召還聖女はストックホルムの夢を見るか

らんふぁ

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15話

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葵は少々困っていた。

気さくな上、話好きらしいネリーは色々聞いて来るのだ。
片言で、言葉が良く分からない振りをしたり、ネリーが◯◯なの?聞いた事に軽く頷くだけにした。

人物鑑定した所、ザックとネリーが食堂【猫の目】をしているのは嘘ではないし、普通の庶民だ。
ザックの状態も“頭部に怪我。全治-週間。深刻な後遺症はなし”と出たので心配はない。

そこへ「うーん」と言う声と共にザックが身動きする。

「あなた、大丈夫?」
早速ネリーが夫の側に飛んで行った。

「いててて……ディーは?」

「逃げちゃったわ」

「……そうか」


がっかりした夫にネリーはスープを勧めた。
「食べられそうなら少しどう?」

「ああ、貰うよ」

ゆっくりと身を起こしたザックは葵に目を止めた。
「--あの子は?」

「アオって言うの。通りかかったあの子がオキシ草を持ってたから分けて貰ったのよ」

「ドモ」
片手を上げて挨拶した葵にザックは胡乱そうな目を向け詰問するように強い口調で訊いた。
「どこの子だ?親はいないのか?」

葵が他人を警戒しているように、ザックもこちらを警戒しているのだろう。
今、ザックは怪我人で、気がついたら妻と知らない子が-諸では無理はない。 

「オヤ、イナイ。ゴハンアリガト。モウイクネ」
面倒事になる前にと、葵はさっさと立ち上がる。

「あなた!」ネリーが慌ててザックを押さえようとした。

「イイヨ。オダイジニ」

もう振り返りもせず、あっという間に駆けて行った葵を止める術もなく、ネリーはザックを睨み据えた。
「あの子には世話になったのに!」

思知らずな事をと嘆く妻に、ザックは顔をしかめる。
「あのな、騎士団の奴から聞いたが、最近物騒になってるんだそうだ。それは瘴気のせいだという話もあるんだぞ。どうなるかお前も知っているだろうが」

瘴気のせいで人や動物が、突然凶暴になる。

ディーが逃げて、馬車を動かせず、自分は怪我人。まだガンガン頭が痛い。
お前があの子に襲われる危険性より、思知らずと思われる事を選ぶさ、ザックは苦々し気に言った。



再び身体強化を使って走る葵の前に、馬がヒョコヒョコと歩いているのが見えた。

もしやと思い、近づき声をかけてみる。
「ディー?」

「ヒン?」
アンタ誰?と言いたげにこちらに長い顔を向けた。その顔が何となくザックに似ている気がする。

「大丈夫、何もしないよ。どれどれ?」

鑑定すると“ディー(14)、雄。食堂【猫の目】のザックとネリーの馬。現在右前脚が蜂に刺され痛みがある”

光属性の治療魔法を試しに使おうとして、葵は思い留まった。

--蜂に刺された筈のディーが無傷ってヘンだよね?

そこで葵は革袋からオキシ草を出し、ディーの鼻先に持って行く。
フンフンと匂いを嗅ぐディー。
「これ分る?薬草だよ。ーこら、食べちゃダメ」

大人しくしててよ、と話しかけながら、ネリーがしたように、オキシ草の蕾を千切って揉み刺された場所に擦り付けた。

「ヒン」

「はい、おしまい。主人と違っていい子~」
ポンポンと鼻面を撫でてやった。

もう王都の城壁が近い。
葵はディーの手綱を取り、歩き出す。

このまま王都に行って、門番にでも訳を話して2人を迎えに行って貰えばいいや。

カッポカッポ………

治療してくれた事を理解したのか、葵の後ろをディーは大人しく付いて来た。

やがて大きな門と入る為の審査でズラッと並ぶ人々。
それを整理しながら、横入りで時々起こる諍いを怒鳴ったり引き離したりの守備隊が何人か。

「チョット、オヤクニンサン」
そんな1人が近づいて来たので、葵は声をかけた。

「ん?何だ、坊主」

「コノウマヒロッタ」

「拾った?この馬をか?ん?こいつザックの所のディーじゃねえか?」

「シッテル?ヨカッタ」

葵は蜂に刺されたディーが暴れて逃げ出し、頭を怪我したザックとネリーが草原に馬車ごととり残されている事を説明する。
片言で説明するのは骨が折れたが。

守備隊の男は屈んでディーの脚を見た。
「ーーオキシ草だ。お前がやったのか?」

「ウン。ディー、アシイタイ。アズケテイイ?」

「ああ。それとザック達を迎えに行ってやらんと。坊主ありがとな」

役人は並ぶ人々を尻目にディーと葵を詰所へ連れて行き、ディーは杭に繋いで扉を開ける。

1人の男が休憩中らしく椅子の背もたれに寄っ掛かっていた。

「ミラン、何だ?このガキは」

「アルノー、実はな……」
そのままの姿勢で不思議そうに尋ねた同僚の男にミランは説明した。

「ハヤクイッテアゲテ」

「ああ。隊長に知らせて来る」
同僚が立ち上り出て行った。

「さてと、ザック達は友人でね。礼の代わりと言っちゃナンだが、審査の順番を早めてやるよ。ここに手を置きな。犯罪歴の有無を見る為だ。何もなけりゃ青、やらかしてりゃ赤だ。なーに、疚しい事がなけりゃいいのさ」

丸い水晶玉のような物を差し出して来たので言われた通り手を置くと玉は青く光った。

「よし、犯罪歴なし、と。坊主これからも青でいろよ」

「ナマエ、アオダカラ、ズットアオダヨ」

「あっはっはっ!そりゃいい」
笑ったミランだが、すまなそうに手を出して言った。
「悪いが通交料は別だ。銀貨1枚」

「ウン、イイヨ」
素直に銀貸1枚を革袋から出して手渡してやる。

門の通交料は公金だ。僅かな金額とはいえ、1人の勝手な判断で左右すべきではない。

葵も調べられたが、実はミランも葵に鑑定されていた。

“ミラン(31)王都守備隊所属。真面目で正直者……”

これだから声をかけたのだ。
ディーをちゃんとザック達に返して貰えるように。

堂々と審査をパスし、通交料を払った葵を止める者はいない。

その姿は王都の雑踏に紛れ、何時しか見えなくなった。
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