ホームラン侍、参上!

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「ホームランざむらい参上さんじょう! かかってきな、野郎ども!」

 今日も円形競技場で、半そでに半ズボン姿の彼女が名乗りをあげる。この施設が以前に、どのような用途で使われていたのかを知るものは現在、存在しない。戦争で世界が崩壊するよりもはるか以前から、世界は分断化が進み、多くの文化がすたれていったといわれている。競技場に屋根はなく、雨の日には興行も中止となる。

 晴天のなか、比較的に裕福なものたちが、観客席からオペラグラスで競技場の中央を眺めていた。そこにはさきほど名乗りを上げた少女を含め、十人ほどの姿がある。十人というか、十体じゅったいというか。皆が身体を機械化していて、生身の部分は機械よりも少ない状態だ。

『では、本日の最終決戦! 始め!』

 場内にアナウンスが流れて、中央の全員が動き出した。ほぼ皆がたけ、二メートルを超えている。例外はホームラン侍を自称する短髪少女だけで、彼女は一六〇センチほどしかない。

「今日も彼女の勝ちだ」

 観客の一人がつぶやく。その瞬間、機械人間が一体、観客席近くまで水平に吹っ飛んできた。ホームラン侍が、自前の武器である金棒かなぼうを振りぬいたのである。ボディを破壊された哀れな被害者は、ちゅどーん、と音を立てて爆発する。競技場が狭ければ観客にまで被害が及んでいたところだ。

『打ったぁー! 今日もホームラン侍が、でかい当たりを出しましたー!』

 決戦の様子は、外の街頭がいとうラジオにも伝えられる。競技場に入れないものたちは、ラジオを上に置いた小さな塔の周囲にむらがっているのがつねだ。侍と呼ばれる彼女は、この地域では他に並ぶものがないほどの人気であった。

『ヒット! ヒット! ヒット! 次々とホームラン侍が、ぶっ飛ばしていきます。だめだ、こりゃー!』

 アナウンスもあきれるほどの実力差である。競技場での決戦は、重火器の使用が禁止されていて、それ以外はなんでもありだ。ホームラン侍は他の競技者に比べれば軽装で、防御力は大したことがない。彼女の強さは、攻撃力と速さにぜんりした結果であった。

 ただ金棒を持って、助走をつけて標的を打ち、振りぬいて吹っ飛ばすだけである。シンプル過ぎて、逆に誰も対策を思いつけない。決して曲がらない金棒の頑丈さも、強さの一因いちいんだといえた。

「今日も圧勝ですか。儲けさせていただきましたな」

「ええ、まったく。ホームラン侍のおかげですな」

 競技場で行われる決戦とは賭け試合で、今日もホームラン侍に賭けていた観客たちには電子マネーが振り込まれる。まともな決戦では勝負にならないので、最近は複数の機械人間が彼女一人と戦う形式となっているが、未だにホームラン侍は無敗であった。

 爆発炎上した競技者が担架で運ばれる。幸か不幸か、身体の大半が機械なので、部品を取り換えれば修理は可能だ。競技場で戦っているのは犯罪者まがいの連中が多いのだが、最近はホームラン侍に勝つことを目指して競技に専念しているものも多いと聞く。平和になるのは良いことだ。

 外のラジオ塔の周囲からも人々は立ち去り、夕日が暮れる。明日からの劣悪な労働にも耐えられるような、希望を世界に与えられる存在。ホームラン侍とは、そういう少女であった。
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