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第8章 恋愛観的なもの
さより
しおりを挟む松崎の思惑はともかくとして、水野さよりは卒業後は、地元で公務員になることも選択肢の一つとして考えていた。
できたら司書教諭の資格を取りたいと思ってはいる。あとはワープロやパーソナルコンピューターにも触れておいた方がいいかもしれない(※1987年頃はこんな感じでした)。
常緑の就職実績はまずまずではあるが、実務型というより、お嬢さん学校とも言われることがあるくらいで、都心部の裕福な家の娘さんが、強力なコネをもって「いいところ」に収まっているという現実もある。
確かにそういう環境はうらやましいけれど、うらやんだところで自分は自分でしかない。できることをやらなくちゃ、と前向きに考えていた。
◇◇◇
ただ就職に関しては、もしも俊也との仲が進展した場合、何も考えずに帰郷するのは気持ち的に難しくなるだろう。
今のところ、俊也が自分に悪い感じを持っていないことだけは何となく分かっている。思いきって電話したときも、10時前には寮まで送り届け、「また土曜日にね」と、暗闇の中で白い歯を見せて笑ったし、土曜日は土曜日で、再びそんな感じで紳士的にエスコートしてくれて、本当に楽しかった。
男女交際らしい交際をしたことがないさよりには、「進展」の意味は、実はよく想像できない部分も多い。
「二人きりになって、男女の関係になる」
何らかの本や雑誌で読んだり、いわゆる発展家の友達の話などを聞いて、ぼんやりとした像のようなものはあるが、俊也と自分が――と考えると、頭がぼうっとしてしまうし、こんなイヤらしいことを考えたら嫌われてしまうのでは?という不安も湧いてくる。
(でも、俊也さんとなら…)
それがいつになるかは分からないが、いつかそんな日が来たら、受け入れたいという心づもりだけはできているつもりだった。
電話当番や、実家や友人からの電話を取り次がれたときに、例の受話器ホルダーが目に飛び込んできて「あ…」と思った瞬間は別として、さよりの中に、松崎という男の居住スペースほぼなかった。
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