~異世界女子会~ 蒼い花(ティアラ)は誰が為に……

げんげんだの

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第1夜会 迷い子の賢犬-ワイズドッグ(後)

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 オーナーのみなせが一言告げると4人の目が集まり、時間が少し止まる。その時間は続くみなせの言葉によりまた動き始めた。

「……ユアさま。ロペくんは話を聞くとかなり賢い犬です。家庭環境に何も問題ない様子で長く生活を共にした。間違いありませんね?」

「……はっはい」

 ユアがキョトンとした顔でぶんぶん頷く。

「皆様……いろいろとお話を聞いていましたが肝心なことを聞いていませんでした」

「みなせ? 肝心なことって?」

「む~……落ち度、見逃しがあったってこと~」

 アーニャがむーっと頬を膨らませる。

「誤解させてしまい申し訳ありません。しかし、ここは重要なポイントでございます。散歩のルートで何をしたのか教えていただけませんか?」

「散歩は散歩だろう? そこまで着目するところはないだろう」

 ホットミルクを口にしながらチェルシーは答える。煙草の煙をふーっと吹きながらロサナが続く。

「たしか、家→広場→公園→花屋→八百屋→肉屋→雑貨屋→家のルートだったですわね……チェルシーのいう通り特別不思議なところはないですわ」

「ん~……ここの何が重要なのだ」

「広場や公園は皆様のいう通りわかります。ちなみにユア様を含めたご家族はガーデニングが趣味でございますか?」

「私も含め家族にそのような趣味はありません……」

「回りくどいな。はっきり言ってくれ」

 チェルシーは痺れを切らし机を指でトントンしている。

「今の一言で確信致しました……皆様は普段買い物の際、花屋にいかれますでしょうか? 仕事、趣味、特別なこと以外中々ないと思われます。そこにロペくんの居場所のヒントがございました。おそらく、ユア様は花屋でこう店員に話されたのでしょう『ティアラはもう販売しているか?』もしくは『ティアラを取り置き、もしくは一週間後取りに行きたい』こう聞かれたのではありませか?」

「はいっ! そうです!」

「なぜそのようなことがわかるのですか?」

 ロサナの煙草の灰が灰皿に落ちる。

「皆様は忘れておられます。ロペくんの迷い子事件で何処にロペくんがいるのかという場所に注目し過ぎでございます」

 チェルシーはハッとして叫ぶ。

「ユアのお父様の命日だ! だからユアはお父様の大好きだったティアラの花を確認したんだ!」

「でもさ~……お供えの花を事前確認しただけじゃん」

 ずずっ……と行儀悪くミルクを啜るアーニャ。

「はい。私もそれだけです」

「それだけですのことがロペくんにとって重要だったのでございます。ロペくんにとってもユア様と同じくお父様が大好きだったのです」

 ガシャっ! 
 今度は両手で机を叩き立ち上がりロサナが喘ぐ……

「……まさか……ロペはユアのお父様のお供えの花を……」

「自分で取りに行ったのでございましょう……」

「でもどうして!」

 チェルシーが続く。

「皆様の知る通りロペくんはかなり賢い犬でございます。お父様の命日を知り、自分も大好きな人へ花を贈りたいと思ったのでしょう。しかし、ロペくんはお金を持っていない。しかし、泥棒をすれば家族が悲しみ罪に問われる。そこでロペくんは気付いたのでしょう……自分にはお金は持っていないが想い出を持っているということに……」

「まさか……!?」

 ユアは口を両手で抑え、目は既に涙が溢れそうな状態である。

「花を……採りにいかれたのでしょう。先ほど待っている間にお話をされた。自分も幼い仔犬の頃、小さなユアと大好きなお父様と一緒に遊びに行った花畑へと……」

「……っ!」

 ユアがその場に泣き崩れる。堪えきれなくなった大量の涙がどんどん流れ落ちていく。向かいに座っていたアーニャはすぐにユアに駆け寄り抱き締める。

「ロペっ………ひっぐ! ……うっ……うわあああん……」

「ロサナっ!」

 チェルシーがだんっ! っと立ち上がりロサナを見る。

「もう先ほどの時点で確認に向かっていますわ!」

 ロサナも偵察に放った自分の鷹を既に向かわせていたようだ。

「いっ……いました! いましたわ! 足をケガして倒れている一匹の犬がティアラの花畑にっ!」

「みなせ! 電話を借りる! 近くの詰め所に電話してすぐに兵を向かわせて救助する!」

 チェルシーがそのまま階段を駆け足で降りていく。すぐに下からチェルシーの興奮した大きな声が聞こえてくる。

「ユアっ! 良かったですわね!」

 ロサナもユアに抱きつく。

「……はっ……はいっ……よっ良かった! 本当に良かった!」

 バタバタと階段をかけ上がる音が聞こえる。扉を無作法にばんっと開け放ったチェルシーが叫ぶ。

「ユアっ! 兵と医療兵を向かわせた! 2時間ほどすればここにたどり着くだろう!」

「チェルっ……シーさん! ありがとうっ! ありがとうございます! 皆さんもほんとっ……ほんとにっ!」

 ガバッ! っとチェルシーもユアに抱きつく。

「うわあああん! 良かった! よかったね~ユアああああああああ! うわあああん!」 

 ユア以外の三人も目から涙を流している。四人抱き合いながらしばらく泣いていて落ち着いてきたときにそっとみなせが話しかける。

「皆様……暖かい紅茶とデザートのご用意がございます。ロペくんがくるまでにお時間がございます。ごゆるりとお楽しみください……」


……

……

「……皆様、食後のドリンクですが何を飲まれますか?」

「緑茶を!」
「緑茶でお願いしますわ」
「りょくちゃ~」
「緑茶でお願いします」

「「「「……!?」」」」

 四人の声が重なり、目を見合わせた。まさか、注文が同じになるとは思っていなかったのだろう。そして自然と笑い声が広がる。

「ふふっ……ここの『緑茶』は有名ですよね」

 笑顔を取り戻したユアが微笑む。

「最初は~緑の飲み物が出てきて何かの化学薬品かと思ったよ~」

 アーニャの冗談に四人の笑い声が響く。

「そうですわね……私も初めてこのお店に来た時、他の人たちが湯気の出る緑色の飲み物を飲んでる姿を見て目を丸くしましたわ」

 ロサナが煙草を灰皿に押し付け吸い終える。緑茶の到着を待つための動作である。

「ははっ! 皆驚いたよな! 私も驚いたよ……」

「チェルシー様は私に執拗に『これは飲めるものだよな!? お腹壊さないよな!?』と言われてましたね」

 コトっ……とそれぞれの前に緑茶を入れた湯呑みを置いていく。

「ちょっと! みなせ!」

 狼狽えるチェルシーに他のメンバーが口を揃えて

「「「ビビってる」」」

「もー! やめてよー!」

 また、賑やかな笑い声が部屋を埋め尽くす。
 一通り笑い声がおさまった所で、こほんっ! ……とチェルシーが咳払いをして周りを見渡して話し出す……

「それで先ほどの話に戻るのだけど……私はどうも友人を作るのが上手くない。でも、こんなに今回笑いあって涙を流し合える人っていないと思うんだ……みんなが良ければだけど、これからも定期的にこの【小烏】で食事会をしないか?」

 チェルシーは王国を代表する騎士で死線を越えたり、大舞台にも立ってきたこともある。しかし、その一国を代表するほどの騎士はこの提案を震える声……まさに本来年相応の女性の告白のように提案した。
 その返事の第一声はロサナからだった。

「私は構いませんわ。むしろ、こちらの方からお願いしますわ。そして願わくばこのお店の外でも信頼できる友として……」

「すっ素敵だと思います! ……でも、王国最高騎士様・王立魔術学校校長先生・化学者様……その中に私も交ざって……」

「おっと! ……そういうさ~しらけさせるのやめてよね。あたしの社会的立場はここの二人よりは低いけどさ~。怒んないでよ? この二人はそんなこと気にしないよ~。珍しいけどさ」

 ユアの言葉を割り込みアーニャが発する。

「そうだよ! ユア! 友達になろうよ!」

「そうですわ。私はユア……あなただからこそ友人になりたいと思いましたわ」

「むしろ~あたしのほうが周りから変人って言われてるし~」

 また、笑い声が響く。落ち着いた所でまたチェルシーがまとめる。

「そうしたら月に1~2回定期的に食事会を開こう! この場所でさ!」

「食事会の題名(タイトル)はどうなさるの?」

「あたしゃ~こういうのセンスないからね……それこそみなせにお願いしたほうがよくな~い?」

「私も! それがいいと思います!」

「ああっ! そうしよう!」

「センスのあるをお願いしますわ!」

 みなせに注文が集まる……
 みなせは片手で顎を触りながら考える素振りを向ける。そして話だす。

「それであれば今後この会食を【ティアラ会】と呼ぶのはいかがでしょうか? 今回の皆様の仲を取り持つきっかけとなったティアラを会食の題名とし、ティアラの花言葉は【信頼】と【友人】です。いかがでしょうか?」

「いいじゃ~ん」

「素敵だと思います!」

「私もいいと思いますわ。少しキザ臭いですがね」

「ようし! この五人をティアラ会の正式メンバーとする!」

「五人でしょうか? 四人だと思いますが……」

 みなせが首を傾げる……すかさず四人が息を合わせて

「みなせもだよ!」
「みなせもですわ!」
「みなせもいるよ~!」
「みなせさんもです!」

 みなせは微笑みながら

「やはり私の予想通り、皆様気が合うと思いました」

 笑い声の中にこんこんっ……と扉を叩く音が聞こえる。
 扉を開くとイズミが立っていた。

「お食事会の最中失礼致します……騎士の皆様が到着致しました」

「「「ユアっ!」」」

 ユア以外の三人も自分のことのように部屋を扉出そうとする。

「待ってください! ……これを受け取ってください」

 ユアはチェルシー・ロサナ・アーニャ・みなせの四人にティアラの花を渡していく。

「いいのかい? これはお父様の……」

「はい。いいんです。花はロペと一緒に摘みにいこうと思います。これは私から私の【信頼する友人】へ送らせてください……」

 三人にとも嬉しさの余り目に涙を貯めて……

「ユア~! 早くいこうよ~!」

「はいっ!」

 四人はイズミに連れられて階段を降りていく。しばらくすると元気で嬉しそうな犬の声も聞こえて来た……

 

 これから始まる物語はこの部屋ただ一つで解決するお話である。



……



……



……






 みなせはもらったティアラの花を見ながら窓の近くへと寄った。

「ロペくん……君はお父様を大好きだったんだね。本当に賢い……人間で賢い、徳のある人を賢者(ワイズマン)という。ロペくんはまさしく賢犬(ワイズドッグ)と呼べるだろう……」

 みなせは空いてるグラスにワインを注ぎ、一階から聞こえる明るい声を聞きながらワインを一口含む……

「しかし……ユア様もロペくんもこのティアラを人に送るときの花言葉を知っていたのかな……?」

 窓を開け、酒が入り少し赤くなった頬に涼しい風があたる。その気持ちのいい心地の中、みなせは手に持ったティアラの花を綺麗な月夜にかざして呟く……


「【あなたに出逢えてよかった……】」


 

 迷子の賢犬(ワイズドッグ) 完



つづく
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