召還聖女はストックホルムの夢を見るか

らんふぁ

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5話

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“初めに大いなる神あり。神はよろずの源にて天には日と月と星を、地にはエンデュミオンを創りたもう。”

神が創りよみたもうた、うるわしエンデュミオン。そはが為ぞ?子らの為なり。
神、子らを言祝ことほぎて豊けき大地を与え給わん”

      ーエンデュミオン創世記第一章





“人の子、いつしか欲心起こりて、自ら神にならんと欲す。父に逆らい禁忌犯せし人の子は、この時より災いの種とならん。
神、大いに怒り嘆かれ、悲しみのあまりその御身を隠し給う。
そのとが大きく、罪人つみびと、神を忘れて汚れし者と成り果てぬ”


      ーエンデュミオン創世記第四章


……パタン。

ため息と共に、ジルヴェス大司教は何百、何千と読んだ部厚い聖典を閉じ、椅子の背もたれに寄りかかった。

満月が2つーー煌々と夜空を照らし、月光が射し込み部屋の中に窓の影を形作っている。

あの2つの月は今晩合を迎える。

前回の時から50年以上経ち、再び瘴気が発生
して来ている。
故に彼らは決行するだろう。忌まわしき【聖女召還】の儀式を。

人の子が罪を犯して後、“神が嘉し給うた美しいエンデュミオン”ではなくなってしまった。
周期的に瘴気が発生し、人も動植物も生存が危ぶまれて行く。

その瘴気を浄化する為に異世界から聖女を召還する。

神の怒りに触れたこの世界の者には浄化が出来ず、こちらのことわりから外れた者、すなわち異世界人のみそれを可能とするからだ。

人が遠い昔に犯した罪により、瘴気が発生したと聖典は説く。

その罪とやらが何だったのかは詳しくは不明だが、過去は変えられない。
先祖が何かやらかし、このような世界になってしまった、という事が厳然たる事実である。

今の世に伝わっているのはその解決方法だけだ。

【召還】


大昔の大魔道師エンヤが、この世界の誰もがどうにもできない解決法を【外】に求めたのだと。

壮絶な実験を繰り返し、遂にエンヤは1人の少女を召還する事に成功する。

彼の思惑通り、少女は見事に聖女となり、浄化をしてのけたのだった。

それからは瘴気が濃くなると召還の儀式が行われ、聖女が浄化を行い世界を清めて来た。


……だが、果たしてそれは正しい事なのか?

神に対して罪を犯したのはこの世界の人間であって、異世界から喚ばれる少女達ではない。

我々の贖罪を本来何の関わりも無いはずの異世界人が、肩代わりするーーいや、させるのは間違っている。

先に神を裏切ったのは我々の方ならば、過ちを犯した者が真摯に悔い改めずして、どうしてそれが赦されようか。

聖女、聖女と持て囃しているが、あれは贄だ。
本来属する世界から切り離し、罪なき者を罪ある者が厚顔にも利用している……。

聖女を召還する前に、己を省み、律する事が必要だと言うのに……。


フッとジルヴェスは自嘲の笑いを漏らす。

そう言う自分も聖女のおかげで、のうのうと生き延びている以上、共犯者だ。偉そうに彼らを批判する資格などない。

教会に出来るのは召還された罪なき少女を正式に聖女と認定し、早急にこの世界での地位を確保してやる事だ。

当然ながら世界を浄化し、救う聖女の地位は高い。
それは教皇と並び、国王達よりも高いとされる。
天の者であって、地の者ではないーーからなのだが、政争に利用された挙げ句、都合が悪くなると偽物扱いされて処刑された者もいた。

教会にも欲深い者、野心家な者もいて、俗な政治的判断で聖女認定を平気で取り消した恥ずべき歴史がある。
それが結局は500年前の大戦争へと繋がった-因となったのだ。
その時に召還の秘法まで危うく喪いそうになり、二度とこのような事がないよう、教会において聖女認定された者には異義を差し挟まない事は現在各国における共同認識となっている。


ジルヴェスは1人の男の顔を思い浮かべた。

彼と並び教皇の位置に最も近いと目されている、ラダスール大司教。

俗世と縁を切る教会の聖職者達は出身国や身分、前職は問わない、のが建前だが、ラダスールはライカ帝国の貴族出身で、何かと判断が祖国よりになりがちだ。

帝国はイルマヤ王国が、聖女を保護と教育という名分で囲い込んでいる事に不満を抱いている。

かつての聖女達は世界を浄化する事が主であり、それで充分だった。
しかし、ここ数代の聖女は様子が違って、異世界人ならではの概念、知識でもってこの世界に変革をもたらしているのだ。

その影響をまっ先に受けているのがイルマヤ王国で、周辺国では最も豊かで強大になっている。

聖女が召還されたら、おそらくラダスールは黙っていない。
その処遇を巡って帝国に有利になるように水面下で働きかけて来るにちがいない。


刻を知らせる鐘にハッと彼は物思いから覚め、窓辺に寄って空を見上げた。

ー-今、まさに天空の2つの月が重なろうとしていた。

いよいよ合が始まるのだ。














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