Original drug

佐治尚実

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 当時、二十四歳の翔祐と社外で出会い、念願が叶い数年後、恋人となり同棲を始めた。そこまでは順調であったが、夜の誘いを苦手とする奥手な翔祐に気が急いていく。男と男の関係に緊密につながりを見せる一方、肉欲の上を求めたい一条はときに、自分の醜い側面を垣間見る。

 彼の素足を指でなぞり風呂上がりの柔い肌に唇を押し当てて、優しい接触から翔祐の緊張の糸を解いていこうとした。性に関しては淡泊な翔祐は生娘みたいに清らかで、汚してしまってもいいのか一条は葛藤が続いた。一週間に二回の交わり、一条が二回達すれば「これ以上は無理」と胸を上下させる健気な翔祐を大事にしたい。執拗な前戯で翔祐の体は快楽になれてきたと期待を込めるが、翔祐のドロドロと肉が蠢く胎内にいると、一条は射精感が増し早漏と勘違いをされてはいまいか。そんなどうでも良い自尊心を抱くよりも、彼の発するくぐもった嬌声は恥じらいを見せ、匂い立つほど官能的だ。

 一条が経験した過去の性行為とは違い、肉体を抱いている筈なのに、翔祐という一人の存在に食われている錯覚を覚えた。実質、この子を抱いているのは自分なのに、固く閉じた心が脱力してうつろな瞳へとかわる、そんな翔祐の痴態を目にすれば、全身がうねる酩酊した世界に漂い始める。身を残らず食いたい、食われたい、食いたくて気が狂う。

 翔祐の体と精神は毒だ、純度の高い艶美な色気は一条を虜にした。寧ろ存分な餌を与えられず、行為の後も昂ぶりが治まらず一条は施しを受けていた位に。ぐったりと弛緩する翔祐の肉体がベッドに沈み思考が飛んでいても、一条はいつまでも翔祐の足の指をしゃぶり己を慰める惨めな獣と成り下がっていた。

 妄言を零しながら一条の雄を呑み込んでいて欲しい。清純な顔なんて剥ぎ取ってしまい丸い頬に精液をぶちまけたい。一条の雄をただの道具と見なし、その熟し切れていない洞窟に埋め尽くして欲しい。蕾が充血して腫れ精液で白く泡立つまで、凄艶なる翔祐の肉体に溺れたい。

 全て本音を言えば物足りなく、蜜月期間は続いても一条の欲は育ち餓えていくだけであった。決められた回数のなか、翔祐を快楽の渦に溺れさせようと、意地汚い雄を打ち付ける度に自分の獣の本性が目覚め始めた。

 半年前まで、一条は愛しの翔祐を家に閉じ込めていた。仕事仲間や営業先の人間に媚びを売る翔祐に嫉妬した。かわいらしい潤んだ瞳が自分以外を見つめて、体が接触すればふしだらな笑みを浮かべる。裏切り者、そう身勝手で狭量な言い分を翔祐にぶつけた。

 毎日、帰宅した一条が玄関で服を脱ぎ散らかし、リビングに逃げようとする翔祐を強引に組み敷いた。フローリングの床は冷たくて膝が痛いだろうに、四つん這いになり後背位で一条の熱い肉の柱を打ち付けられていた。

 愛し合う日々は一条にとって、狂乱の天国であったが、翔祐からすれば地獄だったようだ。毎夜、狂った欲望に突き動かされた一条から、翔祐は死に物狂いで逃げようとした。

 キッチンや玄関、フローリングの床、トイレなど翔祐を所かまわずに犯しまくり、翔祐の腹に精液を溜め込まないと悪い男が寄ってくる、そう一条は不気味な強迫観念に襲われた。一条が下劣な獣へと変貌していく様を翔祐は身近で見てきた、だから彼は身の危険を察したわけだ。

 軟禁されていた翔祐は勝手に外出し、一条に黙って病院に行くという愚行の上に、他人に大事なところを見せもした。

『検査をしたら、そういうのは休めと言われた』

 そう最終的には一条に禁欲しようとも告げてきた。半年前の翔祐の願い、可愛い我が儘では済まなかった。翔祐に狂った一条にとっては、死を宣告された禁欲生活の始まりだ。

 閉じ込めても嫉妬で狂いそうであった。最小限、肌に触れるけれども翔祐の思考がどこに飛んでいるのか、やたらに不安で窒息しそうであった。翔祐と体をつなげる、それしか術がなかったのだ。如何に彼を蹂躙して征服していたかを物語っていた。「別れたい」別離を求められないだけ、いまはマシだ。随分と翔祐も、この異常な世界に馴れてきてくれたようで、気が触れたように笑い出したい一方、卑劣な思考が動き始める。

『半年の禁欲を破ったら僕、自殺します』

 口をきいて貰えず見向きもされなくてもいい、憐れみでも良いから傍にいて欲しかった。翔祐が生きていてくれさえすれば、何だって良かった。


 その半年が昨夜終わり、今日の朝を迎えた。
 医薬品会社の執行役員を務める一条は、秘密裏に自社のグループと提携する研究室で、ある新薬を開発していた。無事に治験を通り本来の目的を執行しようと、初心だった翔祐にサプリメントと称して服用させた。新薬を幾つか自宅に持ち込んだ。早速、翔祐に服用させようと、サプリメントと称して口内に薬を指で押し込み入れる。翔祐の口内の粘膜に触れると、一条は自然と身体が震え唾液を嚥下した。

「これ、サプリメントにしては苦い、一条さん飲み物を下さい」

 いちいち反応をする翔祐が可愛くて、いじらしい。

「それは口内で溶けるタイプだよ、その分効力は低いけれど、短時間で直ぐに効く」

「口が痺れてきました、何ですか! これ、えっ、サプリで身体に拒否反応ってあるんですね」

 ハーブや植物性の類は特に容量を間違えると危険だ、翔祐に渡した錠剤があと二錠多ければ遊びで終わらない展開となる。もし、翔祐に抗体が無ければ、病気と同じく免疫が低下し感染をする、素人みたいなミスを犯すわけがない。当初から翔祐が対象者だ、そうこれは遊びだ適量を。

 遊びだ、これは戯れだ。そう、一条は自分に言い聞かせた。飢餓感に苦しむ獣と化した自分を慰めて欲しい一心で、翔祐を欲の渦に放り込む、ただそれだけだ。いつまでも性に臆病な恋人が、淫らな蜜を溢れさせて自分自身で溺れるくらいになるまでの、ほんのきっかけに過ぎない。

「かわいいな、怯えてるの」

 薬に溺れさせやしない、こんな遊びに依存させてたまるか。

「お仕置きの時間だよ、翔祐。うん、頑張ろうね」

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