秋の陽気（ようき）

プロローグ

　元夫もとおっとが先月せんげつ、亡なくなった。離婚りこんしたのは何年なんねんも前まえで、六十才ろくじゅっさいにもならず世よを去さったのは不ふ摂生せっせいのせいだ。以前いぜんから入院にゅういんしていたので驚おどろきはなかった。

　私には長男ちょうなんと長女ちょうじょがいて、それぞれ三十代さんじゅうだいである。長男ちょうなんの職業しょくぎょうが、元夫もとおっとと同おなじ業種ぎょうしゅだったので、その長男ちょうなんを通とおして私はア・レ・と連絡れんらくを取とり合あってはいた。長男ちょうなんは独身どくしんで、長女ちょうじょは結けっ婚こんしている。今いまの私は清掃せいそう業ぎょうに就ついていて、一人ひとり暮ぐらしであった。

　元夫アレの初七日しょなのかは先月せんげつに行おこなっていて、そのときはあまり親戚しんせきも来きていない。アレには親戚しんせきがいなかったというのも理由りゆうの一ひとつだ。私の一族いちぞくは皆みな、地方ちほうの同おなじ県内けんないにいるのだが、県内けんないといっても無駄むだに広ひろい。電車でんしゃも一いち時間じかんに一本いっぽんしか走はしらないような田舎いなかでは、親戚しんせきが集あつまるタイミングというのも取とりにくいのだった。

「では、読経どっきょうを始はじめさせていただきます」

　菩提寺ぼだいじというのか檀那寺だんなでらというのか、そこの気きのいい僧侶そうりょがそう言いって、私たちは頭あたまを下さげる。今日きょうは前倒まえだおしの四十九しじゅうく日にち法要ほうようで、時期じきは九月くがつ半なかばの昼ひるどきだ。明日あしたからは三さん連休れんきゅうが始はじまるということで、久ひさしぶりに会あう親戚しんせきも集あつまってくれていた。天気てんきも良よくて何なによりである。

　親戚しんせきは私も含ふくめて、皆みなが洋装ようそうの喪服もふくだ。まだ残暑ざんしょは続つづいていて、この暑あつさで着物きものなんかを着きるのは馬鹿ばかげていた。アレには人望じんぼうなんか無なかったので当然とうぜんである。私の長男ちょうなんや、同どう世代せだいの男だん性せいは白しろシャツで済すませている。

　他ほかの寺てらがどうかは詳くわしくないが、ここでは椅子いすが用意よういされていて、クーラーが効きいた屋内おくないで読経どっきょうが行おこなわれている。一昔前ひとむかしまえのように、参列さんれつ者しゃが正座せいざを強きょう要ようされることもない。正座せいざをするのは僧侶そうりょだけだった。気分きぶんは快適かいてきそのもので、いつか私の葬式そうしきも、こんなふうに行おこなわれると良よいと思おもう。