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第5章 振り返れば、そこには。
Part11 河川敷にお別れ
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「ふえ…」
「おっ、起きた。悠真くん、調子はどう?」
「体が重いけど…なんとか大丈夫です…」
「どれどれ~?」
徳井の大きな手を悠真の額に当てると、
「おっ、これは下がったかな。食欲ある?」
「お腹はめっちゃ空いてます…」
「おかゆ作ってあるから、食べる?」
「マジっすか!」
悠真は一瞬にして目を輝かせる。
悠真が起きる30分前。悠人は徳井にこう話していた。
「あの…徳井さん。」
「ん~?」
徳井はブラックのホットコーヒーを飲みながらさりげなく返事する。
「えっと…」
「ゆっくりでいいよ~?」
「徳井さんの、友人のところに… 、やっぱり行きたいです…」
「おっ、そうきたか」
「やっぱ二人だけだと…暮らしていけないかなーって…その、友人の方に、頼っていいかなと…」
「うーん。了解。今連絡したら、今夜にも迎えにきてくれるかも。」
「本当ですか?じゃあ、お願いします!」
悠人は徳井に頭を下げた。
「あーお辞儀とかいらないいらない~。オレは二人に幸せになってもらいたいだけだよ~♪。あっ、ダンボールハウスの荷物、今のうちに取っといたら?」
「確かに…」
「送ってこうか?」
「いや、徳井さんは悠真をみといてもらえると…」
「確かにね。じゃ、一人で気をつけてね。何かあったらまた連絡して!」
「はい!」
そういうと悠人はリュックを背負い、ドアノブに手をかけた
「いってきます~」
「ほーい。」
がちゃん。
外に飛び出た悠人は、思わず寒さに体を震える。
「さむっ…。一晩で急に天気変わりすぎぃ…」
ジャンパーの上にさらに一枚服を重ねると、アパートの階段を降りて昨日の河川敷へと向かう。
平日の午前10時ごろ。
道には買い出しに来たであろう人や、遅出勤のサラリーマンなど、さまざまな人たちが歩いている。
中でも特に悠真の目に止まったのは親子連れである。
「ママ~!今日は何して遊ぶの~?」
「今日は~…電車に乗りにいこっか!」
「ほんと~!?電車大好き~!」
「ふふふ~!ママも大好きだよ~!!」
そんな会話を聞いていると、思わず自分たちの状況と比べてしまう。
どうしてこんなに惨めなのだろう。他の人と何が違うのだろう。
住宅街を歩き、川にかかる大きな橋を渡り、見慣れた風景を歩く。
河川敷の階段を降り、いつも帰ってきた、冷たいダンボールでできた家に着く。
中に入り、自分のものと悠真のものをリュックに詰めていると、
なぜか目から涙が溢れ出してきた。
初めて自分で立てた時。
あの頃はまだ3年生であった自分に、悠真という弟のような存在ができ、
小さな机に向かって勉強をしたり、悠真と一緒に遊んだり。
夏の暑さに耐えきれずに小さい扇風機を買って、結局コンセントがないことに気付いてそのまま放置していた扇風機や、悠真と遊んだ百均のオセロ。
冬のかぜと雨にやられた段ボールを二人で一緒にガムテープで修復したり、意味はないのに窓を作って換気をしたり。
これまでに作ってきた思い出が、全てこの中に詰まっていると考えると、悠人はどこか寂しさのようなものを感じていた。
最後に自分の勉強道具をリュックにほぼ無理やり詰め込むと、段ボールの家、だったものは、ただの段ボールを積み上げた山になっていた。
目から止まらない涙を拭き、頭を大きく下げた。そして叫んだ。
「これまでありがとうございましたっ!!」
続く
=天の声=
言うことなし
ではでは
「おっ、起きた。悠真くん、調子はどう?」
「体が重いけど…なんとか大丈夫です…」
「どれどれ~?」
徳井の大きな手を悠真の額に当てると、
「おっ、これは下がったかな。食欲ある?」
「お腹はめっちゃ空いてます…」
「おかゆ作ってあるから、食べる?」
「マジっすか!」
悠真は一瞬にして目を輝かせる。
悠真が起きる30分前。悠人は徳井にこう話していた。
「あの…徳井さん。」
「ん~?」
徳井はブラックのホットコーヒーを飲みながらさりげなく返事する。
「えっと…」
「ゆっくりでいいよ~?」
「徳井さんの、友人のところに… 、やっぱり行きたいです…」
「おっ、そうきたか」
「やっぱ二人だけだと…暮らしていけないかなーって…その、友人の方に、頼っていいかなと…」
「うーん。了解。今連絡したら、今夜にも迎えにきてくれるかも。」
「本当ですか?じゃあ、お願いします!」
悠人は徳井に頭を下げた。
「あーお辞儀とかいらないいらない~。オレは二人に幸せになってもらいたいだけだよ~♪。あっ、ダンボールハウスの荷物、今のうちに取っといたら?」
「確かに…」
「送ってこうか?」
「いや、徳井さんは悠真をみといてもらえると…」
「確かにね。じゃ、一人で気をつけてね。何かあったらまた連絡して!」
「はい!」
そういうと悠人はリュックを背負い、ドアノブに手をかけた
「いってきます~」
「ほーい。」
がちゃん。
外に飛び出た悠人は、思わず寒さに体を震える。
「さむっ…。一晩で急に天気変わりすぎぃ…」
ジャンパーの上にさらに一枚服を重ねると、アパートの階段を降りて昨日の河川敷へと向かう。
平日の午前10時ごろ。
道には買い出しに来たであろう人や、遅出勤のサラリーマンなど、さまざまな人たちが歩いている。
中でも特に悠真の目に止まったのは親子連れである。
「ママ~!今日は何して遊ぶの~?」
「今日は~…電車に乗りにいこっか!」
「ほんと~!?電車大好き~!」
「ふふふ~!ママも大好きだよ~!!」
そんな会話を聞いていると、思わず自分たちの状況と比べてしまう。
どうしてこんなに惨めなのだろう。他の人と何が違うのだろう。
住宅街を歩き、川にかかる大きな橋を渡り、見慣れた風景を歩く。
河川敷の階段を降り、いつも帰ってきた、冷たいダンボールでできた家に着く。
中に入り、自分のものと悠真のものをリュックに詰めていると、
なぜか目から涙が溢れ出してきた。
初めて自分で立てた時。
あの頃はまだ3年生であった自分に、悠真という弟のような存在ができ、
小さな机に向かって勉強をしたり、悠真と一緒に遊んだり。
夏の暑さに耐えきれずに小さい扇風機を買って、結局コンセントがないことに気付いてそのまま放置していた扇風機や、悠真と遊んだ百均のオセロ。
冬のかぜと雨にやられた段ボールを二人で一緒にガムテープで修復したり、意味はないのに窓を作って換気をしたり。
これまでに作ってきた思い出が、全てこの中に詰まっていると考えると、悠人はどこか寂しさのようなものを感じていた。
最後に自分の勉強道具をリュックにほぼ無理やり詰め込むと、段ボールの家、だったものは、ただの段ボールを積み上げた山になっていた。
目から止まらない涙を拭き、頭を大きく下げた。そして叫んだ。
「これまでありがとうございましたっ!!」
続く
=天の声=
言うことなし
ではでは
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