに頭を掻く。


「お艶、後で握り飯でも持たせてやんな。朝コイツの家に行ったら、米櫃に米一粒もありゃしねぇんだから。布団は万年床だし、絵双紙ばかり眺めてるんだろ?……しまいにキノコでも生えるぞ」

「え?親分良く分かりやしたね、前に生えたんスよ」

「ん、もう、やだよ、この無精もん!」とお艶は眉をひそめ、才蔵は三太を叩き、「バカ野郎!早く可愛い嫁さんでも貰え!」と怒鳴った。
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