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一章 辻斬り
三話
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「もう…寿命が縮まったよ、お前さん…」涙ぐみながらお艶が言った。
血まみれの着物を広げると、肩から胸にかけ見事な袈裟がけの斬り口だ。
「……良くも助かったモンだぜ」つくづく才蔵は呟く。
お艶は涙を袖口で拭くと、気を取り直したように殊更明るく亭主に話しかけた。「…お前さん、ご飯は?食べられるかい?」
ごく普通の事を口にするのがこんなに嬉しい……。
だが、立ち上がりかけたお艶に才蔵は動く方の手を伸ばした。「……ここへ。側に来い」
逆わらずに側に座ったお艶を、才蔵は不自由な身体で抱きしめ、唇を重ねた。
「……冷てぇな」
再び涙が浮かぶお艶……
「……お前さんが死ぬほど驚かすからだよ……血の気が戻ってないんだ」
才蔵は痛みをこらえ、腕に力を込める。「…大丈夫だ。俺は生きて、こうしてお前の側にいる」
お艶は彼の無事な方の胸に顔をうずめ……泣いた。
才蔵が女房の顎に手をかけ仰向かせると再び唇を落とす。
その先に進みそうな気配……。
「駄目だよ……傷に触るだろう?ーー先生も無理しちゃいけないって……」
才蔵は唇を首筋……その先に移動しながら、そっと笑って見せた。「片手が不自由なぐらいで、お前を抱けない程ヤワじゃない」
「ダメだったら……!お前さん、熱が上がっちまうよ……!」
「お前は血の気が引いて冷たいんだ。熱冷ましにはちょうど良いさ」
「もう……バカ言って……」
生きている事を確認するように才蔵とお艶は燃えた。
「--いつでも……生きてあたしの元に戻っておくれよ、お前さん……」
翌日、才蔵は熱が出た。
「ーーだから言ったのに」額に冷たい手拭いを当ててやりながらお艶が言う。
「え?何を言ったんです?お艶姐さん」見舞いに来ていた下っ引きの三太が尋ねた。
ちょっと赤くなったお艶は、ニヤッと笑った。「……いえね、いざと言う時は、三太、お前を身代わりにしろって言ってたのさ」
思わず泣きを入れる三太「姐さん、そりゃひでぇよ!」
才蔵は寝ている寝床で笑い転げ、傷の痛みに顔をしかめた。
終
血まみれの着物を広げると、肩から胸にかけ見事な袈裟がけの斬り口だ。
「……良くも助かったモンだぜ」つくづく才蔵は呟く。
お艶は涙を袖口で拭くと、気を取り直したように殊更明るく亭主に話しかけた。「…お前さん、ご飯は?食べられるかい?」
ごく普通の事を口にするのがこんなに嬉しい……。
だが、立ち上がりかけたお艶に才蔵は動く方の手を伸ばした。「……ここへ。側に来い」
逆わらずに側に座ったお艶を、才蔵は不自由な身体で抱きしめ、唇を重ねた。
「……冷てぇな」
再び涙が浮かぶお艶……
「……お前さんが死ぬほど驚かすからだよ……血の気が戻ってないんだ」
才蔵は痛みをこらえ、腕に力を込める。「…大丈夫だ。俺は生きて、こうしてお前の側にいる」
お艶は彼の無事な方の胸に顔をうずめ……泣いた。
才蔵が女房の顎に手をかけ仰向かせると再び唇を落とす。
その先に進みそうな気配……。
「駄目だよ……傷に触るだろう?ーー先生も無理しちゃいけないって……」
才蔵は唇を首筋……その先に移動しながら、そっと笑って見せた。「片手が不自由なぐらいで、お前を抱けない程ヤワじゃない」
「ダメだったら……!お前さん、熱が上がっちまうよ……!」
「お前は血の気が引いて冷たいんだ。熱冷ましにはちょうど良いさ」
「もう……バカ言って……」
生きている事を確認するように才蔵とお艶は燃えた。
「--いつでも……生きてあたしの元に戻っておくれよ、お前さん……」
翌日、才蔵は熱が出た。
「ーーだから言ったのに」額に冷たい手拭いを当ててやりながらお艶が言う。
「え?何を言ったんです?お艶姐さん」見舞いに来ていた下っ引きの三太が尋ねた。
ちょっと赤くなったお艶は、ニヤッと笑った。「……いえね、いざと言う時は、三太、お前を身代わりにしろって言ってたのさ」
思わず泣きを入れる三太「姐さん、そりゃひでぇよ!」
才蔵は寝ている寝床で笑い転げ、傷の痛みに顔をしかめた。
終
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