【完結】異教(男)の聖女は監禁・強制労働エンドを迎えるはずでした。が、冷徹騎士がオレの手を掴んでいます

藍 雨音(アイ アオト)

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第二章 嘘をやめた騎士と、聖女をやめたオレ

22 お前が言うな

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「何が違う」
「オレは別に、上裸なんてどうってことないの!」
「じゃあ何が恥ずかしい」
「は、恥ずかしいって言ってないだろ!」

シグルスが、駄々をこねる幼児を見る目だ。
なんかもう泣きたい。

「なら、なぜそんな顔をする」
「……いや、だって、これ……おかしいだろ?! 近い!」
「いつも通りだが」

確かに、なんて思いかけて、いやいやと首を振る。
これがいつも通りなのもおかしいんだよ!!

「いいから、ちょっと離れろ……」

拳を握って身体を縮こめたまま、肘でぐいぐい押してみる。頼むから、少しでも隙間を空けてくれ……。
じっとオレを見ていたシグルスが、ふむ、と言いたげな顔で腕を緩めた。珍しく言うことを聞いた騎士に拍子抜けながら、安堵してシグルスから体を浮かせる。

そうだ、シグルスの方を向いているから余計困ったことになるんだ。背中を向ければよかった。
そう気づいて方向転換しようとした時、シグルスがそっとオレの右手を取った。
多分、さっき腕を握りつぶしかけて気にしているんだろう、随分やわやわとした力で引かれる。

「……なんだよ」
「手、広げてみろ」
「? なんで?」

広げてみせた手を碌に見るでもなく、その手をひょいとシグルスの脇腹あたりに押し当て……え、何やってんだよ?! そして手を引く間もなく、強く頭を抱き寄せられた。
べち、と音が鳴るほど思い切り押し付けられた頬が、温かな胸板に潰れている。

あまりの衝撃に声が出ない。
シグルスがどんな顔をしているのかも、見えない。
オレの内側から響く激しい鼓動で、耳が潰れそうだ。

シグルスの大きな手が重ねられ、オレの手の平がゆっくりと、その肌を撫で上げていく。ち、違う、オレじゃない! これは、シグルスが!

押し当てられた手の平に、しっかり伝わってしまう凹凸と、滑らかな肌の質感。
身体中の血液を沸騰させそうになりながら、徐々に上へ滑って来た手が、オレの視界に入った。
小さな手を覆いこんで押さえる、大きな手。
ぼうっとしはじめた思考の中で、小さな手が、食われてしまいそうだと思う。

大きな手がするりと動いて、ゆっくりと、指の間に割り入った。
びくっと跳ねた身体に、これが自分の手であったことを思い出す。
オレの手が、シグルスの手に完全に食われていくのを見ていられなくて、ぎゅっと目を閉じた。

どうしよう。これは、とても、マズイ。
馬鹿じゃないのか、お前。
オレ、男だぞ。何考えるか、分かんないのか。

くくっと笑った声が、頭に直接響いた。
頭を抱き込んだ手が外れ、腰に回る。その機会を逃さず、勢いよく離せるだけ体を引き離して左手を突っ張った。もちろん、最大限触れないよう拳で。
だけど、オレの右手はしっかり食われたまま。

「……そうか、『こっち』か。俺の身体が?」
「うるさいな! 普段カッチリ着込んでたから……ビックリするだろ! ……手、離せよ」

むくれて視線を逸らしたのに、意思に反して右手がすすっとシグルスの肌を滑り始め、慌てふためいて顔を上げた。
シグルスの目が、奥の方でゆらゆら燃えているように見える。

「ば、馬鹿っ、馬鹿、何やってんだよ!」
「見ていいし、触っていい。俺は構わん」

堂々と言われて、呆気にとられた。
自信があるって、こういうことか。
いいの? と思ってしまうオレを、奥の方へ押しやって厳重に閉じ込め、キッと睨み上げる。

「お、お前は……! もう少し、自分を大事にした方がいいぞ?! 不用意なこと言うな!」

曲がりなりにも、男の前で言うことじゃないだろ! 精一杯の虚勢でそう言ってやると、一瞬呆けたシグルスが――思い切り吹き出してむせた。

「お、お前が、言うな……っ!!」

……いまだかつてないほど爆笑して苦しむシグルスを、オレは呆気に取られて見上げていたのだった。
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