5 / 28
5話
しおりを挟む
“初めに大いなる神あり。神は万の源にて天には日と月と星を、地にはエンデュミオンを創り給う。”
神が創り嘉し給うた、美わしエンデュミオン。そは誰が為ぞ?子らの為なり。
神、子らを言祝ぎて豊けき大地を与え給わん”
ーエンデュミオン創世記第一章
“人の子、いつしか欲心起こりて、自ら神にならんと欲す。父に逆らい禁忌犯せし人の子は、この時より災いの種とならん。
神、大いに怒り嘆かれ、悲しみのあまりその御身を隠し給う。
その咎大きく、罪人、神を忘れて汚れし者と成り果てぬ”
ーエンデュミオン創世記第四章
……パタン。
ため息と共に、ジルヴェス大司教は何百、何千と読んだ部厚い聖典を閉じ、椅子の背もたれに寄りかかった。
満月が2つーー煌々と夜空を照らし、月光が射し込み部屋の中に窓の影を形作っている。
あの2つの月は今晩合を迎える。
前回の時から50年以上経ち、再び瘴気が発生
して来ている。
故に彼らは決行するだろう。忌まわしき【聖女召還】の儀式を。
人の子が罪を犯して後、“神が嘉し給うた美しいエンデュミオン”ではなくなってしまった。
周期的に瘴気が発生し、人も動植物も生存が危ぶまれて行く。
その瘴気を浄化する為に異世界から聖女を召還する。
神の怒りに触れたこの世界の者には浄化が出来ず、こちらの理から外れた者、すなわち異世界人のみそれを可能とするからだ。
人が遠い昔に犯した罪により、瘴気が発生したと聖典は説く。
その罪とやらが何だったのかは詳しくは不明だが、過去は変えられない。
先祖が何かやらかし、このような世界になってしまった、という事が厳然たる事実である。
今の世に伝わっているのはその解決方法だけだ。
【召還】
大昔の大魔道師エンヤが、この世界の誰もがどうにもできない解決法を【外】に求めたのだと。
壮絶な実験を繰り返し、遂にエンヤは1人の少女を召還する事に成功する。
彼の思惑通り、少女は見事に聖女となり、浄化をしてのけたのだった。
それからは瘴気が濃くなると召還の儀式が行われ、聖女が浄化を行い世界を清めて来た。
……だが、果たしてそれは正しい事なのか?
神に対して罪を犯したのはこの世界の人間であって、異世界から喚ばれる少女達ではない。
我々の贖罪を本来何の関わりも無いはずの異世界人が、肩代わりするーーいや、させるのは間違っている。
先に神を裏切ったのは我々の方ならば、過ちを犯した者が真摯に悔い改めずして、どうしてそれが赦されようか。
聖女、聖女と持て囃しているが、あれは贄だ。
本来属する世界から切り離し、罪なき者を罪ある者が厚顔にも利用している……。
聖女を召還する前に、己を省み、律する事が必要だと言うのに……。
フッとジルヴェスは自嘲の笑いを漏らす。
そう言う自分も聖女のおかげで、のうのうと生き延びている以上、共犯者だ。偉そうに彼らを批判する資格などない。
教会に出来るのは召還された罪なき少女を正式に聖女と認定し、早急にこの世界での地位を確保してやる事だ。
当然ながら世界を浄化し、救う聖女の地位は高い。
それは教皇と並び、国王達よりも高いとされる。
天の者であって、地の者ではないーーからなのだが、政争に利用された挙げ句、都合が悪くなると偽物扱いされて処刑された者もいた。
教会にも欲深い者、野心家な者もいて、俗な政治的判断で聖女認定を平気で取り消した恥ずべき歴史がある。
それが結局は500年前の大戦争へと繋がった-因となったのだ。
その時に召還の秘法まで危うく喪いそうになり、二度とこのような事がないよう、教会において聖女認定された者には異義を差し挟まない事は現在各国における共同認識となっている。
ジルヴェスは1人の男の顔を思い浮かべた。
彼と並び教皇の位置に最も近いと目されている、ラダスール大司教。
俗世と縁を切る教会の聖職者達は出身国や身分、前職は問わない、のが建前だが、ラダスールはライカ帝国の貴族出身で、何かと判断が祖国よりになりがちだ。
帝国はイルマヤ王国が、聖女を保護と教育という名分で囲い込んでいる事に不満を抱いている。
かつての聖女達は世界を浄化する事が主であり、それで充分だった。
しかし、ここ数代の聖女は様子が違って、異世界人ならではの概念、知識でもってこの世界に変革を齎しているのだ。
その影響をまっ先に受けているのがイルマヤ王国で、周辺国では最も豊かで強大になっている。
聖女が召還されたら、おそらくラダスールは黙っていない。
その処遇を巡って帝国に有利になるように水面下で働きかけて来るにちがいない。
刻を知らせる鐘にハッと彼は物思いから覚め、窓辺に寄って空を見上げた。
ー-今、まさに天空の2つの月が重なろうとしていた。
いよいよ合が始まるのだ。
神が創り嘉し給うた、美わしエンデュミオン。そは誰が為ぞ?子らの為なり。
神、子らを言祝ぎて豊けき大地を与え給わん”
ーエンデュミオン創世記第一章
“人の子、いつしか欲心起こりて、自ら神にならんと欲す。父に逆らい禁忌犯せし人の子は、この時より災いの種とならん。
神、大いに怒り嘆かれ、悲しみのあまりその御身を隠し給う。
その咎大きく、罪人、神を忘れて汚れし者と成り果てぬ”
ーエンデュミオン創世記第四章
……パタン。
ため息と共に、ジルヴェス大司教は何百、何千と読んだ部厚い聖典を閉じ、椅子の背もたれに寄りかかった。
満月が2つーー煌々と夜空を照らし、月光が射し込み部屋の中に窓の影を形作っている。
あの2つの月は今晩合を迎える。
前回の時から50年以上経ち、再び瘴気が発生
して来ている。
故に彼らは決行するだろう。忌まわしき【聖女召還】の儀式を。
人の子が罪を犯して後、“神が嘉し給うた美しいエンデュミオン”ではなくなってしまった。
周期的に瘴気が発生し、人も動植物も生存が危ぶまれて行く。
その瘴気を浄化する為に異世界から聖女を召還する。
神の怒りに触れたこの世界の者には浄化が出来ず、こちらの理から外れた者、すなわち異世界人のみそれを可能とするからだ。
人が遠い昔に犯した罪により、瘴気が発生したと聖典は説く。
その罪とやらが何だったのかは詳しくは不明だが、過去は変えられない。
先祖が何かやらかし、このような世界になってしまった、という事が厳然たる事実である。
今の世に伝わっているのはその解決方法だけだ。
【召還】
大昔の大魔道師エンヤが、この世界の誰もがどうにもできない解決法を【外】に求めたのだと。
壮絶な実験を繰り返し、遂にエンヤは1人の少女を召還する事に成功する。
彼の思惑通り、少女は見事に聖女となり、浄化をしてのけたのだった。
それからは瘴気が濃くなると召還の儀式が行われ、聖女が浄化を行い世界を清めて来た。
……だが、果たしてそれは正しい事なのか?
神に対して罪を犯したのはこの世界の人間であって、異世界から喚ばれる少女達ではない。
我々の贖罪を本来何の関わりも無いはずの異世界人が、肩代わりするーーいや、させるのは間違っている。
先に神を裏切ったのは我々の方ならば、過ちを犯した者が真摯に悔い改めずして、どうしてそれが赦されようか。
聖女、聖女と持て囃しているが、あれは贄だ。
本来属する世界から切り離し、罪なき者を罪ある者が厚顔にも利用している……。
聖女を召還する前に、己を省み、律する事が必要だと言うのに……。
フッとジルヴェスは自嘲の笑いを漏らす。
そう言う自分も聖女のおかげで、のうのうと生き延びている以上、共犯者だ。偉そうに彼らを批判する資格などない。
教会に出来るのは召還された罪なき少女を正式に聖女と認定し、早急にこの世界での地位を確保してやる事だ。
当然ながら世界を浄化し、救う聖女の地位は高い。
それは教皇と並び、国王達よりも高いとされる。
天の者であって、地の者ではないーーからなのだが、政争に利用された挙げ句、都合が悪くなると偽物扱いされて処刑された者もいた。
教会にも欲深い者、野心家な者もいて、俗な政治的判断で聖女認定を平気で取り消した恥ずべき歴史がある。
それが結局は500年前の大戦争へと繋がった-因となったのだ。
その時に召還の秘法まで危うく喪いそうになり、二度とこのような事がないよう、教会において聖女認定された者には異義を差し挟まない事は現在各国における共同認識となっている。
ジルヴェスは1人の男の顔を思い浮かべた。
彼と並び教皇の位置に最も近いと目されている、ラダスール大司教。
俗世と縁を切る教会の聖職者達は出身国や身分、前職は問わない、のが建前だが、ラダスールはライカ帝国の貴族出身で、何かと判断が祖国よりになりがちだ。
帝国はイルマヤ王国が、聖女を保護と教育という名分で囲い込んでいる事に不満を抱いている。
かつての聖女達は世界を浄化する事が主であり、それで充分だった。
しかし、ここ数代の聖女は様子が違って、異世界人ならではの概念、知識でもってこの世界に変革を齎しているのだ。
その影響をまっ先に受けているのがイルマヤ王国で、周辺国では最も豊かで強大になっている。
聖女が召還されたら、おそらくラダスールは黙っていない。
その処遇を巡って帝国に有利になるように水面下で働きかけて来るにちがいない。
刻を知らせる鐘にハッと彼は物思いから覚め、窓辺に寄って空を見上げた。
ー-今、まさに天空の2つの月が重なろうとしていた。
いよいよ合が始まるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる