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ふわりと花香る
しおりを挟むその日は午後から講義に向かった。
「おーい、今日こそ遊びに行こうぜ」
移動の合間に構内でひときわ目立つグループが、カイを呼び止める。以前からカイには、サークルや飲み会の誘いが絶えなかった。
高校時代はユイトを常に側に置くカイを、遠巻きに見ている生徒達は大勢いた。大学でもカイに惹かれる者は増える一方であった。資産家の息子でいて、滅多にお目にかかれない美貌。長身で鍛えられた体躯。そして才覚も備わっており、正に高嶺の花である。
「しつこいな、お断りだ」
ユイトを一人にする、自分以外と親交を交わす。それが受け入れられないカイは、当然の様に誘いを断り続けていた。他者の顔色を窺い、将来の人脈を作る必要は無い。
「少しで良いから、こっちに来てくれよ」
ユイト以外の物事に関しては、ドライな表情をのぞかせる。自分の力でユイトを十分幸せに出来る、そうカイは自負していた。
グループのリーダー格らしき色男の青年が、カイに手招いた。
「そこの君も来いよ、ユイト君って言うんだよな」
標的が増えた。人気者であるカイの横で、どこか傍観者として見ていたユイトに、青年は呼びかけた。
突然名指しされたユイトは、ひゅっと息が止まる。驚きからではない、恐怖だ。そうなると話は違う。今日も無視しようと、冷徹な眼差しを浮かべていたカイの表情が陰りを見せる。
「分かった、今行く」
「おお、遂にお出でになるぞ」
観念した。両手を挙げて美男美女しかいない輪に、カイはその長い足を動かした。青年は口笛を吹き、周りを囲む男女数人が騒ぎ立てる。
「ここで待っててね」
もう直ぐ次の講義が始まるというのに、カイは険しい表情を浮かべながらユイトの側から離れた。去り際、ユイトに告げた言葉はお願いではなく、明確なまでの命令であった。
集団に混じるカイの姿は、少し離れたベンチに座るユイトから見ても異質であった。カイは何度も横目でユイトの姿を捉え、確認しながら会話をしていた。
興味を引こうと大袈裟に手を動かすリーダー格の青年は、カイと背格好が近い。構内でも人目を惹く容貌である。だがカイとは格が違った。生まれながらにして、神に与えられたカリスマ性。
ユイトの惚れた弱みからではない、現にいつも周囲から持て囃され中心人物である彼らが、聞き手に回りカイの一挙手一投足に見蕩れていた。
高校の時は誰もユイトに近付く者はいなかった。なぜならばカイが牽制をしていたからだ。それが地元から離れた大学に入ると、ユイトは透明人間ではいられなくなる。
青年に存在を認められた。
美しいカイの側に寄りそう地味な青年に、気軽に話しかけた。
「もう少し愛想よくすれば良いのに、カイ」
少し離れて見守るユイトは、自分はカイという人間を独り占めしている事実を改めて受け止めた。本当にこのままで良いのだろうか、一抹の不安を抱く。
「あの子は、俺の恋人だから話しかけるな、それと俺たちの大事な時間を邪魔しないでくれ」
それも全てカイの爆弾発言で、吹き飛んだ。ユイトは耳を疑った。唯我独尊な発言はいつも通りであるが。「あの子」頬骨が上がり笑い皺が出来るカイが、ユイトに元気よく手を振る。愕然とするユイトを置いて、恋人発言をしたカイの周りで黄色い歓声が上がる。
不安を抱く必要も無い、杞憂だという答えに達した。大胆な発言は麗人が言うからこそ、威力を発揮する。一気にユイトにへ興味の眼差しが注がれた。
「なっ、なにを言っているんだよ」
「ほら顔を赤くして、可愛いだろう・・・・・・でも駄目だ、あの子は俺のものだから」
愛しいユイトを視界に捉え、妖艶に微笑むカイの態度が、その場にいた全員を納得させた。
そしてユイトは一人顔を赤くさせ、ベンチで縮こまっていた。話は終わったのか、熱気を帯びた輪からカイは離れていく。固まるユイトに近付いてきた。隣に腰を下ろすとユイトの肩に手を回して、カイは耳元で愉快そうに囁いた。
「これで俺達は公認の恋人だ、ほらユイト、恥ずかしがらずに手を繋ごう」
大きな手で繋がれた手はとても温かった。だが周囲の視線を感じると、羞恥心を感じた。
「おめでとう、その男に酷いことされたら、いつでも俺に相談しな」
拍手をする軽い音が聞こえた。
自分に対して言葉が掛かる、顔を上げると色男がユイトに向かって微笑んでいた。久しぶりに他者との接触に、心がざわついた。
「有り難う」お礼を返そうと、心なしかユイトは目を輝かせては口を開けた。
「ユイト、俺との約束を覚えてるよね」
どこか怒りを滲ませていたカイの声音に、条件反射でユイトは口を閉ざした。余計な発言をしないよう、下唇を噛んだユイトは隣の存在に注視した。
カイは酷く切ない表情をして、ユイトを見つめていた、俺以外を見ないで、話さないでと。この人と二人だけの世界にいる自分。どこまでも余所見が出来ない。
呆れると共に嬉しかった。カイと二人だけの優しい世界、まだそれは無限にどこまでも続く。
「うん、勿論覚えてるよ・・・・・・愛してるよ、カイ」
ほら見て、カイが笑ったよ、とても幸せそうだ。
この人の為なら自分は何だってできる。たとえそれが、人の道理に反していても、カイが喜ぶ道を選びたい。
愛おしそうに見つめる瞳がキラキラと光る。
微笑むと、それは綺麗に花が咲き、ふわりと花が香る。
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楽しんで頂けたようで幸いです。ありがとうございます!
最高ッス!
ありがとうございます!嬉しいっす!