召還聖女はストックホルムの夢を見るか

らんふぁ

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16話

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逃亡した聖女を捜索中のヒューバートから、異世界の物と思われるバック、本、記録帳が川辺で発見され、転落した可能性があるとの報告で、城の上層部は騒然となった。

「聖女が逃亡、それも行方不明とは如何なる事か!ランフェルド、説明せよ!」

父である国王が険しい顔で息子に命じた。
騎士団長ヒューバートは、捜索の陣頭指揮を取っている最中、魔道師長シドは疲労困憊で寝込んでいて起き上がれる状態ではなく、詳しく話が出来るのは責任者でもあるランフェルドのみだった。

宰相を始め、居並ぶ大臣達も一様に厳しい目を向けている。

今回の召喚は、一番恵まれた条件下に行われたもので、何も問題は無かった筈なのだ。
ただ召喚された聖女を迎えるだけの役目なのに一体何をしているのか、が彼らの一致した考えだった。

「実は、この度の聖女は聞き及んでおりました話とまるで様子が違いました。私はお祖母様のような人物だと考えていたのですが………」

「ですが?どうだと言うのだ?」

「最初から警戒心剥き出しで、我々を人攫いだとハッキリ敵認定しておりました。それを宥めようと近づいたヒューバートを倒し、次いで彼と私を急所蹴りで行動不能にして、更にシドを気絶させて逃亡した次第です」

「!」

「--何と……」

「又、随分と凶暴な……」

「我々が人攫いとは……」

「急所蹴り……あれは痛いなんてものでは……」
「おや、貴公も女性に蹴られた経験が?」
「違うわ!孫を抱いていた時だ」 

-部変な会話も混ざりながら、皆が-斉にざわめいた。

「静粛に!殿下、それで?」
宰相が、話の先を促した。

「その時、魔道師達は全員召喚時の魔力切れで昏倒しており、聖女を追える者はいませんでした。その後シドが気が付き、回復魔法を我々にかけてくれたので漸く動けるようになりました。それから騎士達を呼んで捜索に当たらせております」

「ーーフーム、あのヒューバートを倒したとはーー少し信じ難いの」
国王が首を傾げる。

何しろ戦闘に長けた2mの大男だ。

「そうですね……倒したとは言いましたが、殴り飛ばした訳ではありません。少し変わった体術でーーヒューバートがあっという間に崩れ落ちたと思ったら……急所蹴りで瞬殺でした。今でも何をされたのか良く分かりません」

顔を見合わせる大臣達。
仮にも騎士団長を瞬殺ーーとは俄に信じ難い話に、一人の大臣が手を上げた。
「……あの、それは本当に聖女様で間違いないのですか?」

その質問にキッパリと答えたのはランフェルドではなく、国王だった。
「あの魔法陣から召喚されるのは聖女のみだーーランフェルド、どんな様子の娘だった?」

「短い黒髪に痩せていて、背は……これくらい」ランフェルドは手のひらを自分の胸元にかざす。
「ヒューバートも始め男じゃないか、と言ってましたが、異世界人らしく短いスカートを履いていましたし」

足を出す短いスカートはこちらの世界では、はしたないとされ、そもそも履く習慣がない。
それを抵抗無く履いている事こそ、異世界人であるという証明のような物だ。

「しかし、我々が人攫いとは……少々納得がいきませんな」不満気に洩らしたのは宰相で、同意の声があちこちから上がった。

「宰相、その事については、本人がいない所で今、議論を重ねても仕方あるまい。それよりは、まずは聖女を無事保護せねば」
国王の言葉に宰相は頷き、大臣らは頭を下げ了承の意を示した。

祖父から話を聞いていたランフェルドは、サッと父の顔を見た。
すると、ほんの僅か……首を振ってみせる。

そこでランフェルドは悟った。

父は知っているのだ。召喚という名を借りた人攫いだと言う事を。

昨夜までランフェルドは召喚は世界の為の正義の行為で、何恥じる事もないと信じて来た。

それが、自分達が実は少女を攫って来て、望まぬ役目を強いている犯罪者だという、欺瞞を突き付けられた。
このモヤモヤを国の重鎮にも理解して欲しかったのだが、国王にその気はないらしい。


話は進み、とりあえず行方不明の聖女の件は、異国風、短い黒髪で短いスカートの少女という特徴を伝達し、もっと大人数で捜索する事になった。

ここで似顔絵が作成出来なかったのは、急所蹴りを喰らって激痛にのたうち回っていたランフェルド、ヒューバート両名の頭の中はまっ白になっていた事、シドもあれよあれよと言う間に気絶させられ、3人とも正直顔をろくすっぽ見ていなかった事がその理由である。

勿論、お膝元の王都にも捜索の手は伸ばすのだが、極秘扱いという事は全員一致で決定した。

「ですが、これだけ大人数で動けば、何時かは何処かで洩れる事もあるでしょう。うかうかしているとライカ帝国に聖女を持って行かれますぞ」

「その通り。あの国はずっと前から虎視眈々と聖女を狙っていますからな」

大臣達の懸念に宰相も口を添える。
「陛下、教会、信者達……特にラダスール大司教の動向にも注意が必要かと。かのお方は帝国寄りですから、もし信者から耳に入ったら、これを機にどんな口を挟んで来るか分かりません」

「ではそのように。皆下がれ。ランフェルド、お前は残れ」

臣下達が恭しく-礼し、御前から退出して行った。

こうして親子2人だけになると、父親がポツリと言った。「……聞いたのだな」

何を?とはランフェルドも聞き返さなかった。

「お祖母様は今、臥せっていらっしゃいます。今回の召還が原因のようだとお祖父様が……」

「……そうか」
我らは罪深いな……父の呟きは小さく口の中に消えた。

そう思っているなら何故……!

「父上、何故あの時我らは人攫いと思われて当然だと仰らなかったのです?」

「……言っても現状どうにもならぬからだ。あの場で確かに我々は人攫いである、宣言したとしよう。それは何の為だ?罪を認めて反省を促したかったか?」

「そうです」

「罪を認めるのは良い、反省するのも良いだろう。だが断罪、つまり裁きはどうするのだ?罪を認めたら、そこで放置はあり得ぬ。それに良いか、そもそも断罪とは、罪無き者のみが行えるもの。翻って我々は………言うなれば全員が共犯者だ。攫って来た聖女によって多かれ少なかれ思恵を受けている以上、な」

自分達では所詮傷の舐め合いに過ぎず、なあなあの茶番劇、結局は自己満足で終わる。
国王はそれはそれは苦々しい顔で言った。

「では父上はこのままで良いと?」

「そうは思っておらぬ。当然断罪されるべき事なのも分かっておる。だが、本当の贖罪とは、悔い改め、真摯に相手に謝罪し、過ちを二度と繰り返さぬ事だーーそれが我らには出来ぬ」

罪を認めました。裁きを受けます。悪いと思ってます。申し訳ありません。でも止められません。これからも同じ事をします。

これでは何の意味もない。被害者の立場ならばブチ殺したくなる話だ。

召喚をしなければ世界が滅びる。
それを防ぐ為、罪を重ねて行く。

「……我々はまことに罪深い。それに対して断罪の権能を持つのは、召喚された聖女のみなのだ」











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