召還聖女はストックホルムの夢を見るか

らんふぁ

文字の大きさ
16 / 28

16話

しおりを挟む
逃亡した聖女を捜索中のヒューバートから、異世界の物と思われるバック、本、記録帳が川辺で発見され、転落した可能性があるとの報告で、城の上層部は騒然となった。

「聖女が逃亡、それも行方不明とは如何なる事か!ランフェルド、説明せよ!」

父である国王が険しい顔で息子に命じた。
騎士団長ヒューバートは、捜索の陣頭指揮を取っている最中、魔道師長シドは疲労困憊で寝込んでいて起き上がれる状態ではなく、詳しく話が出来るのは責任者でもあるランフェルドのみだった。

宰相を始め、居並ぶ大臣達も一様に厳しい目を向けている。

今回の召喚は、一番恵まれた条件下に行われたもので、何も問題は無かった筈なのだ。
ただ召喚された聖女を迎えるだけの役目なのに一体何をしているのか、が彼らの一致した考えだった。

「実は、この度の聖女は聞き及んでおりました話とまるで様子が違いました。私はお祖母様のような人物だと考えていたのですが………」

「ですが?どうだと言うのだ?」

「最初から警戒心剥き出しで、我々を人攫いだとハッキリ敵認定しておりました。それを宥めようと近づいたヒューバートを倒し、次いで彼と私を急所蹴りで行動不能にして、更にシドを気絶させて逃亡した次第です」

「!」

「--何と……」

「又、随分と凶暴な……」

「我々が人攫いとは……」

「急所蹴り……あれは痛いなんてものでは……」
「おや、貴公も女性に蹴られた経験が?」
「違うわ!孫を抱いていた時だ」 

-部変な会話も混ざりながら、皆が-斉にざわめいた。

「静粛に!殿下、それで?」
宰相が、話の先を促した。

「その時、魔道師達は全員召喚時の魔力切れで昏倒しており、聖女を追える者はいませんでした。その後シドが気が付き、回復魔法を我々にかけてくれたので漸く動けるようになりました。それから騎士達を呼んで捜索に当たらせております」

「ーーフーム、あのヒューバートを倒したとはーー少し信じ難いの」
国王が首を傾げる。

何しろ戦闘に長けた2mの大男だ。

「そうですね……倒したとは言いましたが、殴り飛ばした訳ではありません。少し変わった体術でーーヒューバートがあっという間に崩れ落ちたと思ったら……急所蹴りで瞬殺でした。今でも何をされたのか良く分かりません」

顔を見合わせる大臣達。
仮にも騎士団長を瞬殺ーーとは俄に信じ難い話に、一人の大臣が手を上げた。
「……あの、それは本当に聖女様で間違いないのですか?」

その質問にキッパリと答えたのはランフェルドではなく、国王だった。
「あの魔法陣から召喚されるのは聖女のみだーーランフェルド、どんな様子の娘だった?」

「短い黒髪に痩せていて、背は……これくらい」ランフェルドは手のひらを自分の胸元にかざす。
「ヒューバートも始め男じゃないか、と言ってましたが、異世界人らしく短いスカートを履いていましたし」

足を出す短いスカートはこちらの世界では、はしたないとされ、そもそも履く習慣がない。
それを抵抗無く履いている事こそ、異世界人であるという証明のような物だ。

「しかし、我々が人攫いとは……少々納得がいきませんな」不満気に洩らしたのは宰相で、同意の声があちこちから上がった。

「宰相、その事については、本人がいない所で今、議論を重ねても仕方あるまい。それよりは、まずは聖女を無事保護せねば」
国王の言葉に宰相は頷き、大臣らは頭を下げ了承の意を示した。

祖父から話を聞いていたランフェルドは、サッと父の顔を見た。
すると、ほんの僅か……首を振ってみせる。

そこでランフェルドは悟った。

父は知っているのだ。召喚という名を借りた人攫いだと言う事を。

昨夜までランフェルドは召喚は世界の為の正義の行為で、何恥じる事もないと信じて来た。

それが、自分達が実は少女を攫って来て、望まぬ役目を強いている犯罪者だという、欺瞞を突き付けられた。
このモヤモヤを国の重鎮にも理解して欲しかったのだが、国王にその気はないらしい。


話は進み、とりあえず行方不明の聖女の件は、異国風、短い黒髪で短いスカートの少女という特徴を伝達し、もっと大人数で捜索する事になった。

ここで似顔絵が作成出来なかったのは、急所蹴りを喰らって激痛にのたうち回っていたランフェルド、ヒューバート両名の頭の中はまっ白になっていた事、シドもあれよあれよと言う間に気絶させられ、3人とも正直顔をろくすっぽ見ていなかった事がその理由である。

勿論、お膝元の王都にも捜索の手は伸ばすのだが、極秘扱いという事は全員一致で決定した。

「ですが、これだけ大人数で動けば、何時かは何処かで洩れる事もあるでしょう。うかうかしているとライカ帝国に聖女を持って行かれますぞ」

「その通り。あの国はずっと前から虎視眈々と聖女を狙っていますからな」

大臣達の懸念に宰相も口を添える。
「陛下、教会、信者達……特にラダスール大司教の動向にも注意が必要かと。かのお方は帝国寄りですから、もし信者から耳に入ったら、これを機にどんな口を挟んで来るか分かりません」

「ではそのように。皆下がれ。ランフェルド、お前は残れ」

臣下達が恭しく-礼し、御前から退出して行った。

こうして親子2人だけになると、父親がポツリと言った。「……聞いたのだな」

何を?とはランフェルドも聞き返さなかった。

「お祖母様は今、臥せっていらっしゃいます。今回の召還が原因のようだとお祖父様が……」

「……そうか」
我らは罪深いな……父の呟きは小さく口の中に消えた。

そう思っているなら何故……!

「父上、何故あの時我らは人攫いと思われて当然だと仰らなかったのです?」

「……言っても現状どうにもならぬからだ。あの場で確かに我々は人攫いである、宣言したとしよう。それは何の為だ?罪を認めて反省を促したかったか?」

「そうです」

「罪を認めるのは良い、反省するのも良いだろう。だが断罪、つまり裁きはどうするのだ?罪を認めたら、そこで放置はあり得ぬ。それに良いか、そもそも断罪とは、罪無き者のみが行えるもの。翻って我々は………言うなれば全員が共犯者だ。攫って来た聖女によって多かれ少なかれ思恵を受けている以上、な」

自分達では所詮傷の舐め合いに過ぎず、なあなあの茶番劇、結局は自己満足で終わる。
国王はそれはそれは苦々しい顔で言った。

「では父上はこのままで良いと?」

「そうは思っておらぬ。当然断罪されるべき事なのも分かっておる。だが、本当の贖罪とは、悔い改め、真摯に相手に謝罪し、過ちを二度と繰り返さぬ事だーーそれが我らには出来ぬ」

罪を認めました。裁きを受けます。悪いと思ってます。申し訳ありません。でも止められません。これからも同じ事をします。

これでは何の意味もない。被害者の立場ならばブチ殺したくなる話だ。

召喚をしなければ世界が滅びる。
それを防ぐ為、罪を重ねて行く。

「……我々はまことに罪深い。それに対して断罪の権能を持つのは、召喚された聖女のみなのだ」











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...