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職業差別になるやもしれぬ
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私がまだ20代後半で、速記士として会議の現場に出ていた頃のことです。
その日は市内でも高級として鳴らしていた某ホテルでの仕事でした。市長が出席していたこともあり、新聞など数社の取材が入っていました。
(なお、何の会議だったかはまーったく覚えておりません)
終了後、なぜか会議のコーディネーターから、「1階のカフェレストランでごちそうします」という声がけがあって、夕方の5時台という中途半端な時間にご飯を食べるはめになりました。
実家に預けていた娘のことも心配だし、断ろうかと思ったのですが、何となくの空気の流れでご相伴にあずかることに。
1人でちゃっちゃと食べて…と思ったのですが、取材に来ていた記者たちと同じテーブルにぶっ込まれ、ちょっとした会食になりました。
ミックスフライだのコンソメスープだの、どっちかというとランチ色の強いものでしたが、堅苦しい食事よりは気楽でよろし。高級ホテルなので、食後のコーヒーは最高に美味でした。
私の隣に座っていたのは、30代と思しき地方紙の記者でしたが、私は諸般の事情により、仙台の会社から派遣されていることになっていた(ウソではないのですが)ので、気を使って仙台の話題をあれこれと振ってこられました。
しかしゴリゴリの地元密着型。仙台には仕事でぐらいしか行かない私はろくな返事ができません。いたたまれなくなって(なぜか仙台市民だと言い張れと会社から言われている)説明したところ、「そうですか。聞かなかったことにします」と、如才ない調子で微笑んでくださいました。おお、さすがは新聞記者。実に柔軟です。
すると特に話すこともないし、黙々と食べるだけ。
私以外の人たちは顔見知りの気楽さからか、最近起きたばかりの事件の話題を持ち出しました。
幼い女の子が地元のキャンプ場施設で行方不明になり、死体で発見されたという痛ましい事件でした。
地元で起きた事件というのは、いわゆる「六次の隔たり」どころか二次・三次の隔たり程度で訳知り顔の人物に行きあたったりします。
女の子の母親が学校の先生で、大変しつけが厳しく、女の子が過去に粗相をしたとき、罵倒レベルのしかり方をしていた――みたいな話は、うわさ程度ですが聞いていました。
その女の子は「トイレに行く」と言った後消息を絶ったため、過去の罵倒が尾を引いて、トイレに間に合わずに漏らしてしまい、戻るに戻れなくなっていたところで被害に遭ったのでは? という憶測が飛んでいたようです。
とうぜん記事には「トイレに行くといって(以下略)」程度しか書いていませんでしたが、記者たちは「粗相」「失禁」「おもらし」的な言葉を使っていました。
繰り返しますが、憶測ですよ、憶測。百歩譲ってそれが事実だったとして、娘さんを亡くしたばかりの母親を、そんなふうに非難がましくうわさするのも神経を疑います。
また、こんなことを言い出す方もいました。
「女の子だしなあ。ひょっとして性的な被害にも遭ったんじゃないかな」
「あー……可能性はなあ」
こうなると憶測というか、下種の勘繰りです。
私には当時、小学校入学前の娘がいたこともあり、興味本位の面白半分(に見える表情)でこんな話をされ、いたたまれない気持ちになりました。
いっそ話を振ってもらったら、「私にも小さな娘がいるので……(と、葬儀場での会話のように語尾を濁す!)」とでも言ったら、その話題をやめてもらえたかもなどと今になって思います。
「そんな話題やめてください!不愉快です!」と声を張って拒絶できるほどの関係性でもないので、「アーアーキコエナイ」とやり過ごすのみでした。
かような話をなぜか唐突に思い出し、さらに重要なことに今頃気づきました。
そもそもあの記者たちは、会食の席で「殺人事件」「失禁」「レ〇プ」といったことを話題にすることに、少しもためらいがなかったのでしょうか?
私はあのとき、母親の振る舞いについて勝手な想像をし、あまつさえ非難がましくうわさしていることに腹が立ってしようがなかったのですが、それ以前の話じゃないの、こんなん。
(きっとそういう神経じゃないと、新聞記者なんか務まらないんだね、ふんっ)
いや、もちろん全ての記者がそうだとは言いません。
私という部外者がいることを少しでも意識してもらえたら、そんな話題は出さなかったかもしれないので、私の影があまりにも薄かったことも悪く働いてしまったのでしょう。
***
もう一つ、地元で起きた事件絡みのお話を。
男子高生が交際中の女子生徒を殺してしまったという事件が、その少し後に起きました。
これは私の母からの情報で(母ちゃん……)、やはり「何だかなあ」なうわさは聞いていました。
男子生徒は「イケメンモテ男君」「母親は奔放な女性」「心優しく賢い子で、保育士志望」とのことです。
被害者である女子生徒の顔は、被害者だからとお構いなしにさらしものでした。
どこにでもいそうな、素朴で安堵感を与える感じの女の子でした。
ここで「イメケンモテ男くん」要素が悪いほうに働きます。
つまり、「あんな子に執着しなくたってよさそうなのに」という、被害者の尊厳を踏みにじるような、最低な上に余計なお世話の話です。
さらに、実は個人的にもっと許せない話も聞きました。
とあるベラン教育関係者の分析とやらで、「あの年頃の男の子が保育士になりたいと考えるのは不健全だ。変な性的嗜好があるか、家庭的に恵まれないことが関係しているのでは?」だそうですよ、はい。
新聞にも書けない不確かな情報を面白半分に語る新聞記者たちと、偏見のかたまりみたいなベテラン教育関係者。最の低、最の悪です。
もちろん、みんながそうとは言いませんけども。
同じ属性なら「よろしくないほう」が目立ち、典型例みたいに見えちゃうのは、残念ながら世の習いです。
その日は市内でも高級として鳴らしていた某ホテルでの仕事でした。市長が出席していたこともあり、新聞など数社の取材が入っていました。
(なお、何の会議だったかはまーったく覚えておりません)
終了後、なぜか会議のコーディネーターから、「1階のカフェレストランでごちそうします」という声がけがあって、夕方の5時台という中途半端な時間にご飯を食べるはめになりました。
実家に預けていた娘のことも心配だし、断ろうかと思ったのですが、何となくの空気の流れでご相伴にあずかることに。
1人でちゃっちゃと食べて…と思ったのですが、取材に来ていた記者たちと同じテーブルにぶっ込まれ、ちょっとした会食になりました。
ミックスフライだのコンソメスープだの、どっちかというとランチ色の強いものでしたが、堅苦しい食事よりは気楽でよろし。高級ホテルなので、食後のコーヒーは最高に美味でした。
私の隣に座っていたのは、30代と思しき地方紙の記者でしたが、私は諸般の事情により、仙台の会社から派遣されていることになっていた(ウソではないのですが)ので、気を使って仙台の話題をあれこれと振ってこられました。
しかしゴリゴリの地元密着型。仙台には仕事でぐらいしか行かない私はろくな返事ができません。いたたまれなくなって(なぜか仙台市民だと言い張れと会社から言われている)説明したところ、「そうですか。聞かなかったことにします」と、如才ない調子で微笑んでくださいました。おお、さすがは新聞記者。実に柔軟です。
すると特に話すこともないし、黙々と食べるだけ。
私以外の人たちは顔見知りの気楽さからか、最近起きたばかりの事件の話題を持ち出しました。
幼い女の子が地元のキャンプ場施設で行方不明になり、死体で発見されたという痛ましい事件でした。
地元で起きた事件というのは、いわゆる「六次の隔たり」どころか二次・三次の隔たり程度で訳知り顔の人物に行きあたったりします。
女の子の母親が学校の先生で、大変しつけが厳しく、女の子が過去に粗相をしたとき、罵倒レベルのしかり方をしていた――みたいな話は、うわさ程度ですが聞いていました。
その女の子は「トイレに行く」と言った後消息を絶ったため、過去の罵倒が尾を引いて、トイレに間に合わずに漏らしてしまい、戻るに戻れなくなっていたところで被害に遭ったのでは? という憶測が飛んでいたようです。
とうぜん記事には「トイレに行くといって(以下略)」程度しか書いていませんでしたが、記者たちは「粗相」「失禁」「おもらし」的な言葉を使っていました。
繰り返しますが、憶測ですよ、憶測。百歩譲ってそれが事実だったとして、娘さんを亡くしたばかりの母親を、そんなふうに非難がましくうわさするのも神経を疑います。
また、こんなことを言い出す方もいました。
「女の子だしなあ。ひょっとして性的な被害にも遭ったんじゃないかな」
「あー……可能性はなあ」
こうなると憶測というか、下種の勘繰りです。
私には当時、小学校入学前の娘がいたこともあり、興味本位の面白半分(に見える表情)でこんな話をされ、いたたまれない気持ちになりました。
いっそ話を振ってもらったら、「私にも小さな娘がいるので……(と、葬儀場での会話のように語尾を濁す!)」とでも言ったら、その話題をやめてもらえたかもなどと今になって思います。
「そんな話題やめてください!不愉快です!」と声を張って拒絶できるほどの関係性でもないので、「アーアーキコエナイ」とやり過ごすのみでした。
かような話をなぜか唐突に思い出し、さらに重要なことに今頃気づきました。
そもそもあの記者たちは、会食の席で「殺人事件」「失禁」「レ〇プ」といったことを話題にすることに、少しもためらいがなかったのでしょうか?
私はあのとき、母親の振る舞いについて勝手な想像をし、あまつさえ非難がましくうわさしていることに腹が立ってしようがなかったのですが、それ以前の話じゃないの、こんなん。
(きっとそういう神経じゃないと、新聞記者なんか務まらないんだね、ふんっ)
いや、もちろん全ての記者がそうだとは言いません。
私という部外者がいることを少しでも意識してもらえたら、そんな話題は出さなかったかもしれないので、私の影があまりにも薄かったことも悪く働いてしまったのでしょう。
***
もう一つ、地元で起きた事件絡みのお話を。
男子高生が交際中の女子生徒を殺してしまったという事件が、その少し後に起きました。
これは私の母からの情報で(母ちゃん……)、やはり「何だかなあ」なうわさは聞いていました。
男子生徒は「イケメンモテ男君」「母親は奔放な女性」「心優しく賢い子で、保育士志望」とのことです。
被害者である女子生徒の顔は、被害者だからとお構いなしにさらしものでした。
どこにでもいそうな、素朴で安堵感を与える感じの女の子でした。
ここで「イメケンモテ男くん」要素が悪いほうに働きます。
つまり、「あんな子に執着しなくたってよさそうなのに」という、被害者の尊厳を踏みにじるような、最低な上に余計なお世話の話です。
さらに、実は個人的にもっと許せない話も聞きました。
とあるベラン教育関係者の分析とやらで、「あの年頃の男の子が保育士になりたいと考えるのは不健全だ。変な性的嗜好があるか、家庭的に恵まれないことが関係しているのでは?」だそうですよ、はい。
新聞にも書けない不確かな情報を面白半分に語る新聞記者たちと、偏見のかたまりみたいなベテラン教育関係者。最の低、最の悪です。
もちろん、みんながそうとは言いませんけども。
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