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第一章 偽りの聖女と冷徹の騎士
シグルス⑤ 褒美と援助と罰
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「――幽閉、ですか? なぜ敢えてそんなことを……」
あまりに想定外で、尋ね返してしまった。
しかし、王都の監視下から離れるならば、むしろ都合がいい。
「国への裏切りを看過できない。しかし、その価値をみすみす捨てるわけにもいかない。北の砦ならば、最も回復を必要としながらも、聖女の手が及ばない場所。王は、それが贖罪にふさわしいと判断されたのだよ」
裏切り、だと? どの口で。
血の滲みそうな拳を隠して、冷淡な瞳で宰相を見た。
この程度の偽装、エルディアを前にするよりよほど、楽。
「……そうですか。聖女宮も落ち着くでしょう。では」
「――話は終わっていないよ。君には、まだ仕事がある」
早くなる鼓動を隠して、眉間に皺を刻む。
「俺の仕事は終わりです」
「そうではないだろう? 君まで罪に問うようなことはしないが、責任は最後まで取るべきだ。あれは罪人とはいえ、非常に価値がある。それを他へ知られず、きちんと砦へ届けること。それが君の最後の責任だと思わないかな」
「……分かりました。しかし、それ以上は、関わりません」
宰相は満足そうに微笑んで頷いた。
緊張を押し隠し、代わりに不機嫌を前面へ出して、踵を返す。
――これは、最後のチャンスだ。
都を離れれば、いくらでも逃がすことができる。
そう、思ったのに。
エルディアは想像以上に弱かった。
もう少し、体調が戻ってから……そう思うものの、馬車に乗っているだけで、弱っていく。
単独では半日ともたず、魔物に食われて死ぬだろう。むしろ、魔物に食われなくても野垂れ死にする。
せめて、国境へ可能な限り近づかなくてはいけない。
その判断が間違っていたのだろうか。
旅の開始早々、逃がしていればよかったのか。俺がついていながら……。
ぎりぎりの理性で剣を抜かなかったものの、罪人3人の酷い有様に、他の騎士が慄いていた。
そんなところで回復薬を使う羽目になったのも、俺の落ち度だろう。
そして戻ったその場に、エルディアがまだ居ることに、安堵と落胆が両方。
全てを偽られ、知識もなく、力もなく、魔力もなく、何の伝手もなく。
何も持っていないエルディア。
エルディアの縋っていた希望すらも偽り、奪った国のやり方に、たとえようもなく怒りが湧いた。
もう、騎士として仕えることはできない。
罪人護送の失敗、それは俺にとって、大した罪ではない。
たとえ国を出ても、身ひとつでいくらでも生き抜ける。
ただ――
俺は、追わずにいられるだろうか。
この足が、手が、自由ならば。
◇
だから……都合が良かった。
これはきっと、エルディア……エルディオの献身に対する褒美だ。
そして、俺に対する援助で――罰だ。
剣を構え、浮かんだ壮絶な笑みに、周囲が怯んだのが分かる。
片時も止まらぬよう駆けて、駆けて、駆けて。
防御などいらない。最後の1人を倒すまで身体がもてば、それでいい。
防御を捨て、ただただ殲滅のために全身を投じた。
次の敵は――そう見回した時、初めて誰もいないことに気が付いた。
全身から、力が抜ける。
よくもった。俺の身体。
つい、渾身の笑みがこぼれた。
ああ、逃がしてやれるぞ、エルディオ。
国から――最も厄介な男から。
嘘は、無駄ではなかった。
俺を嫌いで嬉しい。心置きなく、置いて行けるだろう。
性根の優しいお前の負担にならないこと、心から嬉しく思う。
伝えるべきことが伝わったのか、分かりはしないが……お前ならやれる。
あまりに想定外で、尋ね返してしまった。
しかし、王都の監視下から離れるならば、むしろ都合がいい。
「国への裏切りを看過できない。しかし、その価値をみすみす捨てるわけにもいかない。北の砦ならば、最も回復を必要としながらも、聖女の手が及ばない場所。王は、それが贖罪にふさわしいと判断されたのだよ」
裏切り、だと? どの口で。
血の滲みそうな拳を隠して、冷淡な瞳で宰相を見た。
この程度の偽装、エルディアを前にするよりよほど、楽。
「……そうですか。聖女宮も落ち着くでしょう。では」
「――話は終わっていないよ。君には、まだ仕事がある」
早くなる鼓動を隠して、眉間に皺を刻む。
「俺の仕事は終わりです」
「そうではないだろう? 君まで罪に問うようなことはしないが、責任は最後まで取るべきだ。あれは罪人とはいえ、非常に価値がある。それを他へ知られず、きちんと砦へ届けること。それが君の最後の責任だと思わないかな」
「……分かりました。しかし、それ以上は、関わりません」
宰相は満足そうに微笑んで頷いた。
緊張を押し隠し、代わりに不機嫌を前面へ出して、踵を返す。
――これは、最後のチャンスだ。
都を離れれば、いくらでも逃がすことができる。
そう、思ったのに。
エルディアは想像以上に弱かった。
もう少し、体調が戻ってから……そう思うものの、馬車に乗っているだけで、弱っていく。
単独では半日ともたず、魔物に食われて死ぬだろう。むしろ、魔物に食われなくても野垂れ死にする。
せめて、国境へ可能な限り近づかなくてはいけない。
その判断が間違っていたのだろうか。
旅の開始早々、逃がしていればよかったのか。俺がついていながら……。
ぎりぎりの理性で剣を抜かなかったものの、罪人3人の酷い有様に、他の騎士が慄いていた。
そんなところで回復薬を使う羽目になったのも、俺の落ち度だろう。
そして戻ったその場に、エルディアがまだ居ることに、安堵と落胆が両方。
全てを偽られ、知識もなく、力もなく、魔力もなく、何の伝手もなく。
何も持っていないエルディア。
エルディアの縋っていた希望すらも偽り、奪った国のやり方に、たとえようもなく怒りが湧いた。
もう、騎士として仕えることはできない。
罪人護送の失敗、それは俺にとって、大した罪ではない。
たとえ国を出ても、身ひとつでいくらでも生き抜ける。
ただ――
俺は、追わずにいられるだろうか。
この足が、手が、自由ならば。
◇
だから……都合が良かった。
これはきっと、エルディア……エルディオの献身に対する褒美だ。
そして、俺に対する援助で――罰だ。
剣を構え、浮かんだ壮絶な笑みに、周囲が怯んだのが分かる。
片時も止まらぬよう駆けて、駆けて、駆けて。
防御などいらない。最後の1人を倒すまで身体がもてば、それでいい。
防御を捨て、ただただ殲滅のために全身を投じた。
次の敵は――そう見回した時、初めて誰もいないことに気が付いた。
全身から、力が抜ける。
よくもった。俺の身体。
つい、渾身の笑みがこぼれた。
ああ、逃がしてやれるぞ、エルディオ。
国から――最も厄介な男から。
嘘は、無駄ではなかった。
俺を嫌いで嬉しい。心置きなく、置いて行けるだろう。
性根の優しいお前の負担にならないこと、心から嬉しく思う。
伝えるべきことが伝わったのか、分かりはしないが……お前ならやれる。
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