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14話
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さて、祖父と孫が聖女についての話し合いをしている頃、王宮の一室でも3人の高位貴族が集まり、同じく人払いをした上に、結界を張って話し合っていた。
テーブルの上には酒とカード。対外的にはカードゲームに興じて集まっている、という事になっている。
「……聖女は無事召還されたかな?」この中で-番身分が高い男ーーイルミナ公爵が誰ともなしに言った。
「大丈夫でしょう。今回の召還は特に条件が非常に良いそうですし」それに答えたのはリンツ侯爵。
召還の儀式は常に行える訳ではない。
幾つか条件があり、それに合致する必要がある。
天の刻、地の条件、そして人の力だ。
①天体の合(※太陽と月や惑星が重なる天文現象ー月食や日食も合である)
2つの月ならば最も良いとされる。
②満月の日を挟んで3日間。当然一番良いのは満月当日。
③天候。曇りや雨では実行できない。
④次元を繋げる荒技の為、人のいない土地と建物。
⑤召還の魔法陣
⑥膨大な魔力
⑦魔力のレベル(※質)
今回の召還には全ての条件が最高の状態で揃っていた。
月が2つとも揃って満月になり、その上合になる。
1つの月の方は、近い軌道で公転しているが、もう1つの月の軌道が大きくそれも傾いて楕円形を描いている上、自転の速度も違い、この現象を王国の王都付近で見られるのは、実に約279年ぶりの事だった。
この時を逃せば、次の召還に使える合--それはこの国、王都で観測される日食になるのだが、9年後と試算が出た。
しかし、その合の力は今回の場合より弱く、術者には相当な負担を強いる事は確実だった。
そして比較的回数の多い、1つの月での月食レベルでの召還では下手をすれば失敗する危険を伴う。
ただ喚べなかったのではなく、その時の聖女は次元の狭間に消え去り、魔法陣が爆発して、魔道師達が相当数死んだと大戦争前の記録に残っていた。
その為、瘴気の浄化が遅れ次の召還まで人々は滅亡寸前まで追い詰められた、とある。
たとえ成功しても犠牲者はやはり出てしまう。
リサの召還時はまさにこれだった。
予定の日食の時に雨だったせいで、仕方なく-番近い月食の時まで延期となった。
とにかく魔力持ちをかき集め、召還を行ったのだが、魔力涸渇で意識不明のまま遂に目覚めなかった者が実に14人に及んだ。
召還は喚ぶ方の人的損失もバカにできないのである。
この損失を埋めるのは並大抵の事ではない。
ただ今回は幸いな事に、“塔”の現魔導師長シドのレベルが非常に高く又、その弟子達も師匠の薫陶を受け、今は魔力が高い者が揃っていた。
瘴気についても、貴族達の認識ではまだ大丈夫だと言えるレベルなのだが、9年後には、どうなっているか分からず、既に老境に差し掛かったシドが、その時まで元気、いや生きているかの保証はない。
その為、普通聖女が存命中の時は憚って(もう役立たずと判断したと各国に誤認される危険がある為)行われない召還ではあったが、この絶好の機会を逃す事はないと前倒しにしたのだ。
特に小うるさいライカ帝国が、やいのやいの言って来る事は予想されているので、こちらは宰相が対応する事になっている。
ただし、これだけ好条件であっても、最大の懸念事項、天候が崩れたら全てはおじゃん。
召還はまさしく運を天に任せるしかない一大事業なのである。
一昨日まで雨が降り続いていたので気が気ではなかったが、今晩は見事な満月が2つ天空にある。成功は間違いないと表情も緩むというものだ。
「さて、今度の聖女様は我が国に何を齎してくれるのかの」
「まことに。聖女様のおかげで、瘴気は当然ですが、その発想が我々とはまるで違いますからな。又、便利な道具が増えると良いのですが」
「そして、貴方様お抱えの商人が儲かる、と。そういう事ですか?リンツ侯爵様?」
「クックック、何を言う。その便利な道具とやらも、そなたが扱う魔石がなければ役立ず、ではないか?ハイデン伯爵」
揶揄するように言ったリンツ侯爵。
「左様。その為に魔石が出るあの土地をそなたが手に入れやすいよう、根回ししてやったのだぞ」
「はい、それは十分承知しております」
ハイデン伯爵は恭しくイルミナ公爵に対して礼を取った。
公爵は満足そうに頷く。
「ところで公爵様、聖女様の世話係は、ランフェルド殿下で決まりなのですか?御子息カーライト様は?ランフェルド殿下が迎えに行かれましたが…」伯爵が話題を変えた。
聖女の世話係、と言うより全権を持つ責任者は、王族直系、若しくは王族に繋がる高位貴族の独身男性と決められている。
王家で囲い込み、結婚を視野に入れているからだ。
イルミナ公爵の妻は現国王の姉なので、カーライトとランフェルドは従兄弟同士、資格は十分にある。
「ーー今は仕方あるまい。王太子と家の長男は既に既婚者だが、優先順位は直系のあちらがまだ先だ」苦虫を噛み潰したような顔で公爵は答えた。
左様ですな、とリンツ侯爵が頷く。
「ランフェルド殿下の下にもランドック殿下も控えていらっしゃいますし……」
機嫌を取るように伯爵が言った。
「確かに優先順位は王家直系でしょう。ですが聖女様にも好みと言うものがあるのでは?」
「ハイデン伯爵?」
公爵と伯爵が何を言うのかと彼を見た。
「聖女様は異世界人、故に我々と違い身分というものが理解しずらい。リサ様もその点御苦労されたようですが……優先順位に遠慮するのは我らの方で、あちらは関係ないのです。要は早い者勝ち、ですよ」
クッと公爵は笑った。「ーー成程。先に好意を持たれた方が勝ち、という訳か」
聖女の方では身分に忖度しないという事だ。
「ええ。ですから力ーライト様には頑張って頂きませんと。その為の協力は惜しみませんぞ」
「うむ。頼むぞ」
始めは慣れずにメソメソしているが、ちょっと祭り上げてやれば、彼女達は惜し気なく、大きな恩恵を施してよこす。
衛生管理には石鹸が不可欠。そのおかげで製造や販売の利益も莫大なものになる。
浴槽、トイレの改善で、貴族達はより贅沢な物を求め、それに伴う品質の向上が必須となり、各分野の技術が飛躍的に伸びた。
それに加え、魔法ではなく技術が発展した世界から来た故か、面白い魔道具の発明にも関与している。
代表的な物は通信の魔道具、記録媒体の魔道具だ。
更に何故か聖女達は食物にこだわる傾向が強く、彼女らにより、多くの食べられる物が発見され、既存の食材からも多彩なレシピが出回ると庶民から貴族まで食生活が激変し、それぞれの生産地が潤うようになった。
聖女は浄化と富と社会変化を齎す者。
「ーー今度はどんな娘なのか……せいぜい役に立ってもらわねばの」
公爵の呟きに侯爵も伯爵も大きく賛意を示した
聖女と言っても所詮は世慣れぬ小娘にこちらがわざわざ頭を下げてやって贅沢もさせてやっているのだから……。
「乾杯致しましょう、我らの聖女様に」伯爵が改めて公爵のグラスに酒を注ぎ、次いで侯爵、最後自分に注いだ。
「「おお、我らの聖女様に」」
テーブルの上には酒とカード。対外的にはカードゲームに興じて集まっている、という事になっている。
「……聖女は無事召還されたかな?」この中で-番身分が高い男ーーイルミナ公爵が誰ともなしに言った。
「大丈夫でしょう。今回の召還は特に条件が非常に良いそうですし」それに答えたのはリンツ侯爵。
召還の儀式は常に行える訳ではない。
幾つか条件があり、それに合致する必要がある。
天の刻、地の条件、そして人の力だ。
①天体の合(※太陽と月や惑星が重なる天文現象ー月食や日食も合である)
2つの月ならば最も良いとされる。
②満月の日を挟んで3日間。当然一番良いのは満月当日。
③天候。曇りや雨では実行できない。
④次元を繋げる荒技の為、人のいない土地と建物。
⑤召還の魔法陣
⑥膨大な魔力
⑦魔力のレベル(※質)
今回の召還には全ての条件が最高の状態で揃っていた。
月が2つとも揃って満月になり、その上合になる。
1つの月の方は、近い軌道で公転しているが、もう1つの月の軌道が大きくそれも傾いて楕円形を描いている上、自転の速度も違い、この現象を王国の王都付近で見られるのは、実に約279年ぶりの事だった。
この時を逃せば、次の召還に使える合--それはこの国、王都で観測される日食になるのだが、9年後と試算が出た。
しかし、その合の力は今回の場合より弱く、術者には相当な負担を強いる事は確実だった。
そして比較的回数の多い、1つの月での月食レベルでの召還では下手をすれば失敗する危険を伴う。
ただ喚べなかったのではなく、その時の聖女は次元の狭間に消え去り、魔法陣が爆発して、魔道師達が相当数死んだと大戦争前の記録に残っていた。
その為、瘴気の浄化が遅れ次の召還まで人々は滅亡寸前まで追い詰められた、とある。
たとえ成功しても犠牲者はやはり出てしまう。
リサの召還時はまさにこれだった。
予定の日食の時に雨だったせいで、仕方なく-番近い月食の時まで延期となった。
とにかく魔力持ちをかき集め、召還を行ったのだが、魔力涸渇で意識不明のまま遂に目覚めなかった者が実に14人に及んだ。
召還は喚ぶ方の人的損失もバカにできないのである。
この損失を埋めるのは並大抵の事ではない。
ただ今回は幸いな事に、“塔”の現魔導師長シドのレベルが非常に高く又、その弟子達も師匠の薫陶を受け、今は魔力が高い者が揃っていた。
瘴気についても、貴族達の認識ではまだ大丈夫だと言えるレベルなのだが、9年後には、どうなっているか分からず、既に老境に差し掛かったシドが、その時まで元気、いや生きているかの保証はない。
その為、普通聖女が存命中の時は憚って(もう役立たずと判断したと各国に誤認される危険がある為)行われない召還ではあったが、この絶好の機会を逃す事はないと前倒しにしたのだ。
特に小うるさいライカ帝国が、やいのやいの言って来る事は予想されているので、こちらは宰相が対応する事になっている。
ただし、これだけ好条件であっても、最大の懸念事項、天候が崩れたら全てはおじゃん。
召還はまさしく運を天に任せるしかない一大事業なのである。
一昨日まで雨が降り続いていたので気が気ではなかったが、今晩は見事な満月が2つ天空にある。成功は間違いないと表情も緩むというものだ。
「さて、今度の聖女様は我が国に何を齎してくれるのかの」
「まことに。聖女様のおかげで、瘴気は当然ですが、その発想が我々とはまるで違いますからな。又、便利な道具が増えると良いのですが」
「そして、貴方様お抱えの商人が儲かる、と。そういう事ですか?リンツ侯爵様?」
「クックック、何を言う。その便利な道具とやらも、そなたが扱う魔石がなければ役立ず、ではないか?ハイデン伯爵」
揶揄するように言ったリンツ侯爵。
「左様。その為に魔石が出るあの土地をそなたが手に入れやすいよう、根回ししてやったのだぞ」
「はい、それは十分承知しております」
ハイデン伯爵は恭しくイルミナ公爵に対して礼を取った。
公爵は満足そうに頷く。
「ところで公爵様、聖女様の世話係は、ランフェルド殿下で決まりなのですか?御子息カーライト様は?ランフェルド殿下が迎えに行かれましたが…」伯爵が話題を変えた。
聖女の世話係、と言うより全権を持つ責任者は、王族直系、若しくは王族に繋がる高位貴族の独身男性と決められている。
王家で囲い込み、結婚を視野に入れているからだ。
イルミナ公爵の妻は現国王の姉なので、カーライトとランフェルドは従兄弟同士、資格は十分にある。
「ーー今は仕方あるまい。王太子と家の長男は既に既婚者だが、優先順位は直系のあちらがまだ先だ」苦虫を噛み潰したような顔で公爵は答えた。
左様ですな、とリンツ侯爵が頷く。
「ランフェルド殿下の下にもランドック殿下も控えていらっしゃいますし……」
機嫌を取るように伯爵が言った。
「確かに優先順位は王家直系でしょう。ですが聖女様にも好みと言うものがあるのでは?」
「ハイデン伯爵?」
公爵と伯爵が何を言うのかと彼を見た。
「聖女様は異世界人、故に我々と違い身分というものが理解しずらい。リサ様もその点御苦労されたようですが……優先順位に遠慮するのは我らの方で、あちらは関係ないのです。要は早い者勝ち、ですよ」
クッと公爵は笑った。「ーー成程。先に好意を持たれた方が勝ち、という訳か」
聖女の方では身分に忖度しないという事だ。
「ええ。ですから力ーライト様には頑張って頂きませんと。その為の協力は惜しみませんぞ」
「うむ。頼むぞ」
始めは慣れずにメソメソしているが、ちょっと祭り上げてやれば、彼女達は惜し気なく、大きな恩恵を施してよこす。
衛生管理には石鹸が不可欠。そのおかげで製造や販売の利益も莫大なものになる。
浴槽、トイレの改善で、貴族達はより贅沢な物を求め、それに伴う品質の向上が必須となり、各分野の技術が飛躍的に伸びた。
それに加え、魔法ではなく技術が発展した世界から来た故か、面白い魔道具の発明にも関与している。
代表的な物は通信の魔道具、記録媒体の魔道具だ。
更に何故か聖女達は食物にこだわる傾向が強く、彼女らにより、多くの食べられる物が発見され、既存の食材からも多彩なレシピが出回ると庶民から貴族まで食生活が激変し、それぞれの生産地が潤うようになった。
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「ーー今度はどんな娘なのか……せいぜい役に立ってもらわねばの」
公爵の呟きに侯爵も伯爵も大きく賛意を示した
聖女と言っても所詮は世慣れぬ小娘にこちらがわざわざ頭を下げてやって贅沢もさせてやっているのだから……。
「乾杯致しましょう、我らの聖女様に」伯爵が改めて公爵のグラスに酒を注ぎ、次いで侯爵、最後自分に注いだ。
「「おお、我らの聖女様に」」
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