ゼロのダンジョン、進化中!

真弓りの

文字の大きさ
2 / 26
ヘタレマスターに召喚されたんだが

腹を括ってくれ

しおりを挟む
「どうした、真っ青だぞ?」

「なんだよ、それ! なんで名前付けただけで復活出来なくなるわけ? それならノーネームの方がいいんじゃないの? 僕、死なれるのは嫌だよ……!」


アホか。俺は呆れた。


「いやいや、よく考えろ。今、召喚してるの俺だけだよな」

「そうだけど」

「俺が倒されたら、復活する前に多分マスターが殺されてジ・エンドだ」


俺の言葉に、マスターがウッと口ごもる。どう考えても俺を倒すような相手に、このひょろっこいマスターが勝てるわけはねえもんな。言い返せるわけがない。


「マスターが死ねば名前持ちだろうがノーネームだろうが復活出来ねぇし、このダンジョン自体が崩壊する筈だ」


重ねて言うと、マスターは目に見えてしょんぼりしていく。


「ちなみに、ダンジョン自体を造らないとか、解放しないでこっそり暮らすとかはできるのか?」

「真っ先にコアに聞いてみたけど、無理だった。造らないことはできるらしいけど、一カ月経ったら強制的に解放されるんだって」

「うわあ」


そりゃあ最悪だ。なんの準備もなくダンジョン解放されるとか、自殺でしかない。


「じゃあやっぱ、俺がどんどん強くなってお前を守るしか、生き残る道はねぇだろ。ダンジョンが解放されれば、嫌でも冒険者だの魔物だの、野生動物だのゴロゴロ入ってくるぞ」


うつむいたままのマスターの喉から、ゴクリとつばを呑む音がする。どうやら事の重大さだけは理解してもらえたらしい。


「頼むから腹くくってくれよ、こうなった以上、俺とマスターは一蓮托生だ。俺が少しでも強くなれば、その分生き残れる確率が高くなると思えばいいだろ」


言いたい事は言ったが……くそ、またマスターのテンションが地に落ちてしまった。


「ゴメン。僕が死ねば君まで死ぬなんて、考えてもみなかった」

「いや、俺も言い過ぎた。悪りぃ」


本当はマスターだけ死んだ場合のことなんて知る由もないが、こう言っといた方がコイツのためにはいいだろう。


「そうだよね。君には白龍になるって夢があるのに、僕の巻き添えで死ぬなんて、絶対にダメだ。僕、頑張るよ。体も鍛える!」


取りあえず決意を固めているようだが、なんか方向性がズレてるな。ぶっちゃけこのヒョロさ加減で体を鍛えたところでたかが知れてるとは思うが。まぁ、やる気を出してくれただけでも有難い。


「名前、付けてくれよ。そんで一緒に頑張ろうぜ」

「うん。じゃあ君は……ハク、でどう?」


俺は、いいんじゃねぇの? と笑う。

正直なところ名前なんて付けてくれりゃ何でもいい。素直に頷いた俺にマスターも満足そうだし、問題ないだろう。


「僕の事はゼロって呼んでよ。記憶もろくにないし、ゼロからのスタートだからさ」


改めてよろしく、と笑顔で右手を差し出してくるゼロ。

召喚モンスターなんて、使い捨てでも文句は言えない。普通はその中で死に物狂いで生き残り、レベルを上げていくもんだ。

そう考えると、こうして対等に扱ってくれるのは、かなり有難い事だと思う。ヘタレだが、俺は結構いいマスターに当たったんじゃないか?


「ハクって良いヤツだな。意外と優しいし。僕、ハクを仲間に出来て良かったよ」


どうやらゼロも俺を気に入ってくれたらしい。とりあえずは一安心だ。

ヘタレだ、ヘタレだと思っていたが、こうしてみると別にごく普通のヤツに見える。

まあでも、そうだよな。記憶もなく、こんな気味の悪い白い部屋にいきなり独りで閉じ込められりゃ、見るもの全てが恐怖の対象だろう。ダンジョンだの何のって予備知識がなきゃ余計にそうだ。案外あれが普通の反応なのかも知れない。

俺は深く同情した。

とはいえ、俺も今はレベルが1に戻ってしまっている。レア度こそ高いが強さはさほどでもない。なんとかゼロを死なせないっつーのが最優先だろう。

あとは、このメンタル弱そうなマスターが快適に過ごせるように、出来る事を精一杯やればいい。

よし!

まずは、この殺風景な部屋をなんとかしねぇとな。なんせこの部屋、真っ白な箱の中に簡易的なベッドとイスがひとつずつ置かれているだけだ。とても人が心地よく住めるような状態じゃない。俺は早速ゼロに提案してみた。


「え、部屋? 改造できるみたいだよ。確かそんな項目があったはず」


そう言いながら、ゼロはダンジョンを作るときに使うんだというカタログに手をかけた。


「そっか、そうだよね。毎日生活するんだから、部屋くらい快適にしたいよね」


俺の提案に、ゼロも嬉しそうに同意する。


「僕、ベッドだけはいいのにしたいなぁ。起きた時そのベッドに寝てて、なんか凄い体痛いんだよ。ハクはなんかこだわりある?」

「俺は別に生活出来りゃそれでいい。ベッドもあれで充分だ」


ゼロは楽しそうに、カタログの生活の項を見始めた。緊張感のカケラもない、楽しそうな様子で夢中で見ている。元気になったようでなによりだ。

やがて、あるページで手が止まる。


「あっ! ハクさあ、こだわりないんだったら、これとかどう?」


ゼロの楽しげな声にカタログを覗き込んでみれば、オススメのものなのか、ひと際目立つ枠付きでこう書いてあった。

【初心者用住居:フローリング6畳1間:キッチン、バス、トイレ付き10P】

最初に貰ってるのが確か1000ポイントって言ってたっけか。6畳1間はイマイチよく分からないが、10ポイントでキッチン、バス、トイレが揃うなら、一応生活できるし割がいい気がする。

いいんじゃねぇの? と答えると、ゼロは緊張した面持ちでダンジョンコアに向かい合った。なんでもカタログから何か頼むのはゼロだって初めてのことらしい。


「初心者用住居を購入!」


ダンジョンコアに向かってゼロが高らかに宣言すると、コアからも応じるように機械的な音声が響いてきた。


『初心者用住居を10Pで設置しますか?』

「承認!」


ゼロが承認したとたん、壁に突如ドアが現れる。ただただ真っ白な空間の中に、優しい木目の扉があるだけで、なんとなくホッとするのが不思議だ。

恐る恐るドアノブに手を掛ければ、ガチャリと軽い音がしてなんなく扉が開いていく。


「うわ~、本当に簡単にオーダーだけで出来ちゃうんだね」


どうなってるんだろ、とポカンとしたまま呟くゼロにまったく同意だ。俺もダンジョンがこんな簡単に増築できるなんて知らなかった。


「ハクの部屋だし、せっかくだから見てみれば?」

「え、俺の部屋? まさか個室?」

「もちろん。僕はマスタールームで寝るし。プライバシーは大事だよね」


ダンジョンモンスターにわざわざ個室くれるとか、どんだけ優しいマスターだよ。思いがけない幸運に、密かに感動してしまった。いや、マジでラッキーなんだけど。


「あ、でも悪いけどポイントが貯まってダンジョンが安定するまではトイレとお風呂は共用にしよう」


ポイント消費しすぎるのも怖いしね、なんてゼロは申し訳なさそうな顔をしているが、そんなの当たり前だろう。

ゼロに促されて、部屋に入る。中を見て、俺はちょっと引いた。

一瞬で造られたとは思えない、ちゃんとした『部屋』だ。ただただ真っ白だったマスタールームに比べると遥かに生活感がある。

木の床に淡いベージュの壁、家具が置いてないからだだっ広いが、小ぶりなキッチンには鍋とまな板、ナイフが用意されていて、なるほどこれなら本当に普通に生活できそうだ。


「おお、ちゃんと水も出る! 普通に蛇口だ!」


水を手にすくって飲んでみたりとゼロも嬉しそうで、俺はちょっと安心した。

部屋の奥にある扉を開ければトイレと風呂。シャワーだけでなく風呂桶もあるタイプでなかなか使い勝手がよさそうだ。これだけ揃ってたったの10Pなら本当にお買い得だろう。とはいえ無駄使いなんて現段階じゃもちろん怖くてできないけどな。

思ったよりもずっと快適に暮らせそうで俺は既に満足していたわけだが、ゼロは「この部屋、家具がなんにもないな」と呟くとさっさと部屋を出て行ってしまった。

そして、わずかな間のあと、隣の部屋から「承認!」の声が聞こえてきたかと思うと、ドン! ガタン!と音を立てていきなり部屋にベッドとイスが現れる。


「な……な、なんだコレ」


内心ドキバクしていたら、マスタールームへ続く扉からゼロがひょこっと顔を出す。


「どう? さっきベッドもそれでいいって言ってたから、ハクの部屋に移設してみたんだけど」


いやいやいや! 一言いってくれよ! めっちゃビビったじゃねえか!


「あ、ちゃんと移設されたみたいだね。模様替えは自由にやってくれていいからね」


模様替えって……言うほど家具もねえんだが。なんて返事をする間もなく、ゼロの顔はあっという間にマスタールームに消えていく。そして隣の部屋からテンションの高い「承認!」の声が聞こえてきた。

ズウウウン……と、地響きのような音が響いた瞬間、俺はマスタールームにダッシュで移動する。


「ゼロ!? 何を召喚したんだ……って、うわっ! なんだコレ」


部屋一面のベッド。

ゼロは幸せそうにベッドの上をゴロゴロと転がっている。俺は激しく脱力した。


「ハク見てくれよ、夢のキングサイズベッド~! 僕寝相悪くてよく落ちるからさ、ずっと欲しかったんだよ。超ふかふか! 超最高!」

「はあ!? 何無駄遣いしてんだよ! お前はアホかっ」


思わず心の声が全面に出てしまった。しかしゼロは気にした様子もない。


「たった2Pだから大丈夫! ちょっと座ってみなって。魅惑のふかふか感だから!」


確かにふかふかだが!

ここマスタールームだぞ? この部屋ベッドしかないじゃねえか! ベッドでゴロ寝しながら作戦会議とか、あんまりだろう。

俺が先行きに不安を感じてグッタリしている間に、ゼロは一瞬で寝てしまっていた。

寝息すら聞こえない程ぐっすりと眠ってしまっている。今日はきっと、不安の連続だったんだろうと思うと、さすがに起こせない。

キングサイズベッドと一緒に出現したんだろうふんわりした布団を掛けてやってから、俺はそっとマスタールームをでる。

まぁ、今日はしょうがない。明日からが本番だよな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...