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第3話 【ヒロイン目線】目は口ほどに物を言う
憧れのOB
しおりを挟む国府田智彦さんと初めて会ったのは、私が所属するクイズ研究部の「OBを囲む会」だった。
毎年夏にテレビ放送もされる高校生向けの競技クイズの番組「クイズバトル・ハイ」(ちょっと侮蔑的に「クイ廃」なんて略される)に、高校1年生のとき我が県代表として出場したのをきっかけに、今の部活の前身だった同好会を立ち上げたんだけど、3年生までには部活まで昇格させちゃったすごい人だ。
まあこれも、成績優秀な顔見知りの上級生にうまいこと言って名前だけ借りて、その人たちが続々有名大学に合格したことも「実績」として強弁した、なんてうわさされてるけど、結果を出したことに変わりはないと思う。
おかげで今の私たちの楽しい部活があるんだし、それで認めた学校がぬるかっただけじゃん。
私は子供の頃から少し難しい本を読んで、人と違うことを知るのが大好きだったし、クイズ番組をよく見ていた。両親そろって好きというせいもあるけど。
ただ、有名なスポーツ選手の記録とか、日本の芸能人の名前を憶えるのが苦手で、主に文学系の問題を得意としている。
あと、勉強の理系科目は苦手なんだけど、クイズで出る「科学」って言われる分野は、記憶で何とかなる上に、そこまで深い知識は求められないので、割と嫌いじゃない。
要するに、ベルヌーイの定理を自分の言葉で説明はできないけど、ダニエル・ベルヌーイがどこの国の人かは知っている、みたいな感じ。
◇◇◇
さてさて、そのOBを囲む会で、なんと国府田さんの方から私に声をかけてきてくれた!
国府田さんは野球、サッカー、格闘技に至るまで、とにかくスポーツの知識がすごいらしい。
実際に話してみると、結構初歩的な文学や歴史の問題で勘違いも多いんだけど、全然(いやうそ、あんまり)気にならなかった。優しい笑顔がすてきで、話が面白いから全部許しちゃう。
当時1年生だった私が国府田さんと話していたら、先輩に、「そいつ絶望的なスポーツ音痴なんで、いろいろ教えてやってくださいよ」って茶々を入れられた。
「じゃ――ってわけでもないけど、もっといろいろ話したいから、連絡先とか交換しようか?」
そんな流れで、LINEで雑談したり、問題を出し合いっこしたりするようになった。
「俺のことも下の名前で呼んでね、五月ちゃん」と言われたので、遠慮なく「智彦さん」と呼ぶようになった。
◇◇◇
ところで、さっきも出てきた「クイ廃」って、実は1980年代前半、昭和の頃から続く歴史の長いクイズ番組なんだけど、始まったばかりの頃は、ちょっとほかより物知りだったり、勝負強い感じの人が勝ち上がりやすい程度で、企画もいろいろあって面白かったらしい。
「ハイ」の代わりに「廃」なんて言われるようになったのは、競技クイズガチ勢というか、どこかある意味廃人めいたプレイヤーが多く出るようになったからって言われる。自虐と、外からの侮蔑と両方のニュアンスかな?
今みたいなスタイルのガチバトルも決して嫌いじゃないんだけど、芸能人ゲストは余計かな。その芸能人ファンの人たちには悪いけど。「すごーい」しか感想言わないし、ワイプで抜かれた表情がわざとらしくてイライラすることある。
うちの両親が子供の頃見てて、特に印象に残った企画についてよく話してくれたから、その動画を動画サイトで探したけど、残念ながら見つかんなかった。
智彦さんに話したら、「すごいすごい!」って大興奮だったので、これみたいですよって見せられないのが本当に残念だけど。
それは東京の「ヤン・ヨーステン書店」全館を番組で借り切った企画で、まず3つの問題が出される。その答えをプレーヤーが書店中の本を使って調べてきて、正解が3つそろったところで、その3つから連想されるものを答え、それが本当の「正解」というものだったんだって。
「それって要するに、人間インターネットって感じだよね?」
「ああ、そういう言い方もできますね。親もワクワクして見てたって言ってました」
「ぜひ見たいなあ。一般視聴者の番組だから、ソフト化も難しいんだろうけど」
嫌らしい言い方になるけど、実は私は結構男の子にモテる方だ。
でも、こういう話でワクワクしてくれる人じゃないと、お付き合いする気にはなれない。運動部のレギュラーとか、イケメンとかではあんまりときめかないのだ(顔は良いかどうかより「好きになれるかどうか」が大事だけど)。
サッカー部の人気者とか、テニス部のスターより、クイ研の先輩の方がまだ素敵だな、なんて思っていたくらい(智彦さんに会うまでは)。
◇◇◇
智彦さんは大学生だし、恋人とかもいるかもしれないと思っていた。
うちの部活は女の子自体少ないけれど、全員に一応感じよく接していて、でも、後から聞いたらLINEの交換をしたのは私だけだった。
智彦さん、私のことは気に入ってくれたってこと?それならすごくうれしい。
彼氏にするなら優しくて物知りの人がいいなってずっと思っていたし。
私と智彦さんとのやりとりは、部活とは別のところで続いていたけれど、何度「カノジョさんが~」って話題を出しても、いるともいないともはっきり言わない。
でも絶対、私のことが嫌いではないと思う。だって彼の目の真ん中に、きれいに私の姿が映ってるもんね(というくらい、私も彼の目をじっと見てたってことだけど)。
で、思い切って「好きです」って伝えたら、「君のことは嫌いじゃないけど、高校生とは付き合えない」って言われちゃった。
ちょっとショックだった。好き(というか嫌いじゃない)と言われただけでは満足できない。やっぱりお付き合いしたい。
でも、前向きに考えれば、高校さえ卒業できればこっちのものってことだ。
うちの高校は9割ぐらいは進学する。
わずかな就職組の人も、公務員試験を受けるか、縁故で世話をしてもらう人が多いらしい(by進路委員体感)。
私も高校入学時から普通に大学進学を考えていたんだけど、智彦さんとやりとりをするようになった1年の10月ぐらいから、短大にしようかなと思うようになった。
智彦さんが留年しないで卒業したとすると(してほしくはないし)、1年だけブランクはできちゃうものの、できるだけ彼と同じ立場になりたいのだ。
こういう職に就きたいとか、こういうところで働きたいとかは全くなくて、とにかく「智彦さんと並びたい」というのが、今の私の希望進路なのだ。
進路面談のとき、「四大は私には長過ぎる」って担任の桐本先生に言っちゃって、ちょっとだけ深掘りされそうになったけど、すぐ引いてくれた。
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