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第一章 A・B・C・D
C子の決心。
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「A雄さん、ごめんなさい。私、あのとき、A雄さん以外にも付き合っている人がいました。」
C子は喫茶店のテーブルに両手をついて頭を下げた。
「そうだろうね、急に中絶費用を振り込めとか言って、その後音信不通になったもん。」
A雄は冷静だった。
「それで問題があって、当時私も妊娠していたけど、彼も妊娠したんです。」
「ほう。」
「彼……名前をD夫と言うんですが、D夫に私の妊娠を浮気じゃないかってえらく咎められまして。つまり、彼に強く責められたせいで、D夫が私の子を妊娠して、私がA雄さんの子どもを妊娠したものだとすっかり思い込んでいたんです。しかし、A雄さんが私の子を妊娠していたとなると。」
B子が口を挟んだ。
「A雄があなたの子を妊娠して、あなたはD夫さんの子を妊娠して、D夫さんは誰か別の女性の子を妊娠した可能性があるわね。」
「そうなんです!」
C子はほとんど叫んでいた。そのため、周囲の客が何事かと振り向いたが、A雄は気にせず話した。
「でもさ、ごくまれに『腹違いの双子』って事案もあるんだって。二卵生双生児の場合、精子と卵子が元々二組結合するから、それぞれ父親と母親の体内に別れて育つケースもあるらしいよ。だから、絶対にD夫さんの妊娠した子どもがC子の子ではないとは言いきれない。」
B子は「へー。」と言って感心しているようだった。
「それに、複数回避妊しないでセックスすると、精子と卵子が、ある回では女性の体内で結合して、ある回では男性の体内で結合することもありうるからね。その可能性のほうが高いかな。」
B子はそう話すA雄の隣でうんうんと頷いている。
「私、D夫の産んだ子が私の子だと今日まで信じてきたんで、D夫と結婚したんですよね。」
B子は吐き捨てるように言った。
「そんなこと、私たちと関係ないじゃない!」
A雄は、「まあまあ。」とB子を宥めてから言った。
「そんなに疑うなら、その生まれた子どもとC子の細胞でDNA鑑定してみたらいいんじゃない? 僕たちみたいにさ。」
「確かにそうですね。今となっては私がおろした子どもも、D夫の子どもなのか、A雄さんの子どもなのか、調べようがないですけど、F実なら調べられますもんね。しかし、F実はD夫がずっとみてて、一緒に病院に行けそうにないんです。」
A雄は「うーん。」と言って考え込んだ。B子はA雄を肘でつついている。何でこんな女のために親身になってやってるのよ、と言いたいようだ。
「あれじゃない、病院に行かなくても検査キットが売ってるんだから、それで検査してもらえばいいわよ。D夫さんが、そのF実ちゃんから目を離すことだってあるでしょう?」
B子がA雄に代わって言うと、C子は「なるほど。」と頷いた。
「あなたも元々は自分が撒いた種なんだから、自分で刈り取らなきゃダメ! 」
そんなB子の言葉に、C子は深々と頭を下げた。
「ごもっともです。こんな私に色々教えてくれて、ありがとうございました。」
C子は自分の頼んだコーヒーの代金を支払おうとしたが、B子に拒否された。
「あなたからは一円ももらいたくないの。その代わり、私たち家族には一切関わらないで。私はこの家庭を守りたいの。分かって!」
「分かりました。もう二度とA雄さんには連絡しません。ありがとうございました。」
C子は席を立つと、深くお辞儀をして店を出た。
その後一週間ほどかけて、こっそりC子はDNA鑑定の作戦を練った。DNA鑑定キットはネットで調べればすぐにたくさん見つかったが、問題はキットと鑑定結果の送付場所である。自宅だと家でゴロゴロしているD夫にバレてしまうので、バイト先を送付場所にしようと考えた。そこで、前もってバイト先の一つであるラーメン店のオーナーに相談することにした。オーナーは五十代男性だが、気さくな人柄だ。
「すみません、今日仕事の後にちょっと相談したいんですけど、いいですか?」
「おう、C子ちゃん、いいよ。昼の客がいなくなる2時から4時までならな。場所は近くのファミレスでいいかい?」
「お願いします!」
その日、C子は店にやってくるランチ客をさばきにさばいた。いつもなら疲れとストレスを感じるが、今日はオーナーにどうやって説明とお願いをしようかと考えるだけで頭がいっぱいだった。
午後二時過ぎになり、客がいなくなったところを見計らって、オーナーがのれんを仕舞った。オーナーは、昼の他のアルバイトに早く帰るよう促すと、こう言った。
「よし、C子ちゃん、ファミレス行くか。」
「お願いします!」
ファミレスに入ると、オーナーはニコニコしながら言った。
「我々も遅いランチだ、何でも好きな物頼みなさい。」
「いいんですか?」
C子は目を丸くした。
「たまにはいいんだよ、C子ちゃんはいつも頑張ってるからさー。」
「じゃあ、このオムライスのセットいいですか?」
オーナーはテーブルのチャイムを鳴らすと、やって来た店員に、「オムライスのセットとハヤシライスひとつずつ、ドリンクバー2人前!」と注文した。
「ドリンクバーまで。ありがとうございます。」
「いいってことよ。好きなの飲みな!」
二人はドリンクバーでそれぞれ烏龍茶とコーラをグラスに注いで席に戻ると、オーナーが切り出した。
「で、相談って何? 旦那のこと??」
「そうなんですよ。」
C子はいっきに、自分が妊娠してから、この間A雄とB子に会ったときのことまでを話した。途中、オムライスとハヤシライスが来たので、オーナーはハヤシライスを食べながら聞いていたが、C子が、「それで、一度、子どものDNA鑑定をしたいんですが、DNA鑑定のキットと鑑定結果の送付先を店にしていいですか?」と言うと、オーナーは手元のコーラを飲み干して答えた。
「そんなことなら構わないよ! 俺、他にも協力できることがあれば協力するし。」
「本当ですか、ありがとうございます。あとは、どうやって子どもと二人きりになるか、なんですけどね。」
オーナーは笑いながら言った。
「店の定休日にうちに連れてきたらいいじゃん! 何なら、キットと鑑定結果の送付先もうちの家にしてさ、全部うちでやればいいんだよ。うちの妻にも言っておくから。」
「ありがとうございます! でも、うちの夫にどう言ってF実を連れて行きましょう?」
C子の質問に、オーナーは答えた。
「簡単だよ、それはな……」
オーナーは、D夫が近くにいるわけでもないのに小声で話し始めた。
C子は喫茶店のテーブルに両手をついて頭を下げた。
「そうだろうね、急に中絶費用を振り込めとか言って、その後音信不通になったもん。」
A雄は冷静だった。
「それで問題があって、当時私も妊娠していたけど、彼も妊娠したんです。」
「ほう。」
「彼……名前をD夫と言うんですが、D夫に私の妊娠を浮気じゃないかってえらく咎められまして。つまり、彼に強く責められたせいで、D夫が私の子を妊娠して、私がA雄さんの子どもを妊娠したものだとすっかり思い込んでいたんです。しかし、A雄さんが私の子を妊娠していたとなると。」
B子が口を挟んだ。
「A雄があなたの子を妊娠して、あなたはD夫さんの子を妊娠して、D夫さんは誰か別の女性の子を妊娠した可能性があるわね。」
「そうなんです!」
C子はほとんど叫んでいた。そのため、周囲の客が何事かと振り向いたが、A雄は気にせず話した。
「でもさ、ごくまれに『腹違いの双子』って事案もあるんだって。二卵生双生児の場合、精子と卵子が元々二組結合するから、それぞれ父親と母親の体内に別れて育つケースもあるらしいよ。だから、絶対にD夫さんの妊娠した子どもがC子の子ではないとは言いきれない。」
B子は「へー。」と言って感心しているようだった。
「それに、複数回避妊しないでセックスすると、精子と卵子が、ある回では女性の体内で結合して、ある回では男性の体内で結合することもありうるからね。その可能性のほうが高いかな。」
B子はそう話すA雄の隣でうんうんと頷いている。
「私、D夫の産んだ子が私の子だと今日まで信じてきたんで、D夫と結婚したんですよね。」
B子は吐き捨てるように言った。
「そんなこと、私たちと関係ないじゃない!」
A雄は、「まあまあ。」とB子を宥めてから言った。
「そんなに疑うなら、その生まれた子どもとC子の細胞でDNA鑑定してみたらいいんじゃない? 僕たちみたいにさ。」
「確かにそうですね。今となっては私がおろした子どもも、D夫の子どもなのか、A雄さんの子どもなのか、調べようがないですけど、F実なら調べられますもんね。しかし、F実はD夫がずっとみてて、一緒に病院に行けそうにないんです。」
A雄は「うーん。」と言って考え込んだ。B子はA雄を肘でつついている。何でこんな女のために親身になってやってるのよ、と言いたいようだ。
「あれじゃない、病院に行かなくても検査キットが売ってるんだから、それで検査してもらえばいいわよ。D夫さんが、そのF実ちゃんから目を離すことだってあるでしょう?」
B子がA雄に代わって言うと、C子は「なるほど。」と頷いた。
「あなたも元々は自分が撒いた種なんだから、自分で刈り取らなきゃダメ! 」
そんなB子の言葉に、C子は深々と頭を下げた。
「ごもっともです。こんな私に色々教えてくれて、ありがとうございました。」
C子は自分の頼んだコーヒーの代金を支払おうとしたが、B子に拒否された。
「あなたからは一円ももらいたくないの。その代わり、私たち家族には一切関わらないで。私はこの家庭を守りたいの。分かって!」
「分かりました。もう二度とA雄さんには連絡しません。ありがとうございました。」
C子は席を立つと、深くお辞儀をして店を出た。
その後一週間ほどかけて、こっそりC子はDNA鑑定の作戦を練った。DNA鑑定キットはネットで調べればすぐにたくさん見つかったが、問題はキットと鑑定結果の送付場所である。自宅だと家でゴロゴロしているD夫にバレてしまうので、バイト先を送付場所にしようと考えた。そこで、前もってバイト先の一つであるラーメン店のオーナーに相談することにした。オーナーは五十代男性だが、気さくな人柄だ。
「すみません、今日仕事の後にちょっと相談したいんですけど、いいですか?」
「おう、C子ちゃん、いいよ。昼の客がいなくなる2時から4時までならな。場所は近くのファミレスでいいかい?」
「お願いします!」
その日、C子は店にやってくるランチ客をさばきにさばいた。いつもなら疲れとストレスを感じるが、今日はオーナーにどうやって説明とお願いをしようかと考えるだけで頭がいっぱいだった。
午後二時過ぎになり、客がいなくなったところを見計らって、オーナーがのれんを仕舞った。オーナーは、昼の他のアルバイトに早く帰るよう促すと、こう言った。
「よし、C子ちゃん、ファミレス行くか。」
「お願いします!」
ファミレスに入ると、オーナーはニコニコしながら言った。
「我々も遅いランチだ、何でも好きな物頼みなさい。」
「いいんですか?」
C子は目を丸くした。
「たまにはいいんだよ、C子ちゃんはいつも頑張ってるからさー。」
「じゃあ、このオムライスのセットいいですか?」
オーナーはテーブルのチャイムを鳴らすと、やって来た店員に、「オムライスのセットとハヤシライスひとつずつ、ドリンクバー2人前!」と注文した。
「ドリンクバーまで。ありがとうございます。」
「いいってことよ。好きなの飲みな!」
二人はドリンクバーでそれぞれ烏龍茶とコーラをグラスに注いで席に戻ると、オーナーが切り出した。
「で、相談って何? 旦那のこと??」
「そうなんですよ。」
C子はいっきに、自分が妊娠してから、この間A雄とB子に会ったときのことまでを話した。途中、オムライスとハヤシライスが来たので、オーナーはハヤシライスを食べながら聞いていたが、C子が、「それで、一度、子どものDNA鑑定をしたいんですが、DNA鑑定のキットと鑑定結果の送付先を店にしていいですか?」と言うと、オーナーは手元のコーラを飲み干して答えた。
「そんなことなら構わないよ! 俺、他にも協力できることがあれば協力するし。」
「本当ですか、ありがとうございます。あとは、どうやって子どもと二人きりになるか、なんですけどね。」
オーナーは笑いながら言った。
「店の定休日にうちに連れてきたらいいじゃん! 何なら、キットと鑑定結果の送付先もうちの家にしてさ、全部うちでやればいいんだよ。うちの妻にも言っておくから。」
「ありがとうございます! でも、うちの夫にどう言ってF実を連れて行きましょう?」
C子の質問に、オーナーは答えた。
「簡単だよ、それはな……」
オーナーは、D夫が近くにいるわけでもないのに小声で話し始めた。
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