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8話
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「ランフェルド殿下はどうなさいます?」
ヒューバートの問いに彼は少し考える。
聖女の捜索や、魔導師達の事はこのままヒューバートらに任せておけば良いだろう。
だからーー
「私は一旦離宮に行って、お祖母様に話をして来る。同じ異世界人だからな。こんな時どうすれば良いか知恵をお借りしたい」
「ああ、それは良いですな。出来ればリサ様に先の聖女として話をして頂ければ……」
「うん。多分少しは落ち着くんじゃないかな」
2人はこの会話を顔を強ばらせて聞いている人物が、まさか頭上にいるとは思ってもみなかった。
今、あいつら何て言ってた?
お祖母様が異世界人?
リサ様?
……うん、お祖母様にしちゃ、随分今風の名前だよね……って違うし!
動揺のあまりセルフ突っ込みをしつつ、葵は今の会話の意味を考える。
ーー私の前にも召還された人がいた?
つまり、そのリサって人は、お祖母ちゃんになるまで何十年もの間……。
帰れなかった?物理的に?
帰して貰えなかった?あいつらに?
帰らなかった?自ら望んで?
ーー何れにしろ、リサさんはこの世界に留まって……で、こっちの人……王族?だよね。殿下がさ、孫!なんだから。王族と結婚して子供生んで、孫もいると。
葵はムカムカし、拳を握りしめる。
あいつら、踏み潰してやれば良かった……!
人を略取しておいて、結婚まで。
この世界の奴らはそうなんだ。召還が罪だなんて思ってもしない。
葵は、1つの犯罪被害者の心理状態を指す言葉
を思い浮かべた。
【ストックホルム症候群】
誘拐や監禁事件などの犯罪害者が、生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築くことをいう。
1973年8月、ストックホルムにおいて発生した銀行強盗人質立てこもり事件において、人質解放後の捜査で、人質が犯人に協力して警察に敵対する行動を取っていたことが判明した。また、解放後も人質が犯人をかばい警察に非協力的な証言等を行った事に由来する。
突然に事件に巻き込まれて人質となる。そして、死ぬかもしれないと覚悟する。
犯人の許可が無ければ、飲食も、トイレも、会話もできない状態になる。
犯人から食べ物をもらったり、トイレに行く許可をもらったりする。そして犯人の小さな親切に対して感謝の念が生じる。
犯人に対して、好意的な印象をもつようになる。
ストックホルム症候群とは病気ではなく、特殊な状況に陥ったときの合理的な判断に由来する状態である。自分を誘拐した犯人の主張に自分を適合させるのは、むしろ当然で共感を示し、コミュニケーションをとって犯罪行為に正当性を見い出そうとするのは病気ではなく、生き残るための当然の戦略だと。
ーWikipediaより抜粋
明らかにリサという女性はストックホルム症候群だと思う。
まず異世界召還という異常事態、逆らったらどうなる?って不安に怯える中で、とにかく優しくしてくれる人物を頼ろう、となるのは仕方がない。
おそらくこの人に選択の余地はなかった。
元の世界に帰れず、帰して貰えず?この世界で生きて行く。
言う事を大人しく聞いて聖女となり、こちらの男と結婚する……自ら望むよう仕向けられた恋だの愛だのの幻想の中で。
葵は唇を噛んだ。
何より哀しいのはリサさんが、心理下でそれを正しかった、幸せだと思い込もうとしていただろうって事。
でも、考えて欲しい。
リサさんには親とか兄弟姉妹がいたんだろうか?
どこの世界に自分の家族が略取された先で犯人と結婚し、子供と孫までいる事を喜ぶ身内がいると言うの。
特にリサさんの両親は俺の娘をやる、やらん、の掛け合いもなく、花嫁姿を見たい、という望みも叶わず、生まれた可愛い孫を抱く事も出来ない。
いや、そもそも生きているかどうかもお互いに分からない……家族の写真から1人消える悲しさを知っているのか。絆を一方的に奪う。共に生きていたら出来た筈の想い出と一緒に。
死も悲しい。けれども時と言う最良の友がいる。諦めて行く事も徐々に出来る。
それに対して行方不明は違う。残された者は、いつまでもジクジクする傷を抱えて生きるようなもの。
何かあれば容易く破れ血を流す。
何時かは帰ってくるーー儚い希望と諦めようと言う気持ちを、繰り返し繰り返しーーそれでも持ち続けてる。
その事に思い至らない……ううん、気が付いたとして、今は幸せだからと自分に言い聞かせて気持ちに蓋をしているなら、そこが既に普通じゃない。
私は……無理だ。
これからどうなるかは分からないけど、この世界に無理矢理に略取された事は絶対に忘れないから。
あいつらにはまず何か目的があって、その為にわざわざ異世界人を略取して来て、聖女にして優しくするんだって事。
それは全て自分達の願いの為。
何時かあんた達に教えてやる。
それは犯罪行為だって事を。
私は……この峰岸葵はストックホルムの甘い夢なんて見ないんだからね!
ヒューバートの問いに彼は少し考える。
聖女の捜索や、魔導師達の事はこのままヒューバートらに任せておけば良いだろう。
だからーー
「私は一旦離宮に行って、お祖母様に話をして来る。同じ異世界人だからな。こんな時どうすれば良いか知恵をお借りしたい」
「ああ、それは良いですな。出来ればリサ様に先の聖女として話をして頂ければ……」
「うん。多分少しは落ち着くんじゃないかな」
2人はこの会話を顔を強ばらせて聞いている人物が、まさか頭上にいるとは思ってもみなかった。
今、あいつら何て言ってた?
お祖母様が異世界人?
リサ様?
……うん、お祖母様にしちゃ、随分今風の名前だよね……って違うし!
動揺のあまりセルフ突っ込みをしつつ、葵は今の会話の意味を考える。
ーー私の前にも召還された人がいた?
つまり、そのリサって人は、お祖母ちゃんになるまで何十年もの間……。
帰れなかった?物理的に?
帰して貰えなかった?あいつらに?
帰らなかった?自ら望んで?
ーー何れにしろ、リサさんはこの世界に留まって……で、こっちの人……王族?だよね。殿下がさ、孫!なんだから。王族と結婚して子供生んで、孫もいると。
葵はムカムカし、拳を握りしめる。
あいつら、踏み潰してやれば良かった……!
人を略取しておいて、結婚まで。
この世界の奴らはそうなんだ。召還が罪だなんて思ってもしない。
葵は、1つの犯罪被害者の心理状態を指す言葉
を思い浮かべた。
【ストックホルム症候群】
誘拐や監禁事件などの犯罪害者が、生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築くことをいう。
1973年8月、ストックホルムにおいて発生した銀行強盗人質立てこもり事件において、人質解放後の捜査で、人質が犯人に協力して警察に敵対する行動を取っていたことが判明した。また、解放後も人質が犯人をかばい警察に非協力的な証言等を行った事に由来する。
突然に事件に巻き込まれて人質となる。そして、死ぬかもしれないと覚悟する。
犯人の許可が無ければ、飲食も、トイレも、会話もできない状態になる。
犯人から食べ物をもらったり、トイレに行く許可をもらったりする。そして犯人の小さな親切に対して感謝の念が生じる。
犯人に対して、好意的な印象をもつようになる。
ストックホルム症候群とは病気ではなく、特殊な状況に陥ったときの合理的な判断に由来する状態である。自分を誘拐した犯人の主張に自分を適合させるのは、むしろ当然で共感を示し、コミュニケーションをとって犯罪行為に正当性を見い出そうとするのは病気ではなく、生き残るための当然の戦略だと。
ーWikipediaより抜粋
明らかにリサという女性はストックホルム症候群だと思う。
まず異世界召還という異常事態、逆らったらどうなる?って不安に怯える中で、とにかく優しくしてくれる人物を頼ろう、となるのは仕方がない。
おそらくこの人に選択の余地はなかった。
元の世界に帰れず、帰して貰えず?この世界で生きて行く。
言う事を大人しく聞いて聖女となり、こちらの男と結婚する……自ら望むよう仕向けられた恋だの愛だのの幻想の中で。
葵は唇を噛んだ。
何より哀しいのはリサさんが、心理下でそれを正しかった、幸せだと思い込もうとしていただろうって事。
でも、考えて欲しい。
リサさんには親とか兄弟姉妹がいたんだろうか?
どこの世界に自分の家族が略取された先で犯人と結婚し、子供と孫までいる事を喜ぶ身内がいると言うの。
特にリサさんの両親は俺の娘をやる、やらん、の掛け合いもなく、花嫁姿を見たい、という望みも叶わず、生まれた可愛い孫を抱く事も出来ない。
いや、そもそも生きているかどうかもお互いに分からない……家族の写真から1人消える悲しさを知っているのか。絆を一方的に奪う。共に生きていたら出来た筈の想い出と一緒に。
死も悲しい。けれども時と言う最良の友がいる。諦めて行く事も徐々に出来る。
それに対して行方不明は違う。残された者は、いつまでもジクジクする傷を抱えて生きるようなもの。
何かあれば容易く破れ血を流す。
何時かは帰ってくるーー儚い希望と諦めようと言う気持ちを、繰り返し繰り返しーーそれでも持ち続けてる。
その事に思い至らない……ううん、気が付いたとして、今は幸せだからと自分に言い聞かせて気持ちに蓋をしているなら、そこが既に普通じゃない。
私は……無理だ。
これからどうなるかは分からないけど、この世界に無理矢理に略取された事は絶対に忘れないから。
あいつらにはまず何か目的があって、その為にわざわざ異世界人を略取して来て、聖女にして優しくするんだって事。
それは全て自分達の願いの為。
何時かあんた達に教えてやる。
それは犯罪行為だって事を。
私は……この峰岸葵はストックホルムの甘い夢なんて見ないんだからね!
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