お江戸物語 才蔵とお艶

らんふぁ

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二章 クチナシの花

三話

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慌てて用意しておいた、握り飯と漬け物を渡してやる。

「この刻限なら、まだ米屋の三好屋が開いてるんスよ。明日の朝は姐さんの握り飯があるから良いとして、それからは困りますからね」
三太の説明にお艶は納得し見送った。

「そうかい。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」

「へい。お休みなさい、親分」

「おう、又明日な。たまに早く帰った時くらい、絵双紙ばかり見てねぇで、少しは掃除しろ」

「へ~い」


才蔵の家を出た三太は独りごちる。「嫁さんか……」


お艶に言ったように、それから三太は、店を閉まいかけた米屋に駆け込み、米を2升ばかり買った。


わずかに明るさが残る日暮れ時……長屋に帰る道すがら、何処からか甘い香りが漂った。


目をやると匂いの元は白いクチナシの花。
日当たりのせいだろうか……他の蕾はまだ固いのに、一輪だけ早く蕾を開かせている。


“クチナシ”か……。 

三太は辺りを見回し、人がいない事を確かめてそっと話しかけた。
「……お前にオイラの秘密を教えてやるよ……親分は嫁さん貰えって言うけどさ、身近に優しくて綺麗な理想の嫁さんがいたら、なかなか見つからないよ……。 おい、ここだけの話だぜ?内緒にしとけよ」

白いクチナシの花に口止めした三太。 

ひっそりと咲くクチナシ……。 

クチナシの花のようにひっそりとした自分の恋……。 

だが、クチナシはその甘い香りで己の存在を明かすのだ……。 

例え闇の中だろうと……。 


同じように、オイラの恋も匂うんだろうか……?


クチナシよ、この気持ちを隠してくんな。

誰にも……誰にも知られずにすむように……。 
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