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1 バーにて
しおりを挟むその夜、ドレスに袖を通してラウンジへ向かうと、そこは昼間とはまるで違う顔をしていた。
ピアノの生演奏、低く落ち着いた照明、静かに響くグラスの音。
スーツ姿やドレス姿の男女がそれぞれにグラスを傾けている。
カウンターの端に腰を下ろし、注文したカクテルを口に含んだとき。
「隣、いいかな」
ふいに声がして顔を上げると、背の高い男が立っていた。スラッとしたスーツに身を包み、ほのかにウッディなコロンの香りもする。
「どうぞ」
軽く笑って答えると、自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
「一緒に飲みます?」
そう続けると、男の口元がわずかに緩む。
「広い船ですよね」
氷の溶ける音を聞きながら、寄港地の話や船内の感想など、他愛のない会話が続いた。
気づけばグラスは空に近づき、心も少し軽くなる。
「…でもね」
彼女は窓の外に視線を投げながら、ぽつりと漏らす。
「夜って長いですよね…。楽しいことが終わったあと、部屋に戻ると急に静かすぎて……満足できないっていうか」
自分でも、誰にでも言えることじゃないとわかっている。けれど、この船では不思議と口に出せてしまった。
男はしばらく沈黙したあと、低い声で返す。
「それは――試してみれば、変わるかもしれませんよ」
その視線の熱に、喉が渇く。
グラスを振って誤魔化すと、氷がカランと音を立てた。
「もう一杯……飲みますか?」
彼がそう尋ねる。
「飲んじゃったら、また長い夜になっちゃいます」
笑いながら返す。
それは断りであり、同時に合図だった。
彼は目を細めて立ち上がると、静かに椅子を引いた。
「じゃあ、別の過ごし方を」
差し出された手を取る。
二人は並んでラウンジを出て、船の廊下を歩く。船体の揺れに合わせて歩く足取りは、不思議とぴたりと揃っていた。
部屋につき、ドアが閉まった瞬間、船内の静けさが強調された。
暗めの室内にランプの光が柔らかく灯り、広すぎるベッドが視界に広がる。
ベッドの端に座らされた彼女は、まだ胸の高鳴りを誤魔化すようにグラスを持つ仕草をしてしまう。
けれど、彼の手がすでに指先を絡め取っていた。
「緊張してます?」
わざとらしく笑う低い声が耳に触れる。
「……そんなこと」
返した声は震えていた。
彼の指先は髪に触れ、耳元へと滑る。
「似合ってます、そのドレス」
吐息まじりの声が頬にかかり、思わず身じろぎした。
さっきまでの余裕ある笑みは消え、互いの呼吸が近くなる。
指がドレスの裾をなぞるたび、布地の下で肌が火照っていく。
翻弄されているとわかっていても、抗う気持ちは薄れていった。
視線を合わせた瞬間、彼女の胸に広がったのは――
今夜、何が始まるのかという強烈な期待だった。
背中を支えるように大きな手が添えられ、ベッドへ沈み込む。
彼の指先は焦らすように髪を梳き、首筋へと滑っていく。
その緩やかな動きに、思わず瞼が落ちた。
「やっぱり……綺麗だね」
囁きと同時に、唇が頬に触れる。
頬から耳へ、耳から首へ――ひと筆書きのように丁寧に辿られて、熱が伝わっていく。
触れられるたび、体は待ちきれないように反応するのに、彼は急がない。
まるで彼女の“焦れ”を楽しむかのように、指も唇もゆっくりと。
「……もっと、欲しいの」
堪えきれず零れた言葉に、彼は笑った。
「いいですね、その声」
唇が鎖骨へと降りていく。
吐息が触れるたびに、小さく震えが走った。
翻弄されているのに、期待が膨らむばかりで抗えない。
ドレスの肩紐が片方落ちると、冷たい空気に触れた肌を、彼の指先がなぞった。
なぞるだけ――なのに、背筋に甘い電流が走る。
「触れられるたびに熱くなるんですね」
低い声が耳元を撫で、唇が首筋に吸いつく。
思わず腰が揺れた。
「や……んっ」
抗う言葉は最後まで言えず、代わりに吐息が洩れる。
布地の上から撫でられる胸、下腹部。決して直接は触れないのに、体は待ちきれず反応を示す。
揺さぶられるたび、疼きは増していく。
ようやく指先が布越しに敏感なところを押した瞬間――
「……っ!」
あっけなく、強い快感に飲み込まれた。
崩れ落ちそうな体を抱き留めるように腕が回される。
「まだ始まったばかりですよ」
囁きに震えながらも、次の波を期待してしまう。
絶頂の余韻を与えられる間もなく、彼の唇が胸元へと下りていく。
舌がゆっくり円を描き、片方を吸い上げ、もう片方を指で摘む。
「ん、あぁ……っ」
乳首に与えられる刺激が重なり、また体が跳ねた。
足元から忍び込む手が、下着の上をゆっくり撫でる。
湿り気を確かめるように指先が這い、そのまま強弱をつけて擦られると、二度目の波が簡単に押し寄せる。
「ほら……声、もっと出して」
囁きに抗えず、喉から震えがこぼれた。
「……あ、ぁ……だめ、もう……っ」
けれど男は止まらない。
絶頂のたびに緩む体を、そのまま次の悦楽へ導いていく。
数えるのも忘れるほど繰り返し攫われ、もはや羞恥よりも快感が上回る。
――底なしの自分を、本当に満たしてくれるかもしれない。
そんな危うい期待が、頭の奥で静かに膨らんでいった。
何度も絶頂を繰り返し、全身は汗に濡れて息も乱れていた。
それでも、彼の視線は飢えたまま。
「もう限界ですか?」
耳に落ちる低い囁きに、彼女は必死に首を振る。
「……やだ、もっと……」
「可愛い人ですね…」
微笑んだ彼は、ゆっくりと彼女の脚を抱え込み、熱を重ねた。
押し入ってくる感覚に、思わず息が詰まる。
「……あぅ……っ、すご……」
彼女の声に、彼は低く笑った。
「このまま…全部、受け入れてみてください」
けれど苦しさはなく、むしろ体の奥が歓喜するように震えた。
「……あ……っ」
侵入のたびに甘い声が零れる。
彼は急がず、解すように丁寧に、中を探りながら動いた。
奥へと届くたび、体の芯が痺れるように震える。
「お、奥…あぁ、…そんなゆっくり……」
「いい…中しっかり俺を締め付けて…気持ちいいですか?」
その余裕に、焦らされながらも快楽の波がまた押し寄せる。
「あ、あぅ…ふっ……も、もう…」
ぐりぐりと奥ばかりを先端で愛撫され、深い絶頂に達し、体を震わせた瞬間、突き上げられる。
「……ん、あ、ぁ……だめ……っ」
「もっと深く堕ちてみませんか?きっと、もっと気持ちよくなれますから」
普通なら一度止まるはずの動きが、止まらない。
むしろ余韻に合わせて深く突き上げられ、痺れる快感が強制的に塗り重ねられていく。
「……っだめ、いまイってるの……っ!」
訴える声さえ震えに変わり、喉から甘い悲鳴が漏れる。
「知ってますよ、気持ちいいんですよね?」
「ああぁぁ…!」
「…っ!締め付けすご、…もっと深いの、あげますから…ね!」
快感は限界を越えて、怖いほどに深まっていく。
何度も達しているはずなのに、追い立てられるようにまた大きな波が来る。
視界が滲み、思考が快楽に浸食されていく。
――初めてかもしれない。
この底なしの欲を、本当に満たしてくれる人に出会ったのは。
その予感に怯えるよりも先に、彼女はまたひとつ、快楽の深みに堕ちていった。
最後に覚えているのは、彼の胸に顔を押しつけながら零れた自分の声。
「……もっと、ちょうだい……」
「もちろん、まだまだこれから…」
その返事を聞いたところで、意識は闇に溶けた。
次に目を覚ました時、隣には誰もいなかった。
ベッドサイドには一枚の手紙。
『またあとで。』
整った字でそう書かれていて、彼女は静かに唇を噛んだ。
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