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第5話
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四月になり、弟は中学三年生となっている。その弟を連れて、私は花子さんとの同棲を開始した。同棲は後、一年は待とうと思っていたのだが、「俺に気ぃ遣わんでもええ」と弟が言ってくれたのだ。ありがたかった。正直、もう私は早く皆で暮らしたかったのだから。
「ようこそ、君が弟さんね。これから仲良くして行きましょう」
花子さんが住んでいるマンションは、事前に知らされていた通り、部屋が広かった。その部屋に住む事になった私と弟が、彼女に挨拶する。弟と花子さんは初対面であった。
「本当に広い部屋ですねー。花子さんの妹さん達が居ても、持て余してたって意味が実感できました」
弟は照れているのか何なのか、ろくに口を開かない。取りなすように、私がそう言った。
「私が広島に、東京から越してきたって言ったでしょ? 私は長女なんだけど、以前から次女が広島で働いていたのよ。それで私が、次女に連絡して、『家賃を折半するから、一緒に、もっと広いマンションに住まない?』って提案したの。元々、仲も良かったから承諾して貰えたわ」
弟への説明も兼ねて、あらためて花子さんが話してくれる。ちなみに花子さんは三人姉妹で、一番下の妹さんは、私と同年代だ。その三女も今、広島の大学に通っている。三人姉妹と私は、既に何度も会って仲良くなっていた。
「姉妹で仲が良いって素敵ですね。それで一緒に、広島に居るんですから。羨ましいです」
「その分、両親とは上手く行かなくなっちゃったけどね。貴女も弟さんも、御両親とは仲が良かったんでしょう? 私は私で羨ましいな」
花子さんは長く東京で暮らしていた。その東京で、花子さんは最後まで御両親との関係を改善しようと試みたようだ。そして両親から冷たく扱われた長女の花子さんは、二人の妹さんからは逆に慕われるようになった。若い世代の妹さん達は偏見からも自由だったのである。
「私も弟も、そして花子さんにも辛い事はありましたけど。でも、あえて言います。きっと私達は、運が良かったんです。だって今、こうして一緒になれたんですから」
きっと同性婚は、まだ日本では当分、法整備は進まない。花子さんの両親の偏見は無くならないかも知れない。私達を囲む偏見というものは長く続くのだろう。
私の両親が生きていてくれたら良かったと思う。私を拒絶したとしても、それでも私は、ただ両親に生きていてもらいたかった。その望みは叶わない。
それでも私には弟が居た。両親が亡くなった後も生き続けようと思える理由、眼に見える存在。弟が居たから、私は花子さんと出会うまで生き続けられた。そして今、これからの人生に私は希望を持っている。生き続けて行きたいと心から思える。
両親が弟を遺してくれた。私を生かしてくれた愛が、弟という姿で傍に居続けてくれたように私は思う。だから私は、弟にも花子さんにも愛を返し続けて生きていく。
「愛してます、花子さん。勿論お前の事もね、弟くん。じゃけぇ、これからもよろしくお願いします」
つい広島弁が出てしまった。花子さんの妹も広島弁だし別にいいか。弟は相変わらず黙ったままで、花子さんは思いっきり照れていた。ただ素直な気持ちを伝えただけなのにな。
「……若いって凄いわ。できれば明日の式も、そんな風に、お願いね」
そう花子さんが言う。私達は明日、小さいながらも結婚式を行う。式には弟と、花子さんの妹達が来てくれる。広島にもLGBT向けの結婚式ができる場所はあるのだ。ついでに言えば、憲法上、日本で同性婚は禁止されていない。
「付き合い始めの頃、ファミレスでのデートで、私の頭を撫でてくれた事を覚えてますか花子さん。あの時、言ってくれましたよね。『世の中は悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ、良い方にも変わる』って。その通りだったなぁ」
私が顔を真っ赤にして、花子さんに頭を撫でられた、あの二〇二〇年末のデートから間もなくの事だった。二〇二一年の初め、広島市ではパートナーシップ制度が開始されたのだ。私達のような同性カップルも、ある程度の行政サービスが受けられるようになった。
好きな同性と幸せになる事。それが社会から受け入れられるようになってきたようで嬉しい。でも、まだ全然、異性同士の結婚みたいには行かない。私は太々しく、もっともっと幸せになっていこうと思う。
「来年のG7は、日本で行われるわね。広島が候補地の一つになってるらしいわよ、岸田首相の故郷だし。広島から日本が変わっていくかもね」
そう花子さんが言う。私に難しい事は分からないが、来年、G7という先進国首脳会議が日本で行われるそうだ。今年は広島への原爆投下から七十七年目で、新しい時代に向けての話し合いが行われるには良い時期かも知れない。どうか同性愛者の権利に付いても話し合われますように。
「ようこそ、君が弟さんね。これから仲良くして行きましょう」
花子さんが住んでいるマンションは、事前に知らされていた通り、部屋が広かった。その部屋に住む事になった私と弟が、彼女に挨拶する。弟と花子さんは初対面であった。
「本当に広い部屋ですねー。花子さんの妹さん達が居ても、持て余してたって意味が実感できました」
弟は照れているのか何なのか、ろくに口を開かない。取りなすように、私がそう言った。
「私が広島に、東京から越してきたって言ったでしょ? 私は長女なんだけど、以前から次女が広島で働いていたのよ。それで私が、次女に連絡して、『家賃を折半するから、一緒に、もっと広いマンションに住まない?』って提案したの。元々、仲も良かったから承諾して貰えたわ」
弟への説明も兼ねて、あらためて花子さんが話してくれる。ちなみに花子さんは三人姉妹で、一番下の妹さんは、私と同年代だ。その三女も今、広島の大学に通っている。三人姉妹と私は、既に何度も会って仲良くなっていた。
「姉妹で仲が良いって素敵ですね。それで一緒に、広島に居るんですから。羨ましいです」
「その分、両親とは上手く行かなくなっちゃったけどね。貴女も弟さんも、御両親とは仲が良かったんでしょう? 私は私で羨ましいな」
花子さんは長く東京で暮らしていた。その東京で、花子さんは最後まで御両親との関係を改善しようと試みたようだ。そして両親から冷たく扱われた長女の花子さんは、二人の妹さんからは逆に慕われるようになった。若い世代の妹さん達は偏見からも自由だったのである。
「私も弟も、そして花子さんにも辛い事はありましたけど。でも、あえて言います。きっと私達は、運が良かったんです。だって今、こうして一緒になれたんですから」
きっと同性婚は、まだ日本では当分、法整備は進まない。花子さんの両親の偏見は無くならないかも知れない。私達を囲む偏見というものは長く続くのだろう。
私の両親が生きていてくれたら良かったと思う。私を拒絶したとしても、それでも私は、ただ両親に生きていてもらいたかった。その望みは叶わない。
それでも私には弟が居た。両親が亡くなった後も生き続けようと思える理由、眼に見える存在。弟が居たから、私は花子さんと出会うまで生き続けられた。そして今、これからの人生に私は希望を持っている。生き続けて行きたいと心から思える。
両親が弟を遺してくれた。私を生かしてくれた愛が、弟という姿で傍に居続けてくれたように私は思う。だから私は、弟にも花子さんにも愛を返し続けて生きていく。
「愛してます、花子さん。勿論お前の事もね、弟くん。じゃけぇ、これからもよろしくお願いします」
つい広島弁が出てしまった。花子さんの妹も広島弁だし別にいいか。弟は相変わらず黙ったままで、花子さんは思いっきり照れていた。ただ素直な気持ちを伝えただけなのにな。
「……若いって凄いわ。できれば明日の式も、そんな風に、お願いね」
そう花子さんが言う。私達は明日、小さいながらも結婚式を行う。式には弟と、花子さんの妹達が来てくれる。広島にもLGBT向けの結婚式ができる場所はあるのだ。ついでに言えば、憲法上、日本で同性婚は禁止されていない。
「付き合い始めの頃、ファミレスでのデートで、私の頭を撫でてくれた事を覚えてますか花子さん。あの時、言ってくれましたよね。『世の中は悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ、良い方にも変わる』って。その通りだったなぁ」
私が顔を真っ赤にして、花子さんに頭を撫でられた、あの二〇二〇年末のデートから間もなくの事だった。二〇二一年の初め、広島市ではパートナーシップ制度が開始されたのだ。私達のような同性カップルも、ある程度の行政サービスが受けられるようになった。
好きな同性と幸せになる事。それが社会から受け入れられるようになってきたようで嬉しい。でも、まだ全然、異性同士の結婚みたいには行かない。私は太々しく、もっともっと幸せになっていこうと思う。
「来年のG7は、日本で行われるわね。広島が候補地の一つになってるらしいわよ、岸田首相の故郷だし。広島から日本が変わっていくかもね」
そう花子さんが言う。私に難しい事は分からないが、来年、G7という先進国首脳会議が日本で行われるそうだ。今年は広島への原爆投下から七十七年目で、新しい時代に向けての話し合いが行われるには良い時期かも知れない。どうか同性愛者の権利に付いても話し合われますように。
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