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第二章 嘘をやめた騎士と、聖女をやめたオレ
23 自覚
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……なに、その爆笑。
なんで?
いくら思い返してみても、オレ、なんらおかしなこと言ってないんですけど。
震えながら何とか笑いの発作を収めたシグルスの目は、もう元の通り穏やかに煙る青を湛えている。
何となく安堵しつつ、右手を取り返して睨みつけた。
「……なんで笑うんだよ。本当だからな? お前、俺が男だって分かってる?」
「ほう? お前が男だと分かっていなかったら、何がどうダメなんだ」
重低音で耳に吹き込まれ、身体が震えた。
うっ……劣勢を感じる。
「だから……だから、ええと、無闇にオレを煽るような真似をしたら……」
「したら?」
……どうしよう。そうだった、オレがこいつをどうにかできるはずなかった。
「いや、オレだけじゃなくて! 世の中にはお前より力強いヤツなんて、多分いっぱいいるだろし! こう……卑怯な手だってあるかもだし!」
「お前以外にするわけないだろう、馬鹿か」
他人に頼ろうとしたら、馬鹿扱いされてしまった。
オレだけ……。そう、だろうな。そういうことだ。
そうっと外した視線は、サッと顎をすくわれて合わせられてしまう。
腹が立つ、その満足そうな顔。
「それで?」
「オレだって…………お前が寝てる時、とかなら?」
正面だけは見ないように視線を彷徨わせていたのに、反応が気になってちらっと見たのがいけなかった。
「そうか。楽しみにしている」
「そっ! そういう話じゃ、なかっただろ?! だから、そういうとこだぞ!」
クスクス笑う楽し気な顔が、あたたかくて。
ああ。もう、どうしよう。
悔しくて、胸苦しくて、熱くて。
誤魔化すように、シグルスの胸元に手を置いた。
ちら、と見上げたその顔は、相変わらず楽しそうに目を細めてオレを見つめている。
お前が、いいって言ったんだからな。
耳まで熱いのを自覚しながら、そろそろ手を滑らせた。
鎖骨を辿って、盛り上がった肩へ。
「すげえ……肩って、こんなデカくなるのか」
「お前が小さすぎる」
シグルスがオレの肩をその手で覆って苦笑した。
いいんだよ、日本男児はこんなもんだよ!
肩から、首へ。
あれ? 首と肩の境目って、もっとはっきりしてない? こんななだらかだっけ? だってほら、オレの肌をなぞるシグルスの手は、横移動から縦移動になったのに。
「お前の肩と首って、繋がってない?」
「生きてるからな」
「そういう意味じゃない!」
首を撫で上げた手が、シグルスの耳下まで到達して止まった。
追うようにゆっくりオレの肌を滑った手も――
「あっ?! んっ?!」
同じように止まるだろう、と完全に油断していた。
大きくて硬い手はそのままオレの耳を撫で上げ、やわやわとそれをかたどるように弄ぶ。
ぞくぞく走る感覚に首を竦めて逃げようとした時、その手がするりと後頭部に回った。
「……っ」
ぐ、と引き寄せられて思わず目を閉じた。
そして、額に感じた柔らかな感触。
……え?
つい目を開けたら、眼前で閃く青の瞳に捕らえられた。
冴え冴えとした美貌がふわ、と微笑んで。
……ゆっくり、ゆっくり、顔を寄せて、唇を触れさせた。
触れるか触れないか、じゃない。オレの上唇に、触れている。
……だけど、止まった。
唇に、シグルスの呼吸を感じる。
青の瞳が、深々覗き込んでいる。
なんで。もっと――
ぼやけた脳内に浮かんだ言葉を、自覚するより先に、シグルスが応えた。
ゆったりと、じっくりと、重ねられたそれ。
温かくて、柔らかくて、震えるほどに全身が痺れるそれ。
シグルスの首に置いていた手は、いつの間にかその後頭部に回っていた。
唇を重ねるだけのキス。
十分に、十分に重なった時間で、唇の温度まで同じになった気がする。
これ、キスだ。
もう疑いようもなく、言い訳のしようもなく、これ――キスだ。
触れるだけじゃ回復なんてしないのに。
こんなに、ゆっくりと。
力の抜けたオレの手が、シグルスの首を滑り落ちていった。
惜しむように、そっと離れて行ったシグルスが、自分の唇を舐めた。
煽情的な仕草に釣られるように、オレも唇を舐めた。
「っ?!」
途端、青い瞳が、ぎらりと燃えた気がして。
噛みつくように、荒っぽく口づけられた。
さっきまでのふわふわ柔らかく漂うような感覚が吹っ飛んで、激流に呑まれていく。上も下も分からない、もう、ただ空気を求めて喘ぐだけ。
貪られるような本能的な恐怖に駆られ、力の入らない手で必死に押しのけようとして。
――はっとしたシグルスが、引きはがすようにオレから離れた。
堪えるように眉間にしわを寄せ、荒い呼吸を繰り返す様を見て、オレは……。
「……お前は、煽るのが上手い」
苦々しい顔を片手で覆って、空を仰いだ。晒された喉ぼとけに、こくりとオレの喉が鳴る。
煽ってるのは、オレじゃないだろう。
もしかしてオレの瞳も、奥で燃えているのだろうか。
離れたシグルスに、手を伸ばしたくなるオレは。
なんで?
いくら思い返してみても、オレ、なんらおかしなこと言ってないんですけど。
震えながら何とか笑いの発作を収めたシグルスの目は、もう元の通り穏やかに煙る青を湛えている。
何となく安堵しつつ、右手を取り返して睨みつけた。
「……なんで笑うんだよ。本当だからな? お前、俺が男だって分かってる?」
「ほう? お前が男だと分かっていなかったら、何がどうダメなんだ」
重低音で耳に吹き込まれ、身体が震えた。
うっ……劣勢を感じる。
「だから……だから、ええと、無闇にオレを煽るような真似をしたら……」
「したら?」
……どうしよう。そうだった、オレがこいつをどうにかできるはずなかった。
「いや、オレだけじゃなくて! 世の中にはお前より力強いヤツなんて、多分いっぱいいるだろし! こう……卑怯な手だってあるかもだし!」
「お前以外にするわけないだろう、馬鹿か」
他人に頼ろうとしたら、馬鹿扱いされてしまった。
オレだけ……。そう、だろうな。そういうことだ。
そうっと外した視線は、サッと顎をすくわれて合わせられてしまう。
腹が立つ、その満足そうな顔。
「それで?」
「オレだって…………お前が寝てる時、とかなら?」
正面だけは見ないように視線を彷徨わせていたのに、反応が気になってちらっと見たのがいけなかった。
「そうか。楽しみにしている」
「そっ! そういう話じゃ、なかっただろ?! だから、そういうとこだぞ!」
クスクス笑う楽し気な顔が、あたたかくて。
ああ。もう、どうしよう。
悔しくて、胸苦しくて、熱くて。
誤魔化すように、シグルスの胸元に手を置いた。
ちら、と見上げたその顔は、相変わらず楽しそうに目を細めてオレを見つめている。
お前が、いいって言ったんだからな。
耳まで熱いのを自覚しながら、そろそろ手を滑らせた。
鎖骨を辿って、盛り上がった肩へ。
「すげえ……肩って、こんなデカくなるのか」
「お前が小さすぎる」
シグルスがオレの肩をその手で覆って苦笑した。
いいんだよ、日本男児はこんなもんだよ!
肩から、首へ。
あれ? 首と肩の境目って、もっとはっきりしてない? こんななだらかだっけ? だってほら、オレの肌をなぞるシグルスの手は、横移動から縦移動になったのに。
「お前の肩と首って、繋がってない?」
「生きてるからな」
「そういう意味じゃない!」
首を撫で上げた手が、シグルスの耳下まで到達して止まった。
追うようにゆっくりオレの肌を滑った手も――
「あっ?! んっ?!」
同じように止まるだろう、と完全に油断していた。
大きくて硬い手はそのままオレの耳を撫で上げ、やわやわとそれをかたどるように弄ぶ。
ぞくぞく走る感覚に首を竦めて逃げようとした時、その手がするりと後頭部に回った。
「……っ」
ぐ、と引き寄せられて思わず目を閉じた。
そして、額に感じた柔らかな感触。
……え?
つい目を開けたら、眼前で閃く青の瞳に捕らえられた。
冴え冴えとした美貌がふわ、と微笑んで。
……ゆっくり、ゆっくり、顔を寄せて、唇を触れさせた。
触れるか触れないか、じゃない。オレの上唇に、触れている。
……だけど、止まった。
唇に、シグルスの呼吸を感じる。
青の瞳が、深々覗き込んでいる。
なんで。もっと――
ぼやけた脳内に浮かんだ言葉を、自覚するより先に、シグルスが応えた。
ゆったりと、じっくりと、重ねられたそれ。
温かくて、柔らかくて、震えるほどに全身が痺れるそれ。
シグルスの首に置いていた手は、いつの間にかその後頭部に回っていた。
唇を重ねるだけのキス。
十分に、十分に重なった時間で、唇の温度まで同じになった気がする。
これ、キスだ。
もう疑いようもなく、言い訳のしようもなく、これ――キスだ。
触れるだけじゃ回復なんてしないのに。
こんなに、ゆっくりと。
力の抜けたオレの手が、シグルスの首を滑り落ちていった。
惜しむように、そっと離れて行ったシグルスが、自分の唇を舐めた。
煽情的な仕草に釣られるように、オレも唇を舐めた。
「っ?!」
途端、青い瞳が、ぎらりと燃えた気がして。
噛みつくように、荒っぽく口づけられた。
さっきまでのふわふわ柔らかく漂うような感覚が吹っ飛んで、激流に呑まれていく。上も下も分からない、もう、ただ空気を求めて喘ぐだけ。
貪られるような本能的な恐怖に駆られ、力の入らない手で必死に押しのけようとして。
――はっとしたシグルスが、引きはがすようにオレから離れた。
堪えるように眉間にしわを寄せ、荒い呼吸を繰り返す様を見て、オレは……。
「……お前は、煽るのが上手い」
苦々しい顔を片手で覆って、空を仰いだ。晒された喉ぼとけに、こくりとオレの喉が鳴る。
煽ってるのは、オレじゃないだろう。
もしかしてオレの瞳も、奥で燃えているのだろうか。
離れたシグルスに、手を伸ばしたくなるオレは。
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