召還聖女はストックホルムの夢を見るか

らんふぁ

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17話

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「お、あそこにいるのがそうじゃないか?」

守備隊のミランと同僚のアルノーが木陰に止まっている馬車を発見した。

その傍らに横になっている男と、側に座っている女。

あちらの方も2人に気がついたようで、女が立ち上がって手を振った。

「ネリー、ザックは大丈夫か?」
馬を降りながらミランが尋ねると、それには答を答えず、彼女は逆に質問して来た。
「ミラン、どうして私達がここにいるって分かったの?」

「アオって子が教えてくれたんだ。それから途中でディーを拾ったって脚の治療までして連れて来たぞ」

キッとネリーはザックを睨んだ。
「やっぱり!だから言ったのに……!悪い子じゃないって!」

こんなに都合良く、ミラン達が来たのはアオが守備隊に知らせてくれたからに違いないのだ。

バツが悪そうなザックはミランにアオを追い払うような事をしたと、その理由と共に話した。

「あー……、確かにこのご時世じゃな」

入城の判定でアオに犯罪歴はなかった事は分かったが、それは結果諭に過ぎない。

怪我人のザックが出来たのは、身元不明の少年をネリーから遠ざける事だけ。

プリプリ怒るネリーを宥めるように、ミランはザックの気持ちを代弁してやる。
「もういい加減許してやれよ。ザックも大変だったんだしさ。それより早く王都に戻って休ませてやれ」

「そうそう、頭のケガは後で来たりするからな。医者に見せた方が良い」
アルノーが口を挟んだ。

守備隊の2人が味方してホッとしたザック。
そんな彼をミランとアルノー2人がかりで馬車に乗せると、鞍に積んで来た毛布を丸めたりして楽な態勢になるように工夫してやる。

その間、ネリーは火の始末と後片付けをして回り、道具を馬車の荷台に置いた。

アルノーに促されたネリーが馬車に乗り込むと、ミランが自分の馬を馬車に繋いで馭者を勤める。

馬車の脇を馬に乗ったアルノーが走って行った。


ーー馬車の中でネリーは寝ている夫の顔を睨んだ。

全く人の話を聞かないんだから!
アオが私に何かするなら、とっくにやってるわよ……!
ずっと2人でいたんだもの!

それなのに、さも自分が正しいんだって顔して……。 

あの子、オキシ草を惜し気もなくくれたのよ?
それどころか、ディーにも使ってくれたって言うじゃないの。たかが馬によ?
しかも正直に守備隊に預けて行ったって。それなのにお礼も出来ない。

それとも異国人の親のいない子だから、礼はあんな簡単なスープとパンで充分だったって事?

本当ならウチでご馳走するべきなのに。ミランやアルノーならニコニコして絶対したわよね!

あ……ちょっと、まさかオキシ草のお金を払うのがイヤだった、なんて事無いわよね?ーーそう言えば最近オキシ草の値段が高騰してるって話を耳にしたし。

ー-こんな人だったの?

ミラン達までザックの肩を持つなんて。
だからやっぱり自分は間違ってなかったって思って、こうして呑気に寝てられるのね。

思人に顔向け出来ない真似をしておいて、恥だと思わないの?
胸が痛まない?

あの子には悪い事をしたな、王都にいるなら捜してみよう、人に聞いてみよう、って言ってくれたら……!

それが何よ、あのドヤ顔。

ああ、嫌だわ。
ホントにムカつく。

だいたい、ディーが蜂に刺されたのだって、ザックのせいよ。
繋げる木の所でブンブン飛んでるのを、不用意に払うから。
ディーも災難よね。

妹の結婚式の時だって……。
出た料理にブツブツ文句ばっかり……!

花婿の方で用意したんだもの、仕方ないじゃないの!
私達は招待客なのよ。それなのに、たいした味じゃないとか、素材の味が台無しだとか、顔から火が出るかと思ったわ。

あちらのお姑さんが『王都で評判の【猫の目】
さんにお出しするのはお恥しいですわ』何て言ってたのはイヤミよね。

見栄っ張りみたいだし、豪華な料理でザックって言うか、家とは格が違うって本当は言いたかったのよ。

だから黙ってニコニコ食べて、適当に褒めてればそれで良かったのに、どうしてそこでムキになるの?

恥を掻かされてお姑さん、プルプル震えてたじゃない。

義弟が白けた式を何とか仕切り直してくれたけど……ザックのせいであの子、これから可哀想に苦労するかも。 

そうよ、あの時だってーー


--普段我慢する事が多い女の怒りは、一旦堰を切ると延々と続く。
あの時、この時、無理矢理呑み込んだ怒りが蘇り再燃する。
その時は許したとしても、忘れた訳ではない。
炭のおきのように、しっかり保存されている。
そして女は今まで溜まった我慢した分、許してやった分を過去に遡り、男から取り立てる。

その一方で、男の方は、許されたと思えばキレイに忘れてしまう。そして同じような過ちを性懲りもなくやらかしたりする。
忘れているから、女の怒りを唐突に感じ、理解出来ない。

その時、対応を間違えればーーー



ネリーは気づいていない。
怒りに燃える自分の回りに、目に見えるかどうかの黒いモヤのようなモノが、少しずつ少しずつ集まって来ている事を……。 




王都の家に帰ったネリーは怒りに加えて、今は人格的にどうかと感じている事までぶちまけた。

一方を蒸し返された挙げ句、罵られては当然面白くない。

彼は妻に怒鳴った。
を何時までグズグズ言ってるんだ!より、怪我人の夫を労ろうとは思わないのか!?」

ここでザックがネリーの不満を真剣に受け止めてさえいれば……。 

普段は夫の体調を気づかう妻が、こうなったと言う事は、既に我慢の限界線を越える寸前、危険水域だと言って良い。
それを、うるさい、くだらないと一刀の元に切り捨てる事は、火に油を注ぐようなもの。
自分の話は聞く価値もないと貶められたら……真剣に向き合おうともしなかったならば……

ー-爆発か、もしくは決壊し、二度と戻りはしない。

……どんな形であれ。






ーーその夜、食堂【猫の目】から激しい夫婦喧嘩の声と物が壊れる音、最後に男の絶叫が響いた。

近所の者の通報で駆けつけた守備隊が見た物は、妻が夫をメッタ刺しにした凄惨な殺人現場。

「……もう我慢できなかったんです。自分勝手なあの人に。別れ話から言い争いになって、しまいに暴れるあの人が怖くて何回も刺しました………」





ーー薄暗い部屋、飛び散った血で澱んだ空気……。 
いや、果たしてそれは血のせいだけなのか……?

見えるかどうかだったモヤのようなモノが、ほんの少しだけ濃くなって、右往左往する人間達を見下ろすように天井近くに漂っていたのだ。

ーーそして守備隊の者が、息が詰まりそうだと、換気の為に開けた窓から出て行った事を誰も知らない。















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