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9(side マリオン)
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マリオンは幼少期から、母の思い通りに生きてきた。
結婚に夢を持ちすぎて、冷淡な父との生活に失望し、さらには上の子供を立て続けに失い、心を病んでしまった夢見がちなマリオンの母。
その母に「わたくしをお姫様のように扱ってちょうだい。マリオンはわたくしの騎士でいて」と言われて育ったのだった。
母は父と同じ色を持つマリオンに無意識に父の代わりを求めた。
彼女は何の気無しに言ったのかもしれない。
しかし、それはマリオンにとっては呪いにも近かった。
姫と騎士が出てくる非現実的な絵物語が、彼女のお気に入りだった。
物語に登場する騎士は、姫に心惹かれるが、いつも姫を優しく見守り、励まし、姫と仲が深まりそうになっても、分を弁えて彼女に必要以上には近づかない。
マリオンは、母の前では、その物語の騎士になり切って、そういう風に振る舞った。
母は『自分だけの騎士』を手に入れて満足そうだった。
マリオンは彼女を、誰よりも美しいと何度も飽きるほどに褒め称え、宝物にでも触れるように優しくエスコートし、何でも無い日に花を贈った。
実際に彼女にそういう感情を抱いていたわけではなかった。
彼女がそれを望んでいるから、望み通りに振舞っただけだった。
それは可哀そうな母を、ただ喜ばせたいという感情だった。
年の離れた弟が生まれた時は、やっとこの重い責務と嘘から解放されると安堵したが、頼みの彼は幼いころに不幸な水難事故によって、命を落としてしまった。
遺体はあがらなかったが、あの激流の中では幼い子供などひとたまりもなかったろう。
今でも思い出す、母と同じ色を持った弟。
黒い髪に菫色の瞳が愛らしく、泣き虫でマリオンだけに懐いていた彼を・・・。
待望の存在であった弟の死に家中が暗くなった。
結局、あては外れて悲しみだけが残り、張りぼての騎士と後継ぎとして、今まで通り母の操り人形になり続けるしかマリオンに選択肢は残らなかった。
そして、気が付くと、いつからか物語の騎士の仮面が外せなくなっていた。
けれど、ある意味、この家の後継ぎとしてはその方が都合が良かった。
母が亡くなってからは出会った女性全てに、母に対するように接した。
皆喜んでくれた。
マリオンは自分が必要とされているようで嬉しかった。
だが、どこか騙しているようで、申し訳ない気持ちも消しきれなかった。
マリオンは、随分前からもう自分が本当は何者なのか良く解らなくなっていた。
否、物心ついた時から、偽りの自分を押し付けられてきた。
今更母が亡くなったのだから自分らしくと言われても、そもそも何が自分らしいのかすら解らない。
だから、今まで通り母に押し付けられてきた生き方を続ける事しか出来なかった。
実際、家を守る為にはそれ以外の選択肢など、そもそも存在しなかったのだから・・・。
◇
父方の遠縁で、侯爵家の嫡男だというオスカーと初めて会った時、彼こそが本物の騎士で跡取りなのだとマリオンは思った。
しっかりとした骨格に裏打ちされた逞しい体躯に、太陽の様に眩しい笑顔。
自分はどんなに努力しようと、騎士としても後継ぎとしても、所詮紛い物で、決して本物になどなれはしないのだと・・・。
そう思い知らされたようだった。
そして、いつしか彼に複雑な思いを抱くようになっていた・・・。
結婚に夢を持ちすぎて、冷淡な父との生活に失望し、さらには上の子供を立て続けに失い、心を病んでしまった夢見がちなマリオンの母。
その母に「わたくしをお姫様のように扱ってちょうだい。マリオンはわたくしの騎士でいて」と言われて育ったのだった。
母は父と同じ色を持つマリオンに無意識に父の代わりを求めた。
彼女は何の気無しに言ったのかもしれない。
しかし、それはマリオンにとっては呪いにも近かった。
姫と騎士が出てくる非現実的な絵物語が、彼女のお気に入りだった。
物語に登場する騎士は、姫に心惹かれるが、いつも姫を優しく見守り、励まし、姫と仲が深まりそうになっても、分を弁えて彼女に必要以上には近づかない。
マリオンは、母の前では、その物語の騎士になり切って、そういう風に振る舞った。
母は『自分だけの騎士』を手に入れて満足そうだった。
マリオンは彼女を、誰よりも美しいと何度も飽きるほどに褒め称え、宝物にでも触れるように優しくエスコートし、何でも無い日に花を贈った。
実際に彼女にそういう感情を抱いていたわけではなかった。
彼女がそれを望んでいるから、望み通りに振舞っただけだった。
それは可哀そうな母を、ただ喜ばせたいという感情だった。
年の離れた弟が生まれた時は、やっとこの重い責務と嘘から解放されると安堵したが、頼みの彼は幼いころに不幸な水難事故によって、命を落としてしまった。
遺体はあがらなかったが、あの激流の中では幼い子供などひとたまりもなかったろう。
今でも思い出す、母と同じ色を持った弟。
黒い髪に菫色の瞳が愛らしく、泣き虫でマリオンだけに懐いていた彼を・・・。
待望の存在であった弟の死に家中が暗くなった。
結局、あては外れて悲しみだけが残り、張りぼての騎士と後継ぎとして、今まで通り母の操り人形になり続けるしかマリオンに選択肢は残らなかった。
そして、気が付くと、いつからか物語の騎士の仮面が外せなくなっていた。
けれど、ある意味、この家の後継ぎとしてはその方が都合が良かった。
母が亡くなってからは出会った女性全てに、母に対するように接した。
皆喜んでくれた。
マリオンは自分が必要とされているようで嬉しかった。
だが、どこか騙しているようで、申し訳ない気持ちも消しきれなかった。
マリオンは、随分前からもう自分が本当は何者なのか良く解らなくなっていた。
否、物心ついた時から、偽りの自分を押し付けられてきた。
今更母が亡くなったのだから自分らしくと言われても、そもそも何が自分らしいのかすら解らない。
だから、今まで通り母に押し付けられてきた生き方を続ける事しか出来なかった。
実際、家を守る為にはそれ以外の選択肢など、そもそも存在しなかったのだから・・・。
◇
父方の遠縁で、侯爵家の嫡男だというオスカーと初めて会った時、彼こそが本物の騎士で跡取りなのだとマリオンは思った。
しっかりとした骨格に裏打ちされた逞しい体躯に、太陽の様に眩しい笑顔。
自分はどんなに努力しようと、騎士としても後継ぎとしても、所詮紛い物で、決して本物になどなれはしないのだと・・・。
そう思い知らされたようだった。
そして、いつしか彼に複雑な思いを抱くようになっていた・・・。
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