傷心クルーズ 〜大人だけの遊覧船〜

タロウ

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プロローグ

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「……やっぱり無理だと思う」
最後にそう言われた瞬間、彼女の胸に残ったのは、呆気なさと苦笑いだった。

理由は簡単だ。
――性欲が強すぎる。
相手に合わせて我慢もしてきたつもりだった。欲しがらないように、控えめに、普通の恋人らしく振る舞ってきた。
けれど結局、それでも「痴女」と烙印を押され、終わった。好きあっているのに何故そこまで言われなければならないのか。
帰り道、無性に飲みたくなった。
夜の街で一人、グラスを傾けながら「もうこの先、一人の方が楽なんじゃないか」と、苦い酒と一緒に思いを呑み込む。

そんな時だった。
酔った視界の端に、スマホの広告が目に入った。
《シングル限定・20歳以上限定 出会いを求める人のためのクルーズツアー》
指が勝手に動いた。
ポチッ――。

翌日の昼、気づけば彼女は港に立っていた。
港に停泊していたクルーズ船は、想像以上に大きかった。
白い船体が太陽に反射して眩しく、見上げると胸の奥にざわつくような緊張と期待が混ざる。
受付を済ませ、案内された客室は一人には広すぎるダブルベッド付き。ベランダからは港の海が広がり、潮風が吹き込んでくる。
「……ここに、一人で寝るの?」
苦笑混じりに呟きながらも、贅沢な空間に体を投げ出したくなる。
船内は豪華なつくりで、プールやレストラン、ラウンジも完備されていた。少し探検するだけで、日常から切り離された世界に足を踏み入れた実感が湧いてくる。
夕刻、係員から綺麗に梱包された箱を手渡された。
「プールやラウンジを含め、乗船中船内では、こちらをお召しください」

開けてみると、光沢のある深い色のナイトドレスだった。
「館内着……?」にしては布は薄いし、かなり…セクシーだ。箱の中には水着も見える。
少し疑問に思いつつも広げていると、さらりと説明が添えられる。
「船内は普段着でも構いませんが、こちらをお召の場合“出会いを求めています”というサインになります」
思わず固まった。
わかりやす過ぎるルールに、笑うしかない。
――でも、もうここまで来てしまったのだ。
ワンチャン、いいことがあれば。そう心の中で言い訳しながら、彼女はドレスを広げた。
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