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三十七話
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白雪太夫は指折り数えて、宴の日を待ち焦がれていた。
明後日、右京様に会える……
あの方の息がかかる程の近くに座り、杯にお酌をし、会話を交わす……
ああ……考えるだけで胸が高鳴る……
今まで、何百回とこなして来たお座敷なのに……
明後日だけは何時もと違う。
私の全てでおもてなしをするわ。
明後日
明後日
時よ、早く過ぎ去って……
あの方に早く逢わせて……
右京様……
今どうなさっているの?
その白雪太夫の想い人は、研ぎ屋に自分の預けていた刀を取りに行き、長屋に戻ってみると客が来ていた。
おかみさん達からそれを聞き、彼は首を捻る。「…田代平介?はて?覚えが無いがのう」
大家の所で待っているというので、顔を出した。
「金太郎殿、某に客がいると聞いたのだが……」
戸を開けると初めて見る侍が立ち上がり、彼に一礼した。
「お初にお目にかかる。手前は田代平介。小池道場の師範代をしており、佐々木右近、本田三郎とは道場仲間でござる」
「!」右京はハッと息を吸い込んだ。
「大事な話ゆえ……」
平介に促され、二人が向かったのは、どうやら彼の行きつけらしい蕎麦屋だった。
縄暖簾をくぐった平介が中へ呼びかける「辰吉、上を借りるぞ。悪いが他の客をあげんでくれ」
辰吉と呼ばれた親父が板場から顔を出した。「お、誰かと思ったら田代の旦那か。お連れは初めて見るお人だね」
右京は律儀に親父に挨拶した。「商売の邪魔をしてすまんな」
「おや、旦那と違って、こちら様は真面目そうじゃねぇか。悪い遊びに誘うんじゃねぇぜ」辰吉はケケッと笑った。
慌てた平介はチラッと右京を窺った。「馬鹿!蕎麦は合図したら頼む。辰吉のは美味いからな」
「あいよ!」
「さ、小汚い店で申し訳ないが、上へ。」
「小汚いだけ余計だぜ。そういうのは道場の若けぇ連中のツケを払って言ってくんな。師範代の田代の旦那!」
「おお、連中に言っておく」
座敷に落ち着いた二人。
平介は形を改め、手をついた。「…右京様の事は二人からかねがね……御事情も知っております」
「で、込み入った話とは?」
平助は身を起こし、経緯を話し始めた。「一昨日、佐々木右近が国元から火急の知らせを携え、道場に参りました。内容は若君千代菊丸様、流行病にて、身罷られた由」
「!」凶報に大きく右京の目が見開かれた。
「右近は殿様に知らせたくても、江戸屋敷は内藤外記に牛耳られて、迂闊には近づけない。で、我が道場に。……権力を握った外記が何かやらかす事は目に見えてますからな……」
「……」
「それで怪しまれないよう、手前の方から三郎を道場に呼び出し、先に出た右近とは船宿で落ち合い、屋形舟にて話し合いました。どうやって屋敷に入るかを」
右京は無言で続きを促した。
平介はフーッとため息をつく。「……右近は間宮伊織に訳を話し、協力するよう働きかけよと、三郎を説き伏せました。間宮の忠義は殿様、若君、藩に捧げられていると。そして三郎は間宮に事情を告げ、お前はどうすると問うたのです。間宮は協力すると言い、己が調べた貴方様の住居の事を教えたそうです。手前が金太郎長屋を訪れたのは、その情報ゆえ。その事で二人は間宮を信じたのですが……右京様、昨日、外記が出かけたと知らせを受け、上屋敷に向かった右近が消息を絶ちました」
「!」
「上手く行ったら知らせると出て行ったのですが……。何の使いも未だに。……この事どう思われます?」
明後日、右京様に会える……
あの方の息がかかる程の近くに座り、杯にお酌をし、会話を交わす……
ああ……考えるだけで胸が高鳴る……
今まで、何百回とこなして来たお座敷なのに……
明後日だけは何時もと違う。
私の全てでおもてなしをするわ。
明後日
明後日
時よ、早く過ぎ去って……
あの方に早く逢わせて……
右京様……
今どうなさっているの?
その白雪太夫の想い人は、研ぎ屋に自分の預けていた刀を取りに行き、長屋に戻ってみると客が来ていた。
おかみさん達からそれを聞き、彼は首を捻る。「…田代平介?はて?覚えが無いがのう」
大家の所で待っているというので、顔を出した。
「金太郎殿、某に客がいると聞いたのだが……」
戸を開けると初めて見る侍が立ち上がり、彼に一礼した。
「お初にお目にかかる。手前は田代平介。小池道場の師範代をしており、佐々木右近、本田三郎とは道場仲間でござる」
「!」右京はハッと息を吸い込んだ。
「大事な話ゆえ……」
平介に促され、二人が向かったのは、どうやら彼の行きつけらしい蕎麦屋だった。
縄暖簾をくぐった平介が中へ呼びかける「辰吉、上を借りるぞ。悪いが他の客をあげんでくれ」
辰吉と呼ばれた親父が板場から顔を出した。「お、誰かと思ったら田代の旦那か。お連れは初めて見るお人だね」
右京は律儀に親父に挨拶した。「商売の邪魔をしてすまんな」
「おや、旦那と違って、こちら様は真面目そうじゃねぇか。悪い遊びに誘うんじゃねぇぜ」辰吉はケケッと笑った。
慌てた平介はチラッと右京を窺った。「馬鹿!蕎麦は合図したら頼む。辰吉のは美味いからな」
「あいよ!」
「さ、小汚い店で申し訳ないが、上へ。」
「小汚いだけ余計だぜ。そういうのは道場の若けぇ連中のツケを払って言ってくんな。師範代の田代の旦那!」
「おお、連中に言っておく」
座敷に落ち着いた二人。
平介は形を改め、手をついた。「…右京様の事は二人からかねがね……御事情も知っております」
「で、込み入った話とは?」
平助は身を起こし、経緯を話し始めた。「一昨日、佐々木右近が国元から火急の知らせを携え、道場に参りました。内容は若君千代菊丸様、流行病にて、身罷られた由」
「!」凶報に大きく右京の目が見開かれた。
「右近は殿様に知らせたくても、江戸屋敷は内藤外記に牛耳られて、迂闊には近づけない。で、我が道場に。……権力を握った外記が何かやらかす事は目に見えてますからな……」
「……」
「それで怪しまれないよう、手前の方から三郎を道場に呼び出し、先に出た右近とは船宿で落ち合い、屋形舟にて話し合いました。どうやって屋敷に入るかを」
右京は無言で続きを促した。
平介はフーッとため息をつく。「……右近は間宮伊織に訳を話し、協力するよう働きかけよと、三郎を説き伏せました。間宮の忠義は殿様、若君、藩に捧げられていると。そして三郎は間宮に事情を告げ、お前はどうすると問うたのです。間宮は協力すると言い、己が調べた貴方様の住居の事を教えたそうです。手前が金太郎長屋を訪れたのは、その情報ゆえ。その事で二人は間宮を信じたのですが……右京様、昨日、外記が出かけたと知らせを受け、上屋敷に向かった右近が消息を絶ちました」
「!」
「上手く行ったら知らせると出て行ったのですが……。何の使いも未だに。……この事どう思われます?」
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