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第4話
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花子さんに泣かれて、一緒に私も泣いて。花子さんと私は、恋人同士となった。
私に取っては初めての恋愛である。そして私は、もう婚活はできないと悟った。好きな女性が居るのに、他の男性と結婚するのは無理だ。何より『お母さん』に怒られてしまう。
お付き合いは慎重に進めていく事にした。花子さんは以前、東京での恋愛で失敗していて、いわばリハビリ期間中であった。私は私で、まだ中学生の弟が居る。いずれ弟も連れて花子さんと同棲するにしても、せめて弟が高校生になるまでは待とう。花子さんとの話し合いで、そういう事になった。
「割と長く住んでて、悪口みたいな事は言いたくないですけど……広島で同性愛者って、肩身が狭いと思いませんか。花子さん」
「私が越してきたのは最近だから、何とも言えないけど。東京よりは、そうかもね」
ある日のデートで、そんな会話となった。自分でも分かっているのだが、私は花子さんに甘える事が多くなっていた。年齢差があると、そうなってしまうのだ。むしろ『ママ』と呼ばない私を褒めてほしい。
「中途半端なんですよ、広島って。そりゃ人口は百万以上で、中国・四国地方で最大ですよ? でも東京より閉鎖的だし、香川県みたいにレインボー映画祭も無いし」
要は同性愛者に向けた、定期的なイベントなどが無いのだ。それが私には不満だった。
百合マンガもアニメイトくらいでしか買えないのではないか。これからもアニメイトには頑張って欲しいものだ。私は心から応援している。
「分かってるわよ。弟さんの事が心配なんでしょう?」
微笑みながら花子さんが、私をなだめてくれる。その通りだった。私は異性との結婚を諦めている。それはつまり、普通の夫婦なら受けられるはずの法的な制度が、受けられなくなるという事だ。具体的な事態は分からないが、経済的な不利益で、弟に被害が及ぶ事を私は恐れていた。
「心配しすぎよぉ。弟さんだって、いつかは独り立ちするんだから。大丈夫、大丈夫」
「でもぉ……」
まだ私は駄々をこねる。花子さんは笑って、更に核心を突いてきた。
「そんなに弟さんと、離れたくない?」
自分の顔が真っ赤になるのが分かる。私はファミレスの机の上で、突っ伏した。
「もう、やだぁ……花子さんの馬鹿ぁ……」
「よしよし。大丈夫よ、大丈夫」
花子さんが私の頭を撫でてくれる。恥じらって動けない私は、店員さんが来たら変に思われるだろうなぁと思いながら彼女の愛撫を受け入れていた。
「世の中はね。悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ良い方にだって変わるの。私は、そう信じてるわ。だから大丈夫、大丈夫」
本当だろうか。私と弟は幸せになれるのだろうか。そんな事を考えた、二〇二〇年のデートであった。
二〇二二年、同性愛者に不寛容な国がウクライナに侵攻した。ウクライナという国にはLGBT、つまり同性愛者などの人が多いそうだ。周辺国が、性的少数派に不寛容なため、流れ着いたらしい。そういう話を私は花子さんから聞いた。
そのウクライナも、決して同性愛者の楽園という訳ではない。あるいは楽園など、何処にも存在しないのかも知れない。その侵攻があった年、私は二十二才になっていた。
私に取っては初めての恋愛である。そして私は、もう婚活はできないと悟った。好きな女性が居るのに、他の男性と結婚するのは無理だ。何より『お母さん』に怒られてしまう。
お付き合いは慎重に進めていく事にした。花子さんは以前、東京での恋愛で失敗していて、いわばリハビリ期間中であった。私は私で、まだ中学生の弟が居る。いずれ弟も連れて花子さんと同棲するにしても、せめて弟が高校生になるまでは待とう。花子さんとの話し合いで、そういう事になった。
「割と長く住んでて、悪口みたいな事は言いたくないですけど……広島で同性愛者って、肩身が狭いと思いませんか。花子さん」
「私が越してきたのは最近だから、何とも言えないけど。東京よりは、そうかもね」
ある日のデートで、そんな会話となった。自分でも分かっているのだが、私は花子さんに甘える事が多くなっていた。年齢差があると、そうなってしまうのだ。むしろ『ママ』と呼ばない私を褒めてほしい。
「中途半端なんですよ、広島って。そりゃ人口は百万以上で、中国・四国地方で最大ですよ? でも東京より閉鎖的だし、香川県みたいにレインボー映画祭も無いし」
要は同性愛者に向けた、定期的なイベントなどが無いのだ。それが私には不満だった。
百合マンガもアニメイトくらいでしか買えないのではないか。これからもアニメイトには頑張って欲しいものだ。私は心から応援している。
「分かってるわよ。弟さんの事が心配なんでしょう?」
微笑みながら花子さんが、私をなだめてくれる。その通りだった。私は異性との結婚を諦めている。それはつまり、普通の夫婦なら受けられるはずの法的な制度が、受けられなくなるという事だ。具体的な事態は分からないが、経済的な不利益で、弟に被害が及ぶ事を私は恐れていた。
「心配しすぎよぉ。弟さんだって、いつかは独り立ちするんだから。大丈夫、大丈夫」
「でもぉ……」
まだ私は駄々をこねる。花子さんは笑って、更に核心を突いてきた。
「そんなに弟さんと、離れたくない?」
自分の顔が真っ赤になるのが分かる。私はファミレスの机の上で、突っ伏した。
「もう、やだぁ……花子さんの馬鹿ぁ……」
「よしよし。大丈夫よ、大丈夫」
花子さんが私の頭を撫でてくれる。恥じらって動けない私は、店員さんが来たら変に思われるだろうなぁと思いながら彼女の愛撫を受け入れていた。
「世の中はね。悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ良い方にだって変わるの。私は、そう信じてるわ。だから大丈夫、大丈夫」
本当だろうか。私と弟は幸せになれるのだろうか。そんな事を考えた、二〇二〇年のデートであった。
二〇二二年、同性愛者に不寛容な国がウクライナに侵攻した。ウクライナという国にはLGBT、つまり同性愛者などの人が多いそうだ。周辺国が、性的少数派に不寛容なため、流れ着いたらしい。そういう話を私は花子さんから聞いた。
そのウクライナも、決して同性愛者の楽園という訳ではない。あるいは楽園など、何処にも存在しないのかも知れない。その侵攻があった年、私は二十二才になっていた。
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