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第3章 それぞれの春
たたかいすんで
しおりを挟むさよりは無事、受験した2校ともに合格し、めでたく県学生寮への入寮もかなった。
このことは松崎には知らせていないが、合格だけは(多分、和美経由で)知ったらしく、「おめでとうございます」という長い長い手紙が届いた。
その和美も千葉にある大学に合格した。彼女はたまたま大学の近くに住んでいる親戚に家に下宿する予定らしいが、どちらかというと、そこから通いやすい大学を受験したように見えた。
さよりは東京でどこに住むかは教えていないが、いろいろと落ち着いたら、連絡を取る方法は考えよう――程度に考えていた。
しかし、この「工作」も無駄だった。
和美がたまたまさよりの不在中に家に電話をよこした際、さよりの母が、雑談で県の学生寮のことを話してしまった。
となると、「さよりさんの東京で連絡先を知らないか?」とせっついてくる松崎に、「知ってても教えないよ。というか県の学生寮だし」と、深く考えずに話してしまった。
学生寮など、人の生活空間でありながら、公共の施設でもある。住所も電話番号も簡単に調べられてしまうのだから、和美は「教えないよ」といった舌の根も乾かぬうちに、無意識に大ヒントを投下していたのだ。
かくして、1987年春4月。
さよりも学校生活に慣れ始めてきた頃、松崎から寮気付でこんな手紙が届いた。
「俺は日日新聞の新聞奨学生になって、紹介してもらった予備校に通うことになりました。今年1年傘張り生活(※浪人のこと)ですが、1年で済まなかったりして。ハハハ。
ところで、なぜ最大手のあかつき新聞でも、家で取っていた大日本新聞でもなく、日日新聞を選んだかというと(以下略)」
何のことはない、「三大全国紙」と呼ばれるその中で、松崎の選んだ日日新聞が、最も発行部数(公称)が少なかったからという理由だそうだ。
といっても、800万部>600万部程度の話なので、新聞奨学生の仕事が過酷なのは想像に難くない。
最後まで手紙を読まなかったさよりでも、「自分にはとても務まらない。偉いなあ」という淡い尊敬の念と、「というか、あの人に務まるんだろうか?」という余計なお世話の疑念が湧いた。
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