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18話
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あれから4日、聖女は未だ行方不明。
引き続き捜索の指揮をしていたヒューバートに部下のモスから連絡が入った。
「何?召喚の館に結界が張られている?そんな事は何時もの事だろう?」
他国の諜報員(特に某帝国)が、召喚の魔法陣の秘密を得ようとウロチョロしているのは分かっている為、普段は侵入されないよう結界を張っている。
連日森の中を捜し回っていたモスだったが、ふと思いついて最初の場所ーー召喚の館に戻ってみた所、結界が張ってあったと言うのだ。
『ええ、そうですよね。ですが私が言いたいのは、それを何時、誰がやったか、と言う事なんです。あの時召喚で魔道師達は全員意識不明でした。シド様ですか?』
ヒューバートは眉根を寄せた。
あの時、シドは疲れ切って………
ハッとする。
「シドではない。疲労困憊で結界を張れる状態じゃなかった。不味いな……今、そっちに行く」
待っていたモスは敬礼をした後、ヒューバートを案内した。
「団長、見て下さい。ここから先には-歩も行けないんです」
見えない壁に遮られたように、進もうとして弾かれている。
館の回りをぐるりと-周したが同じだと言う。
何時、誰が結界を張ったのか。
考え込むヒューバートに、
「実は気になる事がもう1つありまして……」
「何だ?」
「こちらです」
結界を調べる為、館の裏に回って気が付いたのだと言う。
大きな木の下に足跡が付いている。
子供か女の大きさの足跡が。
そしてその足跡はその先には続いていない。
「……まさか……木に登ったのか……?」
「……団長、仰ってましたよね?今度の聖女は身体能力が高そうだ、と」
ヒューバートは木を見上げた。
「あの枝、館の屋根の上に行くのに丁度良い枝ぶりなんですよ」
実際登って確かめたと言うモス。
「ー今は結界に弾かれて行けませんでしたがね」
「……あの嬢ちゃん、ずっと我々の頭の上にいたという訳か」
ヒューバートはクッと自嘲の笑みを浮かべた。
「おそらく。あそこで我々の動きを見ていたんでしょう。そして誰もいなくなった時に降りて来て逃げた……」
「全員がいなくなったのは朝方だ。俺がもっと遠くを捜索しろと命令したのも多分聞いているな。直ぐには戻って来ないし、明るくなったから森の中を逃げ易くなったと判断したか……」
「……頭の良い子ですね」
「全くだ。逃げたと思わせて、実は戻って館の屋根の上か……盲点だな。そうするとこの結界を張ったのも嬢ちゃんの可能性大だ」
「どういう事ですか?」
ガシガシと頭を掻きながらヒューバートは苦い顔でモスに言った。
「……殺されない為だろう」
「!」
顔色が変わるモスにヒューバートは説明する。
「俺達を人攫いだと思って逃げたんだ。最悪殺されるかも知れないと考えるのは当然だろう。で、嬢ちゃんは屋根の上で俺達の会話を聞いていた筈だ。抵抗されても傷つけるな、とかな」
とりあえず殺すつもりはなく、丁重に扱うつもりなのは分かった。
だが、それが何時まで続くかの保証はない。
「お前ならどうする?」
団長の問いにモスは少し考え、答えを口にした。
「ーー自分の価値を上げる……?」
「その通り。召喚されたばかりで、全てを知っている訳ではないだろうが、自分に何かしらの価値があるのは分かった筈だ。更に安全を確保するのに-番効果的なのは、自分の代わりになる存在を潰す事だ。それには召喚された場所を使えなくすれば良いーーそう考えたんだろう。唯一無二を殺せるか?」
「いいえ」
代わりがないという事は、絶対的な価値を持つ。
ヒューバートは結界の側に行き、殴りつけてみた。
その瞬間、結界が光り衝撃がそのまま返って来る。
「……ってえ!」
赤くなった拳をさすりニヤッと笑う。
「反射機能あり、か。この分なら魔法も反射するなーーモス、行くぞ」
促されたモスが振り返り尋ねた。
「このままで良いんですか?」
「今はな。反射機能まである結界はシドのレベルじゃないと張れない。解くとしたらそれ以上だ。そんな奴はめったにいないし、どっちにしろ、うるさい連中からは守れるから構わんだろ」
自分達が去って、直ぐに聖女が結界を張ったなら魔法陣の秘密は高いレベルで保全されている事になる。解くかどうかはシドか保護した聖女に任せるしかない。
馬で捜索現場に戻りながら、ヒューバートは今回の聖女について考えていた。
年に似合わず頭が切れるのは間違いない。
見事に裏をかかれた形になった彼は口角を上げた。
……嬢ちゃん、やるじゃないか。
盲点を突くーーそれは人の心の動きが分かって
初めて出来る事だ。
人攫いに遭ったと思ったら普通は、がむしゃらに逃げる事を考える。
それが、しれっと戻って来て屋根の上。
図太いと言おうか、何と言おうか……だいたい頭の上自体、元々見過ごしやすい場所ではある。
更に屋根の上なら、追っ手の動きも把握できる……つまり状況判断に優れている。
その上全員いなくなる時まで辛抱強く、ひたすら待つ事の出来る精神力。
迂闊に動かない。そして安全を確保する手を打つ。慎重で用心深い。
目的の為、ただじっと待つ事は難しい。
性格もあるが、騎士の中でも、それが出来るのは6~7人程しかいない。
そんな子が明るくなった森でみすみす川に転落するか?
ーーいや、あり得んな。
ヒューバートは副長に連絡を取った。
「コリンズ、俺は城に行く。確認したい事ができた」
『何かありましたか?』
「ああ。俺達は一杯食わされたかも知れんぞ」
引き続き捜索の指揮をしていたヒューバートに部下のモスから連絡が入った。
「何?召喚の館に結界が張られている?そんな事は何時もの事だろう?」
他国の諜報員(特に某帝国)が、召喚の魔法陣の秘密を得ようとウロチョロしているのは分かっている為、普段は侵入されないよう結界を張っている。
連日森の中を捜し回っていたモスだったが、ふと思いついて最初の場所ーー召喚の館に戻ってみた所、結界が張ってあったと言うのだ。
『ええ、そうですよね。ですが私が言いたいのは、それを何時、誰がやったか、と言う事なんです。あの時召喚で魔道師達は全員意識不明でした。シド様ですか?』
ヒューバートは眉根を寄せた。
あの時、シドは疲れ切って………
ハッとする。
「シドではない。疲労困憊で結界を張れる状態じゃなかった。不味いな……今、そっちに行く」
待っていたモスは敬礼をした後、ヒューバートを案内した。
「団長、見て下さい。ここから先には-歩も行けないんです」
見えない壁に遮られたように、進もうとして弾かれている。
館の回りをぐるりと-周したが同じだと言う。
何時、誰が結界を張ったのか。
考え込むヒューバートに、
「実は気になる事がもう1つありまして……」
「何だ?」
「こちらです」
結界を調べる為、館の裏に回って気が付いたのだと言う。
大きな木の下に足跡が付いている。
子供か女の大きさの足跡が。
そしてその足跡はその先には続いていない。
「……まさか……木に登ったのか……?」
「……団長、仰ってましたよね?今度の聖女は身体能力が高そうだ、と」
ヒューバートは木を見上げた。
「あの枝、館の屋根の上に行くのに丁度良い枝ぶりなんですよ」
実際登って確かめたと言うモス。
「ー今は結界に弾かれて行けませんでしたがね」
「……あの嬢ちゃん、ずっと我々の頭の上にいたという訳か」
ヒューバートはクッと自嘲の笑みを浮かべた。
「おそらく。あそこで我々の動きを見ていたんでしょう。そして誰もいなくなった時に降りて来て逃げた……」
「全員がいなくなったのは朝方だ。俺がもっと遠くを捜索しろと命令したのも多分聞いているな。直ぐには戻って来ないし、明るくなったから森の中を逃げ易くなったと判断したか……」
「……頭の良い子ですね」
「全くだ。逃げたと思わせて、実は戻って館の屋根の上か……盲点だな。そうするとこの結界を張ったのも嬢ちゃんの可能性大だ」
「どういう事ですか?」
ガシガシと頭を掻きながらヒューバートは苦い顔でモスに言った。
「……殺されない為だろう」
「!」
顔色が変わるモスにヒューバートは説明する。
「俺達を人攫いだと思って逃げたんだ。最悪殺されるかも知れないと考えるのは当然だろう。で、嬢ちゃんは屋根の上で俺達の会話を聞いていた筈だ。抵抗されても傷つけるな、とかな」
とりあえず殺すつもりはなく、丁重に扱うつもりなのは分かった。
だが、それが何時まで続くかの保証はない。
「お前ならどうする?」
団長の問いにモスは少し考え、答えを口にした。
「ーー自分の価値を上げる……?」
「その通り。召喚されたばかりで、全てを知っている訳ではないだろうが、自分に何かしらの価値があるのは分かった筈だ。更に安全を確保するのに-番効果的なのは、自分の代わりになる存在を潰す事だ。それには召喚された場所を使えなくすれば良いーーそう考えたんだろう。唯一無二を殺せるか?」
「いいえ」
代わりがないという事は、絶対的な価値を持つ。
ヒューバートは結界の側に行き、殴りつけてみた。
その瞬間、結界が光り衝撃がそのまま返って来る。
「……ってえ!」
赤くなった拳をさすりニヤッと笑う。
「反射機能あり、か。この分なら魔法も反射するなーーモス、行くぞ」
促されたモスが振り返り尋ねた。
「このままで良いんですか?」
「今はな。反射機能まである結界はシドのレベルじゃないと張れない。解くとしたらそれ以上だ。そんな奴はめったにいないし、どっちにしろ、うるさい連中からは守れるから構わんだろ」
自分達が去って、直ぐに聖女が結界を張ったなら魔法陣の秘密は高いレベルで保全されている事になる。解くかどうかはシドか保護した聖女に任せるしかない。
馬で捜索現場に戻りながら、ヒューバートは今回の聖女について考えていた。
年に似合わず頭が切れるのは間違いない。
見事に裏をかかれた形になった彼は口角を上げた。
……嬢ちゃん、やるじゃないか。
盲点を突くーーそれは人の心の動きが分かって
初めて出来る事だ。
人攫いに遭ったと思ったら普通は、がむしゃらに逃げる事を考える。
それが、しれっと戻って来て屋根の上。
図太いと言おうか、何と言おうか……だいたい頭の上自体、元々見過ごしやすい場所ではある。
更に屋根の上なら、追っ手の動きも把握できる……つまり状況判断に優れている。
その上全員いなくなる時まで辛抱強く、ひたすら待つ事の出来る精神力。
迂闊に動かない。そして安全を確保する手を打つ。慎重で用心深い。
目的の為、ただじっと待つ事は難しい。
性格もあるが、騎士の中でも、それが出来るのは6~7人程しかいない。
そんな子が明るくなった森でみすみす川に転落するか?
ーーいや、あり得んな。
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