6 / 15
二章 クチナシの花
三話
しおりを挟む
慌てて用意しておいた、握り飯と漬け物を渡してやる。
「この刻限なら、まだ米屋の三好屋が開いてるんスよ。明日の朝は姐さんの握り飯があるから良いとして、それからは困りますからね」
三太の説明にお艶は納得し見送った。
「そうかい。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「へい。お休みなさい、親分」
「おう、又明日な。たまに早く帰った時くらい、絵双紙ばかり見てねぇで、少しは掃除しろ」
「へ~い」
才蔵の家を出た三太は独りごちる。「嫁さんか……」
お艶に言ったように、それから三太は、店を閉まいかけた米屋に駆け込み、米を2升ばかり買った。
わずかに明るさが残る日暮れ時……長屋に帰る道すがら、何処からか甘い香りが漂った。
目をやると匂いの元は白いクチナシの花。
日当たりのせいだろうか……他の蕾はまだ固いのに、一輪だけ早く蕾を開かせている。
“クチナシ”か……。
三太は辺りを見回し、人がいない事を確かめてそっと話しかけた。
「……お前にオイラの秘密を教えてやるよ……親分は嫁さん貰えって言うけどさ、身近に優しくて綺麗な理想の嫁さんがいたら、なかなか見つからないよ……。 おい、ここだけの話だぜ?内緒にしとけよ」
白いクチナシの花に口止めした三太。
ひっそりと咲くクチナシ……。
クチナシの花のようにひっそりとした自分の恋……。
だが、クチナシはその甘い香りで己の存在を明かすのだ……。
例え闇の中だろうと……。
同じように、オイラの恋も匂うんだろうか……?
クチナシよ、この気持ちを隠してくんな。
誰にも……誰にも知られずにすむように……。
「この刻限なら、まだ米屋の三好屋が開いてるんスよ。明日の朝は姐さんの握り飯があるから良いとして、それからは困りますからね」
三太の説明にお艶は納得し見送った。
「そうかい。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「へい。お休みなさい、親分」
「おう、又明日な。たまに早く帰った時くらい、絵双紙ばかり見てねぇで、少しは掃除しろ」
「へ~い」
才蔵の家を出た三太は独りごちる。「嫁さんか……」
お艶に言ったように、それから三太は、店を閉まいかけた米屋に駆け込み、米を2升ばかり買った。
わずかに明るさが残る日暮れ時……長屋に帰る道すがら、何処からか甘い香りが漂った。
目をやると匂いの元は白いクチナシの花。
日当たりのせいだろうか……他の蕾はまだ固いのに、一輪だけ早く蕾を開かせている。
“クチナシ”か……。
三太は辺りを見回し、人がいない事を確かめてそっと話しかけた。
「……お前にオイラの秘密を教えてやるよ……親分は嫁さん貰えって言うけどさ、身近に優しくて綺麗な理想の嫁さんがいたら、なかなか見つからないよ……。 おい、ここだけの話だぜ?内緒にしとけよ」
白いクチナシの花に口止めした三太。
ひっそりと咲くクチナシ……。
クチナシの花のようにひっそりとした自分の恋……。
だが、クチナシはその甘い香りで己の存在を明かすのだ……。
例え闇の中だろうと……。
同じように、オイラの恋も匂うんだろうか……?
クチナシよ、この気持ちを隠してくんな。
誰にも……誰にも知られずにすむように……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる