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22話
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「ほほう、そのような事が……」
「はい、ランバルト様。こちらに納める大事な品でしたので奪われた時には焦りましたが……」
離宮の客間で先代国王ランバルトは、王室出入りの商人、ダリオンと面談していた。
2人の前には香り高い茶が入ったティーカップが置かれ、オレンジの皮がアクセントになっている焼き菓子が添えられていた。
臥せっているリサの為に彼女の好きな茶葉や、気分を落ちつかせる効果がある香、入浴剤など少しでも気が晴れる事を願って、長い付き合いで信用のおける商人に頼んでいたのである。
「ふむ。そなた達に怪我が無くて良かったが、それにしても……その男、-級鑑定士でもあるダリオンの鑑定を弾くとは-体何者かの?」
鑑定スキルにはレベルがあって教会や鑑定ギルドで能力は計れる。
その中の-級鑑定士とは鑑定レベル8~10を持つ者でないと与えられない称号で、社会的信用度も高い。
但しそれを得るには能力を悪用しないように教会の神殿において特別な誓約を交わさなければならなかった。
虚偽の鑑定をして誓約を破った時には直ちに罰が下り命がない、という極めて厳しい条件をクリアしているので、一級鑑定士の下す鑑定結果を疑う者はいない。
特にダリオンのレベルは高く、店はこじんまりとしているが、彼が扱う品は最高級のお墨付きだと、王都の貴族の中では知らぬ者はいなかった。
「……私の鑑定レベルは9。弾くという事は、それ以上という事になります。レベル10しかありません」
「最早伝説の存在だな」
レベル8~10と言っても、レベル10の鑑定士は今まで出た事がない。
「ーーランバルト様、実はもう1つ不思議な事が……」
躊躇いがちに口にしたダリオンに、茶を飲もうとしていたランバルトの手が止まった。
「何だ?」
「助けてくれた礼にと中金貨を渡したのですが、その時取った手が見かけより小さかったような……」
助けてくれた男は筋肉質で逞しく、鞄を返してくれた手も大きかった筈なのに、実際手を触れたら小さい。どうしても違和感が拭えないと言った。
眉を寄せるランバルト。
相手は-級鑑定士。虚偽の話はしない事で信用を得ている男が、違和感があると言った内容は真剣に考える必要がある。
ランバルトには思い当たるスキルが1つあった。
「……まさか幻覚?か?」
「幻覚?」
「めったに出ず、あまり世の中に知られていないスキルだ。何でも思い通りに姿変えができるらしい」
ダリオンは辺りを憚るような小声になった。「ーーまさかかの国の……」
「……可能性はある。鑑定スキルが、レベル10ならば鑑定出来ない物はない。人物の情報も全て丸裸にされーー!」
ランバルトが顔色を変えた。
もしもその男、いや、性別も分からない人物が聖女を探す為、帝国の放った間諜だったら……!
それも瞬時に姿を変える幻覚スキルを持っているなら、正体が分からず追う事は殆ど不可能。
「ランバルト様?」
難しい顔をしている先代国王の様子が尋常ではないので、ダリオンはそっと声をかけた。
「あ、いや、何でもない」
「もしや召喚した聖女様に関する事では?」
「!」
ランバルトは目を見張ったが、鑑定持ちに隠していても仕方がない……力を抜いた。
「流石だな、ダリオン。だが何故分かった?」
「今まで召喚の儀式が日食、月食、何らかの天体の合の時に行われているのは公然の秘密です。-週間前、2つの月が合になりましたね?“塔”の魔道師達が寝込んでいる、という噂、加えて騎士達が王都で誰かを捜し回っているとなれば、召喚は行われたが肝心の聖女様がいない、という事ではありませんか?」
「そうだ。我々を警戒し、逃げられて行方不明になっている。騎士団長の報告ではなかなか難物らしい。頭が良く大胆でありながら、用心深いとな」
聖女がどのように逃げたか話すとダリオンは笑いを堪えようとしたが、堪え切れずプルプルと全身を震わせている。
「……無理せず笑っても構わんぞ」
滲んだ涙を拭き拭きダリオンは謝罪した。
「大変失礼を。事に当たっておられる騎士団長様には申し訳ありませんが……まあ見事と言うか……実に、いや、何とも……」
面白いと最後は口の中に消えたがランバルトには聞こえていたらしい。
「端から見れば、儂も面白いと思えただろうがな……」苦笑混じりに言った。
「確認したいのですが、聖女様は王都にいらっしゃるのは間違いないのですね?」
「ああ、守備隊の者が審査をパスした“アオ”という少年に扮した聖女を目撃している。王都中を捜しているが似たような異国人の少年は多い。あまりおおっぴらに出来んのが辛い所でな。中程度の宿と門の出入りは調べさせているが、まだ何の成果もない。-体何処に紛れ込んだものやら……皆目見当も付かん」
少し考え込んだダリオンは、おもむろに切り出した。
「ランバルト様、服装やバッグなどはもう変わっていると見た方が宜しいかと。頭が良いという話が本当ならば、素顔の自分を目撃している者がいる事に気づいて既に対処しているでしょうから」
「……少ない手がかりが、ますます少なくなっているという事か」顔をしかめたランバルトは、逆に聞いて見る。
「では、そなたならばどうする?」
「商売人は相手の立場になって考えます。何を求めているかを」笑みを浮かべたダリオン。
「ーー聖女様はまず異世界人でこの世界については何も知らない。警戒心が強いなら、怪しまれないよう迂闊に人には聞けない。ならば何処で知識を得ようとしますか?」
「何処で?」ハッとするランバルト。「図書館か!」
「はい。私ならばここ-週間、身分証なしで、この世界の基礎知識に関する本を沢山読んでいる者にまず目を付けますね」
「はい、ランバルト様。こちらに納める大事な品でしたので奪われた時には焦りましたが……」
離宮の客間で先代国王ランバルトは、王室出入りの商人、ダリオンと面談していた。
2人の前には香り高い茶が入ったティーカップが置かれ、オレンジの皮がアクセントになっている焼き菓子が添えられていた。
臥せっているリサの為に彼女の好きな茶葉や、気分を落ちつかせる効果がある香、入浴剤など少しでも気が晴れる事を願って、長い付き合いで信用のおける商人に頼んでいたのである。
「ふむ。そなた達に怪我が無くて良かったが、それにしても……その男、-級鑑定士でもあるダリオンの鑑定を弾くとは-体何者かの?」
鑑定スキルにはレベルがあって教会や鑑定ギルドで能力は計れる。
その中の-級鑑定士とは鑑定レベル8~10を持つ者でないと与えられない称号で、社会的信用度も高い。
但しそれを得るには能力を悪用しないように教会の神殿において特別な誓約を交わさなければならなかった。
虚偽の鑑定をして誓約を破った時には直ちに罰が下り命がない、という極めて厳しい条件をクリアしているので、一級鑑定士の下す鑑定結果を疑う者はいない。
特にダリオンのレベルは高く、店はこじんまりとしているが、彼が扱う品は最高級のお墨付きだと、王都の貴族の中では知らぬ者はいなかった。
「……私の鑑定レベルは9。弾くという事は、それ以上という事になります。レベル10しかありません」
「最早伝説の存在だな」
レベル8~10と言っても、レベル10の鑑定士は今まで出た事がない。
「ーーランバルト様、実はもう1つ不思議な事が……」
躊躇いがちに口にしたダリオンに、茶を飲もうとしていたランバルトの手が止まった。
「何だ?」
「助けてくれた礼にと中金貨を渡したのですが、その時取った手が見かけより小さかったような……」
助けてくれた男は筋肉質で逞しく、鞄を返してくれた手も大きかった筈なのに、実際手を触れたら小さい。どうしても違和感が拭えないと言った。
眉を寄せるランバルト。
相手は-級鑑定士。虚偽の話はしない事で信用を得ている男が、違和感があると言った内容は真剣に考える必要がある。
ランバルトには思い当たるスキルが1つあった。
「……まさか幻覚?か?」
「幻覚?」
「めったに出ず、あまり世の中に知られていないスキルだ。何でも思い通りに姿変えができるらしい」
ダリオンは辺りを憚るような小声になった。「ーーまさかかの国の……」
「……可能性はある。鑑定スキルが、レベル10ならば鑑定出来ない物はない。人物の情報も全て丸裸にされーー!」
ランバルトが顔色を変えた。
もしもその男、いや、性別も分からない人物が聖女を探す為、帝国の放った間諜だったら……!
それも瞬時に姿を変える幻覚スキルを持っているなら、正体が分からず追う事は殆ど不可能。
「ランバルト様?」
難しい顔をしている先代国王の様子が尋常ではないので、ダリオンはそっと声をかけた。
「あ、いや、何でもない」
「もしや召喚した聖女様に関する事では?」
「!」
ランバルトは目を見張ったが、鑑定持ちに隠していても仕方がない……力を抜いた。
「流石だな、ダリオン。だが何故分かった?」
「今まで召喚の儀式が日食、月食、何らかの天体の合の時に行われているのは公然の秘密です。-週間前、2つの月が合になりましたね?“塔”の魔道師達が寝込んでいる、という噂、加えて騎士達が王都で誰かを捜し回っているとなれば、召喚は行われたが肝心の聖女様がいない、という事ではありませんか?」
「そうだ。我々を警戒し、逃げられて行方不明になっている。騎士団長の報告ではなかなか難物らしい。頭が良く大胆でありながら、用心深いとな」
聖女がどのように逃げたか話すとダリオンは笑いを堪えようとしたが、堪え切れずプルプルと全身を震わせている。
「……無理せず笑っても構わんぞ」
滲んだ涙を拭き拭きダリオンは謝罪した。
「大変失礼を。事に当たっておられる騎士団長様には申し訳ありませんが……まあ見事と言うか……実に、いや、何とも……」
面白いと最後は口の中に消えたがランバルトには聞こえていたらしい。
「端から見れば、儂も面白いと思えただろうがな……」苦笑混じりに言った。
「確認したいのですが、聖女様は王都にいらっしゃるのは間違いないのですね?」
「ああ、守備隊の者が審査をパスした“アオ”という少年に扮した聖女を目撃している。王都中を捜しているが似たような異国人の少年は多い。あまりおおっぴらに出来んのが辛い所でな。中程度の宿と門の出入りは調べさせているが、まだ何の成果もない。-体何処に紛れ込んだものやら……皆目見当も付かん」
少し考え込んだダリオンは、おもむろに切り出した。
「ランバルト様、服装やバッグなどはもう変わっていると見た方が宜しいかと。頭が良いという話が本当ならば、素顔の自分を目撃している者がいる事に気づいて既に対処しているでしょうから」
「……少ない手がかりが、ますます少なくなっているという事か」顔をしかめたランバルトは、逆に聞いて見る。
「では、そなたならばどうする?」
「商売人は相手の立場になって考えます。何を求めているかを」笑みを浮かべたダリオン。
「ーー聖女様はまず異世界人でこの世界については何も知らない。警戒心が強いなら、怪しまれないよう迂闊に人には聞けない。ならば何処で知識を得ようとしますか?」
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