生意気な後輩くん

陽乃

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 朝目を覚ますと隣にはアイツがいて、焦った俺は自分の散らばった服を集めて着替え、この部屋を出た。
 残り少ないバッテリーのスマホでタクシーを呼び出して自分の家まで帰ることにした。

 家に着き、部屋のインターホンを押す。
すると、女が怒ったようにドアを乱暴に開ける。

「ねぇ、この時間までどこに行ってたの?」

「ごめんね、恵子さん。」

「今日は私達の1年記念日だったのに。」

 今の会話でも分かる通り、この人は俺の彼女だ。
 いや、付き合っているかも怪しい。
 だって、こんなちゃらんぽらんな俺の顔しか見ていないから。
 まぁ、言わばペットと飼い主のような主従関係のようなものだ。

「忘れてたわけじゃないよ。打ち上げ抜け出せなくてさ。今日、休み?」

 こうやって軽く嘘をつくのも日常茶飯事だ。

「休みじゃないよ、撮影。ちなみに今日から伊織くんと同じ現場なんだよ。」

「そうだっけ?」

「そうだっけ?じゃないよ。折角、脚本家の私が主演に抜擢してあげたのに。」

 恵子さんは40歳にして色々な賞で受賞するほどの日本を代表する映画脚本家だ。
 だから、この関係が続く限り何もしなくても良い役をもらえるっていう訳。

「撮影、一緒に行っても良いですか?」

 後ろから優しく抱きしめてあげる。

「ええ、良いわよ。あと、あなたの事務所に頼まれて後輩くん二人も出演させてあげたわよ。」

 この関係は事務所も知っていて、良いように利用している。
 仮に俺がこの関係を辞めたいと言ってたとしても事務所は拒否するに決まっているし、俺はもうこの世界で生きていけないだろう。

「今日、1年記念日でしょ。だから、プレゼントがあるの。」

 恵子さんはプレゼントをカバンから取り出して、雑に袋を破き、俺の首元に付けられた。

「よく似合っているわよ、黒の首輪。私の師匠の田中さんに貴方をあげることにしようと思うの。」

ー 田中ってあの変態野郎のことか?

「俺はずっと恵子さんと居たいけどな。」

 田中のペットになるなんて嫌だから、甘い言葉を耳元で囁く。

「何を言っているの?あなた、私がずっと気づいていないって思っていたの。他の女と寝てるってこと。」

 乾いた笑いを含ませてそう言う。

「あと、田中って男だろ?だから、俺になんか興味ねぇと思うけど。」

「男でも寝れちゃうんだよね、私の師匠。あと、すごく絶倫なんだよ。良かったわね、貴方くらいの性欲がある人がご主人様になれて。」

「ごめん、恵子さん。俺、ちゃんとするから。だから、もう一度考え直してよ、ね?」

「無理。あとあなたの事務所にも話通っているから。」

 いくら話したってこのことは決定しているんだと確信して、もう何も考えないことにした。

「あと、この監督実は田中さんなのよ。」

 そう言われて、頭が真っ白になる。

 インターホンがなり、恵子さんは俺の首輪にリードをつけて、ドアまで向かった。

「やぁ、久しぶりだね、恵子。」

「田中さん、お久しぶりです。この子、よろしくお願いします。」

「ああ、やっぱり生で見る伊織くんは格別に可愛いね。」

 そう言われて、田中に手を引っ張られ家を出て高級車に乗せられた。
 これからの日々を考えると何も出来ず、ただ無言の空気が漂う。

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